日銀のデフレ脱却政策は本物か
日本銀行こと、日銀が14日の金融政策決定会合で追加金融政策を発表しました。実質上のインフレ目標1%と資産買い入れなどの基金を10兆円積み増しました。
具体的な骨子として、当面は消費者物価指数の上昇率1%を目指すこと。1年ごとに物価が安定しているかどうかを点検すること。ゼロ金利を当面維持し、デフレ脱却に向けて政府、民間企業、民間金融機関が協力していく旨が述べられています(日本銀行「金融緩和について」)。
デフレ脱却と追加金融緩和という姿勢を強く打ち出したことは、これまでの消極的な日銀からすれば大いなる進歩と言えるでしょう。
また、インフレ目標の導入をかたくなに拒否していた白川方明日銀総裁の「豹変」も大いに注目されることです。
この裏では、先月インフレ目標を決定した米連邦準備理事会(FRB)の動向があるのは間違いありません。同時に、10月から12月のGDPが2期ぶりのマイナス成長となったことへの緩和措置もあります。
もう一点、特筆するべき点があります。1月末に発売となった『日銀総裁とのスピリチュアル対話』の発刊、幸福実現党の党員や学生によるビラまきが徹底して行われていた事実を無視することはできません。
もちろん、かねてから日銀の金融政策を批判してきた嘉悦大学の高橋洋一教授や学習院大学の岩田規久男教授のような学者の存在、デフレ脱却を政府に進めてきた評論家の活動もあります。
こうした地道な活動が日銀を動かしてきたことは事実であり、ある意味一定の成果につながっているのは間違いないのです。
日銀の政策が発表されたことで外国為替市場も反応しています。14日午後の円相場は円売りドル買いが進み、一時は1ドル78円を超えました。それまでは、77円付近だった水準から円安が進んだことになります。
東京市場で78円を記録したのは昨年末の12月27日以来です。加えて、海外の外国為替市場でも1ドル78円台を記録、ユーロに対しても103円台まで円安が進んでいます。
今後、日銀が徹底した金融政策を断行するならば、さらに為替相場に影響を与え、次は株式市場へも影響を及ぼすと考えられます。
ただし、今回の日銀の金融政策を手放しで喜ぶことは慎むべきです。まず、デフレ基調は1998年から始まっており、まだ改善されていません。さらに、昨年は東日本大震災や原発事故、円高の高進、失業率の上昇などが明確になっています。
雇用が24万人創造され、失業率が下がったアメリカ経済でも、まだまだ回復の途次にあります。欧州は、ギリシャ債務危機によって揺れており、内外の経済情勢が厳しさをます昨今、今回の日銀の決定は遅すぎたと言っても過言ではありません。
もう一点、資産の買い取り基金として10兆円を積み増したわけですが、これでは物足りないということです。現在、デフレギャップは20兆円以上あるとの試算があるわけですから、日本経済を震災復興から回復させるためには、10兆円では少なすぎます。
また、実際に10年物などの長期国債を購入するかどうかも甚だ疑問です。これまでの日銀の行動を見る限り、基金は積み上げたが実際に購入するかどうかは極めて未知数なのです(同様の内容をクレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミストも指摘している)。
さらに、FRBのようにいつまで金融緩和を続けるのかという時期が設定されていないこと。そして、政策としての拘束力がないことを指摘することができます。日銀には、イングランド銀行のように、目標を達成できなかった場合の責任問題がありません。
これは、1998年に日銀法が改正されて、日銀が政治圧力から独立しているとう法律の問題とも関連があります。
本格的に日銀のデフレ脱却を推し進めるならば、日銀法の改正を見据えた目標設定権限を強化するべきでしょう。⇒白川総裁のデフレ独裁――政府は日銀法を改正し、金融政策の目標設定権限を確保すべき
とまれ、腰の重い日銀が動き出したことはよいことです。課題は政策のタイミングが遅いこと、資金提供の規模が小さいこと、政策の拘束がないために責任問題が曖昧なことです。
要するに、「日銀がデフレ脱却に本気かどうか」を判断するのは時期尚早だということです。
引き続き、日銀をウォッチしていく必要があるのは言うまでもありません。
(文責・中野雄太)