社会保障問題の解決策は「増税」ではなく、「デフレ脱却」と「経済成長」である
消費税率引き上げを含む「税と社会保障と税の一体改革」で、政府・民主党は大綱の月内の閣議決定を見送らざるを得なくなりました。
野田首相は三月の関連法案提出を目指し、与野党協議を経て閣議決定することを目指していましたが、与野党協議の糸口がつかめない状態にあります。
その大きな原因の一つは、1月6日に政府・与党社会保障改革本部が決定した「社会保障・税一体改革素案」の「最低保障年金7万円」にあります。⇒http://goo.gl/3mwoz
昨年6月30日、同本部が決定した「社会保障・税一体改革成案」においては「最低保障年金」という表現は見られますが、「7万円」という具体的支給額は見られません。⇒http://goo.gl/mPKFd
突如出てきた「最低保障年金7万円」は財源も示さない中途半端な内容だったため、野党からは「財源を示せ!」という追及の声が上がりました。
しかし、野田首相は最低保障年金の導入などの改革を行った場合、消費税率10%への引き上げとは別に、2075年時点で最大で消費税率7%分の財源が必要との民主党の試算について「当面非公表」としました。
この試算の存在が報道されてから、国民世論の反応はすさまじく、「国民は消費税10%の2~3年後に、さらに7%上がるとみている」(輿石氏)と、世論の反発を警戒して、急遽、試算の公表を隠蔽した格好です。(1/30 夕刊フジ「民主、今度は“年金試算”を隠蔽!選挙のため“臭いものにフタ”」⇒http://goo.gl/xS9HP)
野田首相は非公開は「隠滅ではない」と言い張っていますが、財源の試算も示さないまま、選挙対策の甘い文言を並べ、「増税が必要」だという結論だけを国民に押しつける野田首相の姿勢に対し、国民はより一層、不信感を募らせています。
そもそも、「財政状態の悪化が、社会保障制度の破綻をもたらしている」という「税と社会保障の一体改革」の大前提自体が間違っています。
ファンドマネージャーにして経済評論家の近藤駿介氏は「無責任な政治〜『適度なインフレ』を前提に設計された『現在の社会保障制度』を『消費増税』で維持すると主張する理解し難い理屈」(⇒http://goo.gl/tmvOh)と題し、下記論点を述べています(筆者要約)。
・「社会保障制度を維持するために増税しなければならない」というのが「財政再建原理主義者」の常套文句だが、「消費増税」は「社会保障制度の維持」のために何の解決策にもならない。
・2004年に自公政権下で、年金「100年安心プラン」が決定されたが、「100年大丈夫」だったはずの年金制度が僅か7年で立ち行かなくなった。その理由は同プランが3.2%という高い運用利回りを前提に設計されていたことにある。
・実際の年金運用の利回りを見てみると、平成22年度▲0.25%、直近5年間で▲0.32%、過去10年間でも+1.2%に留まっており、「100年安心プラン」の前提となる3.2%という運用利回りを大きく下回っている。
・さらに2011年度第2四半期の運用利回りは▲3.32%と悪化。こうした、年金制度設計上の運用利回りと、実際の運用実績との乖離による収支悪化が、社会保障制度の維持を困難にしている。
・素人財務相が強調している「税収の減少」が「社会保障制度の維持」を困難にしている原因ではない。
・要するに、景気低迷に伴う、賃金低下による年金保険料の収入の減少と、デフレ進行による運用利回りの悪化が年金破綻の危機をもたらしている。
・従って、政府が「社会保障制度維持」のために採るべき選択肢は「年金給付を減らす」か、「デフレからの脱却」を図り、「賃金上昇」「長期金利上昇」が起きるような経済状況を作り出すか、のいずれかである。
政府は財源も示せないまま、「増税」を国民に押し付けようとしています。社会保障の財源問題の解決策は「増税」ではなく、「デフレ脱却」と「経済成長」にあることを野田首相は全く理解していません。
幸福実現党が主張しているように、日銀が「インフレ目標」を設定し、より大胆な金融緩和を行い、迅速な「デフレ脱却」を目指すと共に、「未来ビジョン」を見据えた成長戦略の実現こそが「社会保障制度維持のための根本解決策」であるのです。
(文責・黒川白雲)