激動の東アジア――中国に「政治的統一」の口実を与えた台湾総統選
台湾の総統選が14日に行われ、現職の中国国民党(国民党)の馬英九総統が、対立する最大野党の民主進歩党(民進党)の蔡英文主席を破って再選されました。
対中融和政策によって経済的・政治的な関わりを深める国民党と、台湾の主権と独立を志向する民進党――その選挙結果は、東アジアと日本の未来に大きな影響を与える可能性があります。
私、矢内筆勝は12日から台湾に入って総統選挙を取材し、14日の投開票を見届け、帰国しました。
投開票日の天気こそ、現地は曇りと雨でしたが、選挙戦はまさに“熱い熱い闘い”でした。今回の投票率は実に74.38%。前回の選挙よりは下回ったとはいえ、文字通り、台湾を二分する激しい選挙戦が繰り広げられました。
台湾総統選は、有権者が国家元首(総統)を直接選ぶ選挙です。
台湾総統選は、中国大陸から外来して長らく独裁政治を敷いてきた「外省人」を中心とした「国民党」と、台湾出身の「本省人」を中心とした「民進党」が「台湾の統治権」そのものを争う選挙であります。
それだけに、その真剣さと激しさは、世界の選挙の中でも群を抜いています。選挙の詳しい背景や分析は、別途、ご報告させて頂きますが、本日はそのポイントを簡潔にお伝えさせて頂きます。
今回の総統選挙の争点を一言で表せば「『両岸関係』(台湾と中国との関係)をどうするか」の一点に尽きます。
これまで国民党が推し進めてきた中国との「経済的な一体化路線」を継続するのか、それとも、民進党が主張するように、台湾の「主権と独立を守る」べく、中国とは一定の距離を置くのか――まさに、台湾人自らが「台湾の未来」を選択する選挙でした。
結果、馬英九総統が勝利し、台湾は今後4年間は確実に、経済的な中国との連携を一層深めていくことになります。それは同時に、中国が台湾への経済的支配を一層強め、それをテコに将来、政治的な支配をも強めていく危険性の増大を意味します。
例えば、馬英九総統は2010年、中国とのECFT(経済強力枠組み協定)を結び、中国との経済交流を劇的に改善しました。
その結果、台湾の財閥や企業の多くが大陸(中国)に進出して合弁企業や工場を設立、現在は約100万人の台湾人ビジネスマンや家族が仕事で大陸で暮らしています。
それは確かに「台中経済交流」の深化ですが、見方を変えれば、2300万人の台湾人の20人に一人が、すでに中国の経済的「人質」にとられている、とも言えるでしょう。
そして、そうした「中台融和」の前提として存在するのが、「92年コンセンサス」(九二共識/一中各表)と言われる両岸関係に関する「政治的認識」です。
これは中国側が提案し、1992年に中台の交渉機関が確認したとされるもので、「中国は一つだが、その解釈はそれぞれ違っていてもよい」という、極めて曖昧な相互認識のことです。
つまり、「中国も台湾も、まずは『中国』は一つであることを共通の認識としよう。しかし、中国が認める『中国』とは『中華人民共和国』であり、台湾が認める『中国』は『中華民国』でいい。とりあえず、そこから交渉や交流を始めよう」というコンセンサスです。
今回の選挙で、国民党は「92年コンセンサス」を前提に「経済的な中台融和」を一層推し進めるとし、一方、民進党は「92年コンセンサス」は「中国による統一(台湾併呑)につながる」として否定するスタンスで、今回の選挙を戦いました。
今回、国民党が勝利したということは、「『92年コンセンサス』が台湾人による信任投票で認められた」という解釈を中国に許すことになったことを意味します。
既に現地では、国民党を支持するテレビ局等が選挙結果をそのように解釈し、大々的に報道しています。
つまり、中国は将来、台湾を平和裏に統一するための恰好の口実、強力な政治的武器を今回の選挙で手中に収めたことになります。
特に、中国の新国家主席に内定している習近平氏は、台湾に近い福建省の省長を務めた経歴を持ち、さらに妻の母方の叔父は台湾に暮らしていると言われ、台湾の財閥とも深い繋がりがあると推測されます。
当然、その経済力・政治力を武器に、虎視眈々と自らの手で台湾統一を仕上げようとするはずです。
そうした中国に対して、果たして馬英九総統が経済的、政治的に対峙し、台湾の主権と独立を維持することができるのか――
「民主国家」としての台湾の存在は、日本にとってまさに「生命線」です。もし、台湾が中国に併呑されるようなことがあれば、中国は台湾海峡を封鎖し、シーレーンを抑えて日本の資源を断つことができます。
そして中国は、台湾を太平洋進出のための軍事基地、「不沈空母」となし、尖閣諸島、沖縄侵攻を進めていくことが予測されます。その段階で、日本は中国の属国化を余儀なくされるでしょう。
すなわち、日本と台湾は「一心同体」の関係にあるのです。
私たち日本人は台湾に決して無関心であってはなりません。台湾の今後4年間を担う国民党・馬政権と中国の動きを注意深く見守り、日本は、かつての宗主国として、あらゆる経済的、政治的な支援と手段を講じ、台湾の自由と独立を支援していくべきです。
「天は自らを助くる者を助く」――その格言は国家においてもあてはまる、永遠の真理でもあるのです。
(文責・矢内筆勝)