復興増税は子供にツケをまわす愚策
政府による復興増税の内容が明らかとなりましたので、今回は今までに紹介してこなかった批判を試みています。
明らかとなった復興増税
東日本大震災の復興に向けて、政府税制改正調査会は16日、臨時増税3案をまとめました。
(1)国税では法人税を3年間、所得税を5年から10年間引き上げる。地方税に関しては、個人住民税を5年から10年引き上げる
(2)たばこや酒税などを増税
(3)消費税を1年半増税
なお、2011年税制改正案に盛り込まれた所得税の控除見直しも復興財源に充てることも合わせて発表されています。
これを受けて、民主党税制調査会(藤井裕久会長)でも同様の議論が行われており、増税規模は総額11兆2000億円程度を見込んでいる発表が出されました。
22日には、相続税も課税対象となることが検討され、さらなる課税範囲が拡大する可能性も指摘されています。
野田佳彦首相は、就任早々「ミスター増税」と揶揄されましたが、実は民主党で最も強固に増税路線をけん引し、理論的支柱になっているのが藤井裕久氏です。藤井裕久会長は旧大蔵省出身であり、政権交代後は財務大臣も経験しています。
民主党税調では、政府の増税案を具体的に詰める会合でもあるため、藤井氏の手腕によっては、増税はさらに拡大することも想像されます。
増税=税収増とは限らない
幸福実現党は、かねてから復興増税は間違いであることを指摘してきました。今月は、日経新聞と 産経の二紙に「復興支援とは、『増税』ではなく、『景気をよくすること』」という内容で全面意見広告を打ちました。
その中では、「増税=税収増ではない」ことを明記していますが、実際に1989年以降の税収は落ち込む一方です。
消費税は、毎年平均して10兆円規模の収入が見込める安定財源ですが、その分所得税と法人税が減りました。トータルの一般会計税収で見ても、最大時で60兆円もあった税収は、現在は40兆円程度です。
それだけ、納税できる個人と法人が減ったことを意味します。
特に、法人税を納税できない欠損法人は7割にも達しました。景気が悪くなると、儲かる企業が少なくなることを見事に証明しているデータです。
政府税調と民主党税調には、経済成長を通じて所得税や法人税の自然増収をはかる政策は皆無であり、デフレと円高対策も後手に回っています。
前述の藤井会長は、幸福実現党が主張している国債の日銀引受を断固拒否しており、白川方明総裁と歩調を合わせています。
与党は、増税の負担を緩和させるために、事業仕訳を通じた歳出削減をする姿勢やいわゆる「埋蔵金」にあたる税外収入によって増税規模を圧縮させる方針を出してはいますが、いかせんマクロ経済政策が出ていません(マクロ経済政策に関しては、『日本経済再建宣言』と全面意見広告を参照)。
このままでは子供にツケをまわすことに
ポイントは、デフレ不況下では増税は絶対にしてはいけないことです。ただでさえ、増税は経済に対してマイナスの効果をもたらせます。消費を冷え込ませ、企業活動の投資行動を停滞させます。
その結果、来年度以降の税収と成長率は低下することでしょう。
野田首相は「子供にツケをまわさない」ためにも増税が必要だと説いていますが、実際はデフレと不況が深刻化する方が、よほど将来世代にツケを残すことになります。
なぜなら、政府にマクロ経済政策がないため、デフレ不況が慢性化するからです。
さらに、税収が減っている反面、社会保障支出が毎年平均1兆円規模で増えています。国民年金に関しても、税金による国庫負担が50%となりました。
民主党は、北欧型の福祉国家を目指しているのは明らかで、このままでは国民負担率(国民所得に占める税金と社会保障負担の割合)は高くなる一方です。 ⇒http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/019.htm
民主党政権の本質は「大きな政府」です。国民の負担は増え続けるわけですから、子供へのツケは確実に大きくなっていきます。
ただ、少子高齢化社会と言っても、きちんとした政策を打てば経済成長することは可能です。成長を否定し、税金の分配ばかりを考えているならば、税金はいくらあっても足りません。
震災がなくとも、構造的に税金をたくさん使用する社会を想定している以上、野田首相は子供にツケを残す政策を行っています。
加えて、震災や原発事故によって疲弊している日本経済に対して増税をしたらどなるかは自明の理であると言えましょう。
必要以上の税金は合法的強盗
そうではなく、本当に子供にツケをまわさないためには、減税と成長を可能にすることです。
減税とは、単に税率を下げることではなく、いらない税金を廃止することも含みます。
現在、日本では、国と地方あわせて50種類程度の税金がありますこれだけの税金が本当に必要なのでしょうか。いったい、どれだけの成果を上げているのでしょうか。
納税は、国民の義務ではありますが、これだけの税金に対して国民はどれだけ承認しているでしょうか。
実は、増税は大部分が選挙のないときに国会で制定されています。増税を公約に選挙で勝つのは難しいため、大部分の政治家は選挙がないときに増税を口にします。
当然、裏で糸を引いているのは財務省であることは間違いありません。
ただ、現在は国民自体が「増税やむなし」という風潮を受け入れているので、大変危険な状態です。
このままだと、政府の復興増税に承認を与えるメッセージを送ることになり、以後「負担を分かち合う」「子供にツケをまわさない」という名目で次々と増税が可能となってしまいます。
千葉商科大学大学院の吉田寛教授は、増税は「私有財産の合法的収奪」だと説明をしています。
また、吉田教授は、アメリカの第30代大統領のカルビン・クーリッジが残した「必要以上に税を集めるのは合法的強盗である」だという名言をよく引用されています。
翻ってみれば、現在の政府が実施している復興増税は、震災を理由とした火事場泥棒的増税であり、クーリッジ大統領が指摘した「合法的強盗」を実践していると言えるでしょう。
やはり、復興支援だけではなく、将来のことまで見据えても、子供にツケをまわさないためには成長と減税を実現する豊かな社会を目指すことが大事です。
(文責・中野雄太)