米報告書が「中国の急速な軍事拡張」を警戒―中国が猛反発
中国国防省報道官は26日、米国防総省が24日に発表した「中国に関する軍事・安全保障年次報告書」について、「強烈な不満と断固たる反対」を表明し、「中国は終始、平和発展の道を歩み、防御的な国防政策を実行している」と主張しました。
中国が問題にしているのは、米国防総省が24日に発表した2011年版「中国に関する軍事・安全保障年次報告書」についてです。
同報告書は、2010年版『4年毎の国防計画見直し(QDR 2010)』を受けて報告されているもので、QDRで指摘されているアメリカの「潜在的な敵国」として、中国の軍事力を分析したものです。
同報告書は、中国は2020年までに欧米並みの近代化された軍の編成を終えることを目標としていると指摘。中国の国産空母の建造が今年中にも始まり、早ければ2015年にも就役すると予測。中国の急速な軍事拡張に警鐘を鳴らしています。
また、同報告書は、中国空軍が開発を進めている新型ステルス戦闘機「殲20」について「ステルス性能や先端航空技術、超音速用エンジンをもつ戦闘機を今後10年間に生産する野望を浮き彫りにした」と指摘。さらに、攻撃型原子力潜水艦と弾道ミサイルなどの近代化が完了すれば、相手国の水上艦艇は中国の領土から1850キロ以内に近づきにくくなると分析しています。
報告書は、中国の軍事拡張のねらいとして「(アジア・太平洋地域において)中国政府は既に台湾海峡危機以外の事態を想定して軍の態勢を整えている」と分析。尖閣諸島を含む東シナ海や、南シナ海での領土紛争を「中台問題に次ぐ優先事項」と位置付けていると警告しています。
同報告書は毎年提出されていますが、一貫して「中国の軍事力が飛躍的に向上している」ことを指摘、警告して来ました。その事例として、中国の弾道ミサイル、海軍戦力、サイバ―攻撃などを挙げ、アメリカの脅威となることを指摘して来ました。
同報告書から導かれるアメリカが取り得る戦略の一つとして、アメリカが日本から少しずつ後退していくというシナリオが、アメリカ政府や議会で真剣に論議されています。
日米関係に影響を与えてしまうため、同報告書では触れられていませんが、アメリカ軍が策定している新しい戦略においても、明らかにこれらの論議を考慮に入れていることが伺われます。
その背景にあるのは、アメリカの巨額の財政赤字と、国防費削減圧力です。
中国の国営メディアは8月6日、米大手格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が米国債の格付けを史上初めて引き下げたことを受けて、米国は「借金依存症を治す必要がある」と米国を厳しく批判。世界で最も多く米国債を保有する中国は、米国に対し構造的な債務問題に取り組み、米ドル建ての中国の資産を保全するよう要求する「あらゆる権利」を持っていると主張しました。
これは、中国が「米国が国防費を削減しなければ、米国債を売り浴びせ、米国債を暴落させるぞ」と脅迫しているに等しい行為です。
様々な要因を受け、アメリカが少しずつ日本から後退していくトレンドができつつある中で、アメリカは日本に自主防衛強化を要求してくる可能性も予測されます。
中国の急速な軍事拡張と米軍の漸次的撤退を踏まえ、日本は確実に自主防衛に向かって進まねばならない国際情勢になっていると言えます。
(文責・黒川白雲)