Home/ 藤森智博 藤森智博 執筆者:藤森智博 幸福実現党 政務調査会 「空飛ぶクルマ」で見える日本のイノベーションの限界 2021.07.14 http://hrp-newsfile.jp/2021/4107/ 幸福実現党 政務調査会未来産業部会 藤森智博 ◆JALが「空飛ぶクルマ」のサービスを2025年に実現 多くの人が夢見た「空飛ぶクルマ」の実現が間近に迫ってきました。 7月9日の日経新聞の朝刊では、一面に、JALが2025年度に「空飛ぶクルマ」で空港と観光地を結ぶサービスを開始すると報じました。また、2025年に開催される大阪・関西万博で、会場移動で「空飛ぶクルマ」を導入予定です。 政府も「空飛ぶクルマ」導入に向け、本格的な取り組みを始めています。2018年8月に経済産業省と国土交通省で共同して「空の移動革命に向けた官民協議会」を立ち上げ、ロードマップを策定しました。 「ものづくり大国・日本」としては、世界に先駆けて「空飛ぶクルマ」を開発し、日本の成長につなげたいところです。現政権もその実現に向け、大きく旗を振っていますが、「本当に成功するのか」という疑問がいくつかあります。 ◆失敗する理由(1):規制の多さ 「空飛ぶクルマ」が成功どころか、失敗しかねない理由として、日本独特の「規制の多さ」が挙げられます。 例えば、ビルの上では、原則として、ヘリコプターなどの航空機は離着陸ができません(航空法79条)。飛行場以外で、離着陸をする場合は、国交省の許可が必要です。都心のビル群の屋上にある、ヘリポートには、原則として離着陸は許可されず、緊急時以外は利用できないようになっています。 では、「屋上以外ではどうか」ということになりますが、離着陸はできます。しかし、国交省の許可に、平均して1~2週間かかるのが一般的なようです(※1)。これは、事前に予定されているケースを除いて、全く使えないことを意味します。ビジネスとしては、かなり厳しいでしょう。 なお、こうした規制は「グローバル・スタンダード」ではありません。 アメリカは、離着陸の場所に制限はなく、空港以外の離着陸を原則禁止している国は、日本を除くと、ドイツなどごく少数です(※2)。 これでは「空飛ぶクルマ」以前の問題です。ヘリコプターなどの旧来型の航空機に対しても、重い規制を課しているようでは、空飛ぶクルマの国際競争に勝ち抜くのは難しいのではないでしょうか。 ◆失敗する理由(2):脱炭素による中国への後追い 2つ目の問題は、脱炭素です。菅政権は、2030年度の温室効果ガスの削減目標を46%に引き上げました。 自動車に関して言えば、日本勢が得意なハイブリッド車(HV)の全廃などには、政府は踏み込んでいませんが、既にホンダは、HVを含めたガソリン車を全廃し、電気自動車(EV)などに切り替えると宣言しました。 非現実的な46%の削減目標を達成しようとしたら、EV化への動きは加速しそうです。また、それは「空飛ぶクルマ」にも当てはまるでしょう。 空飛ぶクルマの技術競争のうち、EVのような電気モータに注目すると、日本は既に劣勢のようです。今年の4月に発表された特許庁の調査(※3)によれば、電気モータ関連の特許の出願件数は、2018年段階で228件でした。この228件のうち、半分以上が中国勢の特許です。対して、日本は20件にも満たず、6倍以上の開きがあります。 もちろん、特許は質も大事ですが、ここまでの開きがあるのなら、既に状況は厳しいと言えます。こうした中で、日本が得意とするハイブリッドを封じるような政治発信や政策推進すべきではありません。 ◆失敗する理由(3):自由性がない、小粒な研究 さらなる問題は、政府の「こだわり」です。政府が言う空飛ぶクルマとは、基本的に「eVTOL」です。これは、電気で動き、垂直に離着陸するタイプのものになります。 つまり、ガソリンのみで動くタイプや、滑走路で飛ぶタイプは、政府の眼中にありません。ですから、研究予算はeVTOLありきとなり、法改正で利用を認める「空飛ぶクルマ」はeVTOLのみとなりかねないでしょう。 しかし、そうした政府のこだわりは裏目に出るかもしれません。6月28日にスロバキアで、歴史上初ともされる空飛ぶクルマの都市間飛行をクラインビジョン社が成功しました。 75kmを35分で飛びきったと報道されましたが、この空飛ぶクルマは、ガソリンエンジンで、滑走路から飛び立っていました。 現時点では、電気モータでは、電池が重く、航続距離が短いので、いち早い都市間飛行を実現するには、ガソリンエンジンも捨てるべきではないでしょう。 加えて言えば、政府の予算も小粒です。「空飛ぶクルマ」の今年度の研究費は、経産省系のNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の40億円ですが、これはNEDOの主要な事業のうち、わずか3%にしか過ぎません。 小粒な研究費で、自由性も乏しければ、イノベーションが起きるわけがありません。イノベーションに必要なものは、自由と試行錯誤です。大胆な規制緩和と、自由を尊ぶ科学技術政策へ転換すべきでしょう。 (※1)経済産業省(online)「第2回 空の移動革命に向けた官民協議会 資料2-5 一般社団法人全日本航空事業連合会 ヘリコプターの運行制限と程空域における運行実態について」 https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/pdf/002_02_05.pdf (閲覧日:2021.7.12) (※2)同上 (※3)特許庁(online)「ニーズ即応型技術動向調査「空飛ぶクルマ」(令和2年度機動的ミクロ調査)」 https://www.jpo.go.jp/resources/report/gidou-houkoku/tokkyo/document/index/needs_2020_airtransportation.pdf (閲覧日:2021.7.12) 米中新冷戦の鍵となる「個人情報」――プライバシーとイノベーションの両立を目指せ! 2018.11.18 米中新冷戦の鍵となる「個人情報」――プライバシーとイノベーションの両立を目指せ! HS政経塾8期生 藤森智博 ◆「データを制する者は世界を制する」 この言葉は、中国の巨大IT企業アリババの創業者・馬雲(ジャック・マー)氏が語ったものです。 これを体現するかの如く、アリババは「データ」によって急成長し、現段階では5億人以上の個人情報を手がけています。2018年8月末時点で世界7位の時価総額を誇ります。 アリババのビジネスは、ネットとリアルを橋かけするものです。 「アリペイ」という新しい支払いシステムによって中国で爆発的にキャッシュレス経済を普及させました。現在は街全体をネットでつなぎ、人工知能(AI)で効率的な管理を実現する「スマートシティ」を手がけています。 中国ではこのようなIT技術の飛躍的な進化とともに国家の監視が強まっています。 矢野経済研究所によると、監視カメラの世界市場のうち、半分以上が中国を占め、2018年の1年間で3500万台近くの監視カメラが中国で売買されています。 この監視カメラと「顔認証」の技術を組み合わせて、国民一人ひとりの人間関係まで調べ上げることができるのです。 ◆アメリカに迫る最先端の技術 また、中国は自動運転などの技術でアメリカに迫っています。世界に先駆けて、運転席のない自動運転バス「アポロン」の公道投入に成功しました。 もちろん、まだ「アメリカ超え」には至っていません。公道試験の累計走行距離はアポロンの1万キロメートルを超える程度で、最大手のGoogle系ウェイモの1600万キロメートルには及びません。 しかし、本格的に市場投入が始まれば、逆転の可能性もあります。個人情報を国家で自由に扱える中国のほうが、走行記録の収集はたやすいでしょう。 走行記録からは、私生活が分かるため、重要な個人情報ですが、そのような情報を元手にして、AIのさらなるイノベーションも可能です。 ◆中国に対抗するため欧米諸国に必要なこと このような中国に日本や欧米諸国が対抗していくためには、個人が情報を預けられる「信頼」の構築と「イノベーション」を両立できる環境の両立が不可避です。 欧米諸国では、プライバシー意識の高まりから、個人情報を大量に扱う巨大IT企業に厳しい視線が向けられています。日本でも今年10月、8700万人の個人情報が流出したFacebookに対して行政指導が行われました。 ◆EUで施行された強力な個人情報保護法 EUでは個人情報を保護するための「一般データ保護規則(GDPR)」が今年5月25日に施行されました。GDPRは、プライバシーを守るための強力な権利を個人に保障しているという点で優れています。 一方で、細かすぎるルールや、中小企業も対象とした一律的な厳しい規制、2000万ユーロ(日本円で約26億円)か、世界売上高4%のいずれか高い方という高額な制裁金などが自由を抑制し、イノベーションを後退させてしまう懸念もあります。 トランプ政権のロス商務長官も、5月末にフィナンシャル・タイムズにてGDPRを「不要な貿易障壁」と評しました。 ◆「プライバシー」と「イノベーション」の両立を目指すアメリカ GDPRなどの動きを受け、アメリカでは、連邦全体のプライバシールールを作ろうという動きが強まっています。 9月下旬には、商務省管轄の国家電気通信管理局(NTIA)が、高度なプライバシー保護に向けた新しいアプローチを発表。11月9日まで広く意見を募集しました。 新しいアプローチは、「リスクベースマネジメント」を核とすることで、イノベーションができる柔軟性と個人のプライバシー保護の両立を目指しています。 扱う個人情報の「重要性」や「量」に応じた責任を追求する一方で、その責任の果たし方については一律的な規制は設けず、自由を重んじています。 これに対し、世界中から寄せられたコメントは200以上に及び、GDPRに携わる欧州委員会をはじめ、肯定的な意見が目立ちました。 従って、アメリカでは、この新しいアプローチを基にした統一的なルールが作られていくと言えるしょう。 ◆日本も「リスクベース」のアプローチを 日本では、現在、総務省を中心として「情報銀行」など個人が自分の情報をコントロールできる取り組みが進んでいます。 しかし、中身を紐解いてみると、「市場を育てる」のではなく、「国家主導で市場を作っていく」という社会主義的姿勢が目立ちます。 一方、個人情報保護法などの基礎となるルールも不十分です。 現行法の水準では、GDPRと違い、個人は企業から自分が預けたデータを取り戻せません。情報銀行より前に、環境整備が急務と言えましょう。 個人の権利と企業のイノベーションの両立には、法の明快さと柔軟性が不可欠です。 幸福実現党は「リスクベース」のアプローチから個人情報保護法を改正することで、「データ保護体制」で日米と連携し、中国の「デジタル共産主義」に対抗していきます。 参照 ・『チャイナ・イノベーション』(李智慧著、日経BP刊) ・『EU一般データ保護規則』(宮下紘著、勁草書房刊) ・矢野研究所HP https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/1868 ・日本経済新聞社 https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181116&ng=DGKKZO37736220U8A111C1EA1000 https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181117&ng=DGKKZO37736270U8A111C1EA1000 ・フィナンシャル・タイムズ https://www.ft.com/content/9d261f44-6255-11e8-bdd1-cc0534df682c ・NTIA https://www.ntia.doc.gov/files/ntia/publications/fr-rfc-consumer-privacy-09262018.pdf https://www.ntia.doc.gov/press-release/2018/ntia-releases-comments-proposed-approach-protecting-consumer-privacy ・総務省 http://www.soumu.go.jp/main_content/000559366.pdf すべてを表示する « Previous 1 2