Home/ そが 周作 そが 周作 執筆者:そが 周作 幸福実現党 政務調査会 都市計画・インフラ部会長 田中角栄氏の『日本列島改造論』を読み直す【2】 2016.09.17 HS政経塾第二期卒塾生 曽我周作 今回は、 田中角栄氏の『日本列島改造論』を読み直す【1】 http://hrp-newsfile.jp/2016/2775/ の続きをお送りいたします。 ◆田中角栄の面白い提案 田中角栄氏は『日本列島改造論』の中で「将来の産業構造の重心は、資源・エネルギーを過大に消費する重化学工業から、人間の智慧や知識をより多く使う産業=知識集約型産業に移動させなくてはならない」と述べています。 これは人口の集積が非常に重要な第三次産業がこれからの主力産業となっていくべきだという考え方でしょう。 ですから、都市部への人口集積に耐えうる街づくりを進めていく必要があります。そのため、田中角栄氏は以下のような提言を行っています。 「土地利用計画では、地区の用途を明確にし、各地区に適した容積率、道路率、空地率などを決める。大都市では、とくに低層建築を制限し、高層化のための容積率を設定する。そして、地域を指定し、区画整理によって再開発をすすめるのである。」 しかし、現在に至るまで用途地域は後追い的に定められ、グランドビジョンは示されてこなかったのが現状ですし、高層化のための容積率設定も非常に不十分で、まして「低層建築を制限」することは行われていません。 「低層建築を制限する」というのは非常に面白い提案だと思います。今後の東京都心など、一部で検討をしてみてもよいかもしれません。 しかし現実はむしろ、容積率制限が以前よりも厳しくなって建替えるにも建替えられない事態が発生しているのは、以前指摘したとおりです。 ◆田中角栄は、大都市への人口集中は避けられないと思っていた? この第三次産業への産業構造の重心移動は避けられないものであり、今後の日本においても、いかにその中で競争力を上げるのかが課題です。 したがって、現在日本の人口は減少が始まっている中にあっても、東京の人口はしばらくの間増え続けることが予想されているように、いかに人口集積が良い環境の下で進められることが出来るかが大きな課題となります。 それは、人口減少をいかに食い止められるかという問題も同時に考えていかなくてはならないものでしょう。 「職住接近の原則」の実現を目指して、田中角栄氏は、都市の高層化、高層共同住宅の大量供給、鉄道の強化などを訴えているように、人口集積に耐える街づくりを考えていたように思えます。 国土の「均衡ある発展」というビジョンを掲げつつも、世の中の流れからみて、東京などの大都市への人口集中は、本当は避けられないものであると考えていたのではないでしょうか。 ◆社会主義的だとの批判を受ける「均衡ある発展」 しかし、結局その「均衡ある発展」の思想の部分が、その後の日本経済の成長を止めてしまったということが指摘されています。例えば八田達夫氏は、「均衡ある発展という政策のなかで、地方にバラマキ政策がとられて、大都市への人口流入が大きく減り、それと共に経済成長も鈍化した」というような分析をしています。 当時の政治の流れそのものが、東京をはじめとする大都市への集中は悪であり、とにかく地方からの人口流入を止めることが善であると考えていたのでしょうか。 『日本列島改造論』の初版は田中角栄氏が首相に就任した1972年に発刊されていますが、その少し前から大都市への人口流入が急激に減少していっています。 そして、確かに、大都市への人口流入の減少と同じように、実質経済成長率は減少していきました。 それと同じような時期に、「工場三法」と言われる工場の立地を制限する法律がつくられ、都市から地方へ工場や人を「追い出す」政策がとられています。角栄氏も、工場を「追い出す」という言葉を使用しています。 しかし、政府の介入は時に過度なものとなり、様々な規制を生み出し、その規制は民間の選択肢を狭めます。民間から自由を奪い、機会を奪うことは、社会主義的な政策ですし、社会主義的な政策をとると、やはり経済成長を阻害することはまったく不思議ではありません。 『史上最強の都市国家ニッポン』のなかで、増田悦佐氏は「結局「国土の均衡ある発展」というコンセプトそのものが、〝社会主義的″だったわけです。社会主義的な政策とは、市場には「介入」が必要だという考え方から生み出される政策です。 この考え方の何が問題かというと、経済合理性に任せておけば、そうなるはずのない世の中を人工的につくり出そうとしていることです」と指摘しています。 ◆今求められる、「国家ビジョン」 このようの評価を受ける一方で、一部批判も同時に受ける『日本列島改造論』ですが、大きな国家ビジョンを示したことは極めて重要な事だと思います。 やはり政治が大きな国家ビジョンを掲げるということは極めて重要であり、その大きな志である国家目標は民間企業も含めた国家にとって指針になります。 先に述べたとおり、田中角栄が『日本列島改造論』で世に問うた交通革命のビジョンは、部分的には40年ほど経過した今の日本においても未だ「未来ビジョン」であり、大きな構想に向かい国家が一歩ずつ歩みを進めてきたものと考えられます。 すくなくとも角栄氏の列島改造論には「夢の未来ビジョン」であったといえるでしょう。 「どのような国家にしたいのか」という大きな枠組みを持った未来のビジョンを示すことは、例え実現まで多くの時間を要するものであったとしても、それは大きな価値があるものであるといえるでしょう。 例えばケネディが月に人を送ると宣言し、大きな夢を国民が共有して、それを成し遂げることが出来たことも人類にとっても大きな価値があるものだと感じます。 人が夢やロマンを抱くことのできるビジョンを提示することは、極めて大きな価値があると思います。 それが富を生む元にもなるでしょうし、これからの日本の政治も時代の流れをいかに読み、そして国家ビジョンを創りだしていくかということが重要で、列島改造のようなものの醍醐味がそこにあるのだと思います。 (終わり) 田中角栄氏の『日本列島改造論』を読み直す【1】 2016.05.25 文/HS政経塾第二期卒塾生 曽我周作 ◆田中角栄氏の『日本列島改造論』の特徴 昨今、田中角栄氏を題材とする著書がベストセラーになるなど、田中角栄氏に改めて注目が集まっています。 田中角栄氏といえば『日本列島改造論』が有名でありますが、そこでは一体どのようなビジョンが描かれていたのでしょうか。 『日本列島改造論』の特徴として、まず一つ目に挙げられるのは、東京などの大都市への過密を地方に分散させようというビジョンを提示しているところです。 それは「都市とくに大都市の住民を住宅難、交通戦争、公害から解放する」という意思の表れでもあったでしょう。 そして「国民がいまなによりも求めているのは、過密と過疎の弊害の同時解消であり、美しく、住みよい国土で将来に不安なく、豊かに暮らしていけることである」)とし、田中角栄氏は都市における過密も、地方における過疎も人々にとって苦しみになっていると考えました。 特に都市部の大気汚染の問題や、水質汚濁、電力需給の逼迫、車社会でのひどい渋滞、公園の少なさ、木造密集地の危険性、地価の上昇と狭い住宅の問題等、様々に指摘しています。 田中角栄氏は当時の都会での生活を人間的で豊かな生活だとは考えられなかった部分があったのでしょう。また、過疎による地方の将来の不安も指摘しています。 ◆田中角栄氏が考えた「移動時間の短縮」 田中角栄氏は、そこで都市と地方の距離を縮めることをもって、都市に集中せざるを得ない状況を解消しようと考えました。 「産業や人口の地方分散の障害となるのは、人びとの心理的な距離感であり、情報伝達の落差である。しかし、航空網の整備、全国新幹線、高速自動車道の建設、情報ネットワークの形成によって地域間の時間距離が縮まれば、それも解消する。」 「九千キロメートル以上にわたる全国新幹線鉄道網が実現すれば、日本列島の拠点都市はそれぞれが一~三時間の圏内にはいり、拠点都市どうしが事実上、一体化する」 ここで述べられていることのなかには、私たち幸福実現党が考えている移動時間の短縮をはかる「交通革命」の思想が含まれています。 (もちろん幸福実現党としては交通革命を、単純に「地方への分散」を目的としているわけではありません。) ◆新幹線網の「未来ビジョン」 例えば田中角栄氏は同書の中で当時から見た新幹線網の「未来ビジョン」を提示していますが、いまだにその計画は完成していません。 現在の新幹線網と、田中角栄氏の『日本列島改造論』で示された新幹線網の構想を比べて見ても明らかなとおり、現在整備されている新幹線は「網」のようにはなっておりません。 太平洋側、特に太平洋ベルト地帯はそのメリットを享受していますが、日本海側はまだまだ中途半端な整備状況です。 田中角栄氏は「人、物、情報の早く、確実で、便利で、快適な大量移動」が可能となることが大切で「効率的な輸送手段があれば、工場と市場との距離は大きな障害とはならない。(中略)航空網の整備、全国新幹線、高速自動車道の建設、情報ネットワークの形成によって地域間の時間距離が縮まれば、それも解消する。」と考えました。 ◆高速道路網の整備 そこで考えられたのが、上記の新幹線網の充実であり、また高速道路網の整備です。 田中角栄氏が示したビジョンと、現在整備されてきた高速道路網は非常に似ています。40年ほど前につくられたビジョンが、今やっと日の目をみてきたわけで、先見性を感じるところですし、ビジョンの大切さを改めて感じます。 しかしこの新幹線網の整備も、高速道路の整備も現状としては非常に中途半端な形でしか完成しておらず、まだまだ改善すべき点があります。 新幹線網に至っては、40年前に建てられたビジョンが、いまだに「夢の未来ビジョン」のままです。 ◆空の交通網の充実 今後、田中角栄氏の列島改造論を参考に、空の交通網の充実も加え、さらにバージョンアップした「未来の構想」を立て、その実現を図るべきでしょう。 もちろん日本の強みとして、太平洋ベルト地帯に直線状に大都市圏が連なることの強みを認識し、それを活かす方向で繁栄を創りだすべきです。リニアの建設もこの日本の強みをさらに強化することにつながるものです。 しかし、日本海側の過疎の問題にも同時に想いを馳せなければなりません。 また観光立国を目指すにあたっても、国際空港から地方都市への「距離」を縮める必要があります。魅力ある地方の観光都市へのアクセスが向上を果たすことが非常に大切だと思います。 ◆「距離」「時間」を縮める交通革命 日本中の都市の魅力を高めるものこそ、「距離」「時間」を縮める交通革命です。 地方都市としては「ヒト・モノ・カネ・情報」の集中する大都市とのスピーディーなアクセスを可能にすることで、時間的距離の短縮によって地方都市の魅力を引き上げることになります。 一方大都市としても、自らの都市圏の人口集積や、資本集積などが進むことになり、都市としても魅力が増すことになります。 特にサービス産業など、大きな人口集積が必要な産業においては、アクセス向上は非常に大きなメリットを産みます。 いずれにしても、交通革命の必要性を説き、具体的な構想を示したことは田中角栄氏の政治家としての大きさを感じるところです。 田中角栄氏が明確に意識していたのは、「ヒト・モノ・カネ・情報」という経営資源にあたるものの重要性だと考えられます。 この付加価値の源泉である経営資源の移動速度を上げることは経済成長にとって非常に重要であり、今後の日本の経済成長にとっても見落とせない視点だと思います。 熊本の迅速な復興と首都の災害対策の強化を! 2016.04.28 文/HS政経塾第2期卒塾生 曽我周作 ◆今回の熊本地震 4月14日以降に発生した熊本・大分における震災において亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。 また被災地の迅速な復興と、被災された方々の生活が一日も早く再建されますよう心よりお祈り申し上げます。 幸福実現党では「平成28年熊本地震 被災者支援募金」を募っております。被災地復興にむけ、皆様のご協力を賜れれば幸いです。(http://info.hr-party.jp/2016/5455/) 今回発生した地震のうち、震度6弱以上を記録した地震は、なんと7回も起きております。 27日に確認された時点で、49人の方が亡くなられ、1人が行方不明、怪我をされた方は重軽傷併せて約1450人となっています。 また家屋の被害は熊本県内で、全壊が2102棟、半壊が2297棟、一部破損が7731棟に上ります。 現在避難されている方は熊本県で約3万6800人、大分県で224人と報道されています。16日の地震の発生後には約20万人近くの避難者が発生していました。 ◆もし首都圏で同じ規模の地震が起きたら 今後、もし首都圏で今回のような規模の直下型地震が発生した場合、その被害は甚大なものになります。 中央防災会議の首都直下地震対策検討ワーキンググループが作成した『首都直下地震の被害想定と対策について』の最終報告はつぎのようなものです。 ・揺れによる全壊家屋 約175,000棟 ・建物倒壊による死者 最大約 11,000人 ・揺れによる建物被害に伴う要救助者 最大 約72,000人 ・地震火災による焼失 最大 約412,000棟、 倒壊等と合わせ最大 約610,000棟 ・火災による死者 最大 約16,000人、 建物倒壊等と合わせ最大 約23,000人 など、おびただしい数の人と建物の被害想定がなされています。 また、避難者数もおびただしい数に上り、避難所は収容能力を超えることも予想されています。 今後、政府は民間とも協力して、今回の地震から教訓を得て、備えを進めるべきだと思いますし、いざという時には民間企業等の手助けも、とても重要になるものと考えられます。 ◆災害対策上も重要な原発再稼働 このような大きな地震が起きた時に、電気・ガス・水道のインフラへの被害を少なくし、いち早く復旧する事は当然大切なことになります。 ただし、例えば、送電線の設備が普及しても、もし電力供給そのものが不足していた場合、東日本大震災で経験したような「計画停電」を余儀なくされる可能性があります。 前述の報告書によると、「多くの火力発電所が強い地震動で緊急停止したり被災した場合、充分な電力供給が確保できなくなることから、電力使用の自粛要請が行われるが、被災量が大きい場合、計画停電を実施せざるを得ない可能性がある」と指摘されています。 被災直後は約2,700 万kWまで供給能力が落ち込み、夏場のピーク時の51%程度の供給能力まで落ち込む可能性があります。 直下型地震で大きな被害を受けながら、さらに計画停電が実施されるとなると、その影響は計り知れません。 大災害時の電力供給の不足を防止するためにも、やはり、柏崎刈羽原発の再稼働を早く進めるべきではないでしょうか。 今回の地震に際しても、ネット上ではデマや嘘が出回っていると言われていますが、原発関連の情報について、政府やマスコミが積極的に正確な情報発信を行う姿勢が大切だと思います。 ◆空の交通網を活かせるように また、地震発生後には「深刻な道路交通麻痺が発生し、消火活動、救命・救助活動、ライフライン等の応急復旧、物資輸送等に著しい支障等が生じる可能性がある」ことが指摘されており、そういう事態に陥った場合、ヘリコプターなどの空の交通に大きく依存せざるを得ない状況になるものと考えられます。 今回の地震においては輸送支援にオスプレイが利用されており、それに対して批判の声も上がっているものの、被災地の方に迅速に必要な物資を届けたり、人員の輸送をするうえで有利であるならば、オスプレイも含めて積極的に活用すべきではないでしょうか。 それを、政治問題にして不安を煽り、政府批判をするのはお門違いであると思います。 いずれにしても、いざという時に使用できるように、ヘリの離着陸ができる場所を確保することなど、政府や東京都等の自治体は協力して、空を使った輸送を積極的に活用できるための備えを進めるべきだと思います。 交通革命の歴史と未来ビジョン【その3】 2016.03.16 文/HS政経塾第二期卒塾生 曽我周作 ◆新幹線利用と飛行機利用の境界線は移動距離「約750キロ」? 現在、東京駅~大阪駅間の移動は、新幹線を利用すると、およそ2時間45分程かかり、飛行機で羽田空港・伊丹空港を利用した場合、およそ3時間かかります。 移動距離にして約550キロですが、筆者個人でいえば東京~大阪間の移動であればほとんどの場合新幹線を利用しています。 『鉄道の未来学』が紹介する2007年度の国土交通省「貨物・旅客地域流動調査」の結果によれば、「500キロ以上、750キロ未満」を鉄道で移動した人の数5,792万人に対し、飛行機での移動は1,700万人で圧倒的に鉄道移動の方が多くなっています。 それに対して、「750キロ以上、1,000キロ未満」の移動になると、鉄道906万人に対して、飛行機での移動が1,652万人と両者のシェアが逆転します。 梅原淳氏著『鉄道の未来学』によれば「300キロ以上、500キロ未満」を鉄道移動した7,497万人のうち33%の2,510万人が東海道新幹線で首都圏~中京交通圏を移動しています。 また「500キロ以上、750キロ未満」を鉄道で移動した人の数5,792万人うちの66%にあたる約3,813万人は東海道新幹線で首都圏~京阪神交通圏を移動した人の数です。 「他の新幹線の利用者数も考慮にいれると、鉄道を利用して300キロ以上、750キロ未満を移動した人の大半は在来線ではなく新幹線を利用したと考えられる」といいます。 したがって、これらの事から推測すると、新幹線利用による移動と、航空機を利用しての移動の選択の境界は、移動距離にしておよそ750キロ付近ではないかということが推定できると思われます。 例えば東京駅~岡山駅の移動は距離にして約730キロですが、新幹線の利用と飛行機の利用でほとんど時間の差はなく、両者とも約3時間20分程かかるようですが、これくらいの距離の移動をする辺りで、新幹線か航空機の利用が分かれてくるようです。 ◆リニアの建設と、空の交通の利用拡大を しかし、もし東海道山陽新幹線と並行するようなかたちで、東京~博多間にリニア新幹線が開通したとしたらどうなるでしょうか。 東京駅~博多駅までは移動距離にして約1,100キロになりますが、現状では新幹線を利用すると5時間ほどかかり、航空機利用で3時間半程度かかるようです。 これが、リニアがこの間を開通した場合、東京~大阪間が1時間7分ほどで結ばれると言われていますから、東京~博多間も2時間半を切るくらいで結ばれると推定されます。 そうすると、先ほどのデータによると、1,000キロ以上の移動では鉄道が308万人に対して航空機利用が4,994万人と圧倒的な差があるこの両者の関係に、大きな変化が出る可能性があります。 やはり、乗降手続きの容易さや、運行本数、さらには空港の整備、空港へのアクセス向上などを行う必要があります。また、政府は「観光立国」の目標を掲げていますが、国内の移動を早く、容易に行えるようになることが、訪日客を増加させることにつながると思います。 都市間の距離を縮める交通革命を前進させることで、ビジネス環境を大きく変え、観光立国への推進を進めていくことができると考えられます。 ですので、リニアの建設を進めるとともに、もっともっと空の交通網を充実させることが同時に必要です。その中には羽田空港を真の国際空港として機能させるようにしていくことも大切だと思います。 ◆交通の24時間化を推進しよう 幸い2020年東京オリンピックの開催が控えており、様々な課題が浮き彫りになってくるでしょう。 例えば前述の羽田空港の24時間化や、都市交通の24時間化も大きな課題として注目されるようになるはずです。 森記念財団の理事、市川宏雄氏は「五輪を機に東京での都市機能の24時間化が進むだろう。交通機関や集客施設の営業時間を延長すれば、各駅や各施設周辺の飲食店や店舗なども、それに追随するようになる。」(『TOKYO2025』市川宏雄/森記念財団都市戦略研究所)と予想しています。 都市機能の24時間化を図ることで、より多く人が日本を訪れるようになりますが、それを支える交通インフラの充実が極めて重要で、そのインフラが整えばこそ、新しい投資、例えば、ホテル建設の推進などもますます進んでいくようになるでしょう。 まだまだ日本は開発の余地があります。まだまだ成長が可能です。交通革命の実現もその一翼を担う大きなエンジンの一つであることは間違いないでしょう。 交通革命の歴史と未来ビジョン【その2】 2016.02.10 文/HS政経塾第二期卒塾生 曽我周作 ◆自動車の普及は画期的なイノベーションだった これまで様々な交通革命がなされてきましたが、「19世紀にはいくつか公共交通のイノベーションが起きたが、20世紀の都市では、たった一つの交通イノベーションがすべてを圧倒した。それが内燃機関だ」(『都市は人類最高の発明である』p225)といわれています。 自動車の普及はそれほど大きく交通体系を、そして物流の観点から考えても私たちの生活を大きく変えるものでありました。 自動車があまねく普及することによって、自動車の所有が前提になった街が誕生していくことになりました。そして自動車の存在が支える物流が人々の暮らしを変え、生活を豊かなものとしてきました。 これは逆のいい方をすれば「自動車がなければもはや生活できない」状況を生んだということも意味しますし、部分的にはそのことによるマイナス面も出てきているのは事実であると思います。 しかし、誰もが、思いたった時に、思い通りの場所に、快適に、スピーディに行く事ができる、しかも個々人単位でもそれを可能にし、さらには大量の貨物をスピーディに運ぶことを可能にしたこの交通革命は画期的なものだったといえるでしょう。 ◆鍵を握る「動力」と「インフラ」等の技術発明 内燃機関の発明が画期的な交通革命をもたらしたわけですが、「都市交通では、19世紀末から20世紀の初頭にかけて、低速で高コストの馬車と蒸気機関に代わり、新たな動力として電気モーターと内燃機関の導入が始まった。まず、電気動力によるチューブ式地下鉄が登場、次いでバスと路面電車が登場し、さらに蒸気動力であった既存の地下鉄と幹線鉄道の電化も開始された。」(『都市交通の世界史』p63) 以上のように、やはり「動力」が変わることは非常に大きな転換点になります。 現在、日本で日常に運行している電車は電気モーターが主流ですが、その中でも、例えば都営大江戸線や横浜市営地下鉄などで採用されているリニアモーターは、動力としては今までにない新しいものです。 今後建設が進められるリニア新幹線は時速500㎞以上で走る、新しい交通革命を起こす乗り物として期待されています。 さらにリニアモーターを利用したエレベーターなども、今後の開発が期待されるものとして取り上げられてもいます。 また、蒸気機関から内燃機関に移りかわり、自動車の発達によって交通体系は大きく変化を見せましたし、今ではジェットエンジンでジェット機が空の交通を支えています。 同時にそれを支えるインフラの整備も進みました。舗装されていない道を通っていた馬車が、鉄道を敷設しその上を走らせることで摩擦係数が低下し、大幅に効率がよくなりました。 また、地下鉄の建設では、それまでなかった地下の交通インフラの整備がすすみました。 自動車が走り始めるとアスファルトなどによる舗装が進み、さらに機能的に移動できるようになっていきましたし、高架鉄道や高架を使った道路網は、それまで存在しなかった空中方向への立体的な交通インフラの整備が進められてきました。また、今地下を通る首都高の建設なども進められています。 さらに、「航空機」の登場により、乗り物はもはや何かの上を走るものではなく、飛行場などの離着陸できるインフラと管制機能があれば、空を自由自在に飛ぶことができるようになりました。これによって、空中すらも、交通インフラに変えてしまいました。 今後はそれがさらに宇宙空間をも利用して、例えば東京~ニューヨーク間をわずか2~3時間程度で結びつけるような、新しい画期的な航空機の誕生につながっていく事も期待されているところです。 将来的に反重力装置などの発明によって、新しい動力源が開発されれば、空を飛ぶ車の実現も夢ではないかもしれません。そしてその時には、その「空飛ぶ自動車」を支える新しいインフラの発明が必要になります。 また、自動車運転の自動化の流れも進められようとしています。そのように未来に実現の可能性をもつ種子がたくさん育てられています。 いずれにしても、新たな「動力」や「インフラ」等の「技術発明」が今後の交通革命を起こす大きなカギを握るでしょう。 その意味でも理系の天才の誕生が期待されるところです。 交通革命の歴史と未来ビジョン【その1】 http://hrp-newsfile.jp/2016/2562/ 交通革命の歴史と未来ビジョン【その1】 2016.01.02 文/HS政経塾第二期卒塾生 曽我周作 ◆投資意欲を引き出す減税政策を まず初めに、10月7日付の当ニュースファイルで「事業用資産(償却資産)への課税は、課税根拠が極めて不明確であり、経済成長の阻害要因であると考えられるため、「これを撤廃すべきである」」と主張させていただきました。(参考:http://hrp-newsfile.jp/2015/2436/) その後、11月30日の日経新聞の報道でもあるように、自民税調が「資本金1億円以下の中小企業が新たに導入する製造機械や建設機械、発電機といった機械・装置が対象。評価額に応じて年1.4%かかる固定資産税を減らす」方針を固めたようです。 しかし、景気が思うように回復せず、消費増税の悪影響も重なりデフレからの脱却も不完全な中、もう一段思い切った減税方針を打ち出せないものかというのが正直な印象です。 もっと政府は全力を挙げて「民間の投資意欲を引き出す」方針を打ち出すべきです。今回のテーマである交通革命を起こしていくためにも、民間企業が投資しやすい環境を作っていく必要があります。 ◆馬車から始まった交通革命 さて、今回のテーマである「交通革命」ですが、それは、いつどのような形で始まったのでしょうか。実は近現代における交通革命の起源は、馬車から始まったと考えられます。 都市交通としての「交通革命」は乗合馬車が世界各地で生まれた19世紀から本格的に始まったといえるでしょう。 乗合馬車や馬車鉄道が国民の生活や、都市のあり方を変えていった様子の一つとして『都市交通の世界史』に次のようなことが書かれています。 「(馬車鉄道は)時速8マイル(約12.9㎞)と徒歩や馬車よりも早く、エネルギー効率で3倍の乗客を輸送することができ、乗り心地も快適であった。馬車鉄道は、ニューヨークに登場した初めての大量交通機関であり、マンハッタンの北で建設ブームを引き起こす一因となった。1832~1860年に、都市の境界は42番ストリート付近まで北上し、富裕層を中心に郊外へ移転が生じた。」(p26) 「(ロンドンでは)18世紀後半には、過密化によって居住環境の悪化が進む都心部を離れ、郊外に移転する動きが富裕なシティの商人層(上層中流階級)から始まった。この動きは19世紀に入ると、技術者や上級事務員など、中層中流階級にも広がっていった。中層中流階級の郊外移転を促した最大の要因は公共交通機関、特に1829年からの乗合馬車の発達である。」(p54) ここでは非常に重要な事が述べられています。それは「(それまでより)スピードの速い乗り物」が広く利用されるようになった結果、都市が外へ向けて広がりをみせ、人びとが郊外に移り住み、都市の中心部に向けて仕事等に出かけるスタイルができたということです。 やはり、都市のあり方や、人びとの生活が変わるきっかけのキーポイントの一つになるのが「スピードアップ」であることがうかがえると思います。 ◆交通革命・都市交通の充実が現代の都市を生み出した さらに、当然のことながら馬車鉄道の後には、蒸気機関の鉄道や電気鉄道が導入されていき、さらにスピードアップが図られ、さらに大量輸送が可能になっていきます。 「(ニューヨークの)地下鉄開業後、沿線人口は増加を続けた。例えば1900~20年に、マンハッタンの人口は1.23倍に、ブロンクスの人口は3.7倍になった。これら住民は、マンハッタンへの通勤に地下鉄や高架鉄道を利用した」(『都市交通の世界史』p32) 交通革命・都市交通の充実が高度な集積を生み出していきました。そして「輸送技術は都市を形成し、マンハッタンのミッドタウンは、大量の人々を運べる二大鉄道駅を中心に建設されたのだった」(『都市は人類最大の発明である』p185)ともいわれるように、現代の都市を生み出したのは交通革命・都市交通の充実であったといえるでしょう。 また、例えばドイツの首都ベルリンについて、以下のようにと指摘しています。 「ベルリンの都市としての発展は19世紀後半に急拡大するが、その原因の1つとして1866年にそれまでの市の囲壁が取り壊され、その外側に労働者向けの廉価な高層住宅が密集して建造されたことがあげられよう。この団地は…人口密度が高まる要因となった。人口増大と産業の発展によって急速に拡大するベルリンの都市機能を支えるために、19世末から20世紀初めにかけては、公共交通のネットワークが拡大、改善された」(『都市交通の世界史』p128) 交通網の整備は都市を外側へ拡大させる力が働くと同時に、それを一つの都市として見た場合、その都市圏に人やモノ等を引きつけ集積させる求心力も同時に働きます。 「十九世紀末には、都市は外に広がると同時に上にも広がったのだった」(『都市は人類最高の発明である』p224)と指摘されるように、都市は高層化によって更なる集積を可能にしながら発展を遂げていきました。 (つづく) 容積率規制の緩和で、安全で新しい都市づくりを【3】(全3回) 2015.11.21 文/HS政経塾第二期卒塾生 曽我周作 前回の「提言(2) 容積率制限の緩和で経済活性化を図る」の続きからお送りいたします。 ◆提言(2) 容積率制限の緩和で経済活性化を図る(つづき) 私の前職での経験でも、老朽化したビルオーナーが、そのビルの建設当時の容積率規制の中で立てたビルが、現在の容積率規制では、その規制上限を上回っており、建て替えをした場合、現状の建物よりも容積率の低い、つまり小さなビルしか建設できないため、建て替えを断念し、既存のビルの改修をするしかないということがありました。 老朽化し、設備的に明らかに劣るため新しくビルを建て替えたくても、既存のビルより小さなものしか建てられないならば、それを断念せざるを得ない場合もあり、これは投資を抑制する効果を出してしまいます。 ですから、容積率の緩和を行い、そのような不利を生むのではなく、さらに現状よりも大きな建物を建てられるようにすることで投資意欲を高められれば、それも大きな経済効果を期待できるでしょう。 また、東京の人口が増え、その人たちが郊外に住むと、職住が離れた人たちが増加し、現状のようにある一定の時間に集中的に都心に向けて移動をすると、その人たちを輸送するための輸送力強化をはかる投資が必要にもなります。 それは必ずしも鉄道会社にとって望ましいものとは言えません。 容積率の緩和がなされて職住接近型の都市開発が進めば、その分都心の都市交通の発達が図られるでしょう。それは新しい投資になります。 したがって容積率の緩和で都心の都市開発をすすめ、職住接近型の都市開発を進めていくことは、経済効果は非常に高いことが期待できる政策であるといえるでしょう。 ただし、経済成長率が極めて低いことが東京の都市としての魅力を落とす大きな原因です。法人税の税率が世界的に見て非常に高いことがビジネス上の大きなリスクであるとも見られています。 したがって、法人税率を下げ、適切な経済政策のもとで経済成長を実現し、日本国内のみならず、世界から東京に進出したくなる環境づくりを行って、東京に「人」が集まる魅力を高めなければなりません。 ◆提言(3) 共同化と高層化のメリットを出す 土地は限りあるものですので、容積率を緩和していく中で職住接近型の都市にしていくということは、共同化を進めるということです。 つまり、これまでよりも高層の建物(マンション)にもっと多くの人が居住する方向で開発をすすめていく必要があります。 したがって、建物の共同化を図る場合にインセンティブを働かせていく必要があります。 例えば「敷地規模の大きさにより与える容積率を変えて、大きな敷地としてまとめて利用する程大きな容積率が与えられる仕組みが考えられる。」(『都市と土地の理論』p111)と、岩田規久男氏が指摘するように、何らかの条件で容積率緩和という形でインセンティブを働かせるなど、開発事業を行うメリットを出す政策が求められます。 2014(平成26)年2月28日に閣議決定された「マンションの建替えの円滑化等に関する法律の一部を改正する法律案」では耐震不足のマンションの建替え時に一定の条件のもとに容積率を緩和する特例をつける案になっています。(『都市のチカラ 超高層化が生活を豊かにする』森ビル都市再生プロジェクトチーム) これにより、建替え時の費用負担を減らそうとするものです。 つまり、緩和された容積率を用いてより大きなマンションを建設し、その部分を新たな入居者に売却することで、前から住む住人の建替え費用負担の軽減を図るわけです。 これが、もし容積率が緩和されないなどで、住民だけで建替え費用等を負担するのは非常に厳しいことになります。この法律案そのものには私はまだまだ課題も多いと思いますが、要は事業へのインセンティブを働かせるということが非常に重要になるということです。 これは共同住宅から共同住宅の例ですが、戸建て住宅地を再開発事業で共同住宅化する場合にも、同様に容積率緩和はメリットになります。 共同化する際に容積率を緩和し共同住宅を建設することで、新たな入居者に向けて緩和された容積を有効活用し大型の共同住宅等を建設し、事業にかかる費用に充てることで住民負担を軽減することができます。 民間事業者にとってもインセンティブが働き、再開発事業等の後押しをすることもできます。 いずれにせよ、容積率の緩和だけにとどまらず、様々な方法でインセンティブを働かせ、民間の活力を引き出す方向で政策を組み立てるべきです。(完) 容積率規制の緩和で、安全で新しい都市づくりを【2】(全3回) 2015.11.20 文/HS政経塾第二期卒塾生 曽我周作 前回は、東京都心の容積率利用がまだまだ低く、発展の余地があること。また現在の容積率制限については何かの明確な理論的根拠に基づいたものではないことをお伝えしました。 今回からはいくつかの提言をさせていただきたいと思います。 ◆提言(1) 容積率制限の緩和で、床面積当たりのコストを下げる 職住接近型の都市を建設するには、都市部に多くの人が暮らすことを可能にする必要があります。 また、同時に経済の発展のためには、多くのビジネスチャンスがある都心部に進出したい企業が、もっと都心部に進出できるようにすることも必要です。 ここにおいて目指すべき方向は床面積当たりのコストを下げることです。 岩田規久男氏は、下記のように指摘しています。 「容積率の上昇はそれによって土地単位面積当たりの地代(土地所有者自身が使用する場合は、帰属地代)収入を増大させるから、地価を上昇させる可能性がある。」 「しかし、地価が容積率の上昇に比例して上昇しないかぎり、床面積当たりの地価は必ず低下する。…人々は一般的に、同じ床面積であれば共同住宅よりも一戸建て住宅を好み、共同住宅であれば容積率の低いそれをより好む傾向がある。」 「そうであれば、地価は容積率が上昇しても比例以下でしか上昇しないし、容積率の上昇とともに地価上昇率も低下する。」(『都市と土地の理論』p41) 床面積当たりのコストを下げるには、供給量を増やす政策が必要です。 現在よりも容積率を緩和し、都市計画を見直し、高容積率の建築物を建てられるようにすることで、土地当たりの床面積供給量増加させる方向に政策誘導をすべきです。 もちろん、そうすることによって、土地にさらに大きな建物が建てられるようになれば、土地の価値が上昇します。都心部で利用可能容積率が1%上昇すると地価が0.77%上昇するという説もあります。(『容積率緩和型都市計画論』p139) 土地の地価が上昇するということは土地に対する固定資産税の税収増加にもつながり行政側にもメリットはあります。 当然、整備されたインフラにあまりにも見合わない容積率制限や、整備予定のインフラがあまりにも設定された容積率に見合わないものであるならば問題でありますが、方向としてはインフラという都市の「器」を大きくし、高層都市に耐え得るものにしていくべきです。 ◆提言(2) 容積率制限の緩和で経済活性化を図る【1】 岩田規久男氏の指摘は続きます。 「企業が集積する都市の中心部は容積率を高くして高度に利用しなければならない。土地を高度利用すれば、企業はそれだけ相互に近接した場所に立地できるから、交通時間と交通コストを節約できるし、交通量も抑制できる。」 「また車道と歩道を含めた道路の幅もゆったりとれる…職住近接を図って通勤混雑を緩和するためにも、朝が早かったり、夜が遅かったりする職業に従事している人たちのためにも、都心部から30分以内といった地域にも住宅が必要であろう。」(『都市と土地の理論』p39) 以上のように、容積率の緩和を行い、土地を高度利用できれば、非常に経済的な効果が高いといえるでしょう。 企業間の距離を縮めることは、問題対応に要する時間も非常に節約できることになります。「移動」によって失われる時間を減らし、付加価値創造のための時間を生み出すことにもなります。 さらに、岩田氏が指摘するように、これからさらに土地の高度利用を図っていくとすると、それにともない都心の交通需要も自然と高まることになるわけですが、職住の接近をはかれば、郊外から都心への通勤ラッシュ時の交通需要増加の抑制にもつながります。 現状のような職住が離れた状況の下で失われる時間を減らし、ある意味において時間を創造します。職住の接近が図られれば人々の心身への負担も抑えられますし、職住接近型の都市建設にむけた新しい投資も進むでしょう。 (次回につづく) 容積率規制の緩和で、安全で新しい都市づくりを【1】(全3回) 2015.11.18 文/HS政経塾第二期卒塾生 曽我周作 ◆東京都の容積率利用の実態 東京都心部の利用容積率は、山手線内で236%、東京都心4区332%(千代田区563%、中央区480%、港区302%、新宿区230%)になっています。 対して、ニューヨークのマンハッタン区の利用容積率は、ミッドタウン平均値1429%で、最高に至っては2621%も及びます。 高級住宅街であるアッパーイーストサイドでも平均631%の容積率を誇ります。(参考『都市のチカラ 超高層化が生活を豊かにする』森ビル都市再生プロジェクトチーム) たしかに、東京のデータは2002年のデータであり、その後様々な開発事業が都心でも進められておりますので、若干容積利用は増加しているものと思われますが、それでもまだまだニューヨークマンハッタンの容積利用率には遠く及びません。 容積率利用の小ささの裏には、このように、そもそも容積率規制が強いという現状があります。 ◆高さ制限から始まった容積規制 日本において容積率にあたるものは、1919年、建築基準法の前身の市街地建築物法と、都市計画法が制定されたところからはじまっています。 これは高さ制限と建蔽率制限の組み合わせで、建物容量のコントロールが行われるものでした。 住宅地域では高さ65尺(20メートル)、それ以外の地域では100尺(31メートル)の高さに規制され「当時の31メートルの絶対高さ制限のもとでも(容積率)1000%は実現できた」(『容積率緩和型都市計画論』p15)といわれていますが、この数値自体には明確な根拠はなかったようです。 また、その後時代を経て高さ制限と建蔽率制限による建物容量のコントロールから、正式に容積率を導入とする流れのなかでも、容積率の設定については意見が分かれていたようであり、とてもその数値に明確な根拠があるとは思えないものです。 容積率規制が容積地域性の形で導入されたのは1963年(昭和38年)で、東京区部環状6号線の内側に最初に指定されました。 そして1968年の都市計画法制定と1970年の建築基準法改正によって全国適用の一般制度となっています。 この背景に木造の低層建築物が主流だった日本において、建築技術の発達によって高層・超高層建築も可能になり、土地の高度利用を進めるという目的がありました。 ◆明確な根拠のない容積率規制 しかし、この容積指定については明確な根拠がなかったということを日端康雄氏は次のように指摘しています。 「容積地域制は比較的新しい制度であり、制度の成立経緯からして、容積規制はきわめて大雑把な規定で、建築敷地に対する建築延床面積の総量規制であると同時に用途地域別の総量規制でもある。」 「もとより規制の限界までの空中権、つまり未利用容積率は所有権の対象にならない。道路などの都市インフラストラクチャーに与える負荷も厳密な一義的対応の検証に耐えられるものではない。」 「たとえば、未完成の部分も含めて都市計画道路との均衡が考えられているとか、発生交通量が建物の用途や機能によって大きく異なるし、さらに経済社会の変化によってそれらの原単位も変わってくるが、そうしたことが容積限界を定める際の条件として、どのように配慮されているのかが明確にされていない」(『都市再生を目指して』p6) 大前研一氏も、そのことを、具体事例をあげて指摘しています。 「現状、容積率は都市計画で用途地域ごとに制限が定められているが、そもそもそれらの数値自体、根拠に乏しい。」 「たとえば、大阪・中之島の再開発で建て替えが予定されている朝日新聞の大阪本社ビル。同地域の容積率は1000%だが、朝日新聞相手で国土交通省が日和ったのか、特区(都市再生特別地区)認定という訳のわからない理屈で1600%という突出した容積率が認められた。横車を押したはずの朝日新聞も静観を決め込み、竣工すれば(2013年完成予定)、日本有数の容積率の建築物になるだろう。」 「もともと中之島は、堂島川と土佐堀川にはさまれた中州地帯であり、地盤が脆弱な埋め立て地。つまるところ、容積率の基準値に厳密な安全性や耐震性の確固たる裏づけがあるわけではなく、役人のさじ加減一つで決まるような恣意的な代物なのだ。そんな意味不明な縛りがあるから、日本の都市開発は一向に進展しない。」 容積率制限については「用途地域による容積率制限は、建築物の密度を規制することにより公共施設負荷を調整するとともに、空間占有度を制御することをつうじて、市街地環境を確保することを目的として導入された」(『容積率緩和型都市計画論』p179)と言われています。 しかし経済審議会の『経済審議会行動計画委員会・土地・住宅ワーキンググループ報告書』で「床面積とインフラ負荷が比例するという前提自体、証明がなされたことがないのみならず、直観的にもこれを信じることは困難である」ともいわれています。 そして「多くの都市では、容積率制限の導入に際して、すでに市街化が進展した区域における建築物の状況に応じて、いわば後追い的に容積率制限が指定され、必ずしも理論的な根拠にもとづいて指定されたわけではないという実態も」(『同』p188)あると指摘されています。 さらに、『容積率緩和型都市計画論』の著者、和泉洋人氏は「建築用途別の床面積当たりで、公共施設に対してどれだけの負荷を与えるか、どこまで公共施設を整備すればこれを処理できるのかについて、より詳細な実証研究が必要」(『同』p188)だということ、「容積率制限に関する基礎的研究」(「密度規制としての容積率制限の重要性、合理性の研究、建築物の床面積と発生交通量との関係に関する研究等の基礎的研究」)。 また「用途地域による容積率制限の指定に関する実証的研究」(「具体の都市計画における、用途地域による容積率制限の指定の考え方、根拠、妥当性等に関する実証的な研究」)という「膨大かつ実証的な研究が不可欠で、時間も費用もかかる」研究が「極めて低調」(『同』p184~185)だと指摘しています。 結局、現状では、「なぜその地域に、その用途地域と、その容積率制限が適用されているのかについては、理論的根拠がない」ということです。 そして、そもそも「どのような用途の建物が、容積辺りどれだけのインフラ負荷をかけるのかという理論的もあいまいである」ため、現状の容積率制限は根拠そのものが薄弱だと言わざるを得ないわけです。 (次回につづく) 固定資産税制を考える【その4】 2015.10.07 文:HS政経塾第2期卒塾生 曽我周作 これまで『固定資産税制を考える』として、固定資産税の現状と問題だと考えられる点について述べさせていただきました。 今回は、このテーマの最終回として、固定資産税制度について、減税の方向での提案をさせていただきたいと思います。 ◆固定資産税のあり方を立法上明確にすべき そもそも固定資産税は、その課税根拠等が極めてあいまいであり、担税力も十分には考慮されていないと考えられることなど、見直していくべきだと思います。 現在は、通達によって地価公示価格の7割が課税標準の目途となっていますが、それが地方税法上の「適切な時価かどうか」は、「立法上」明確にされていません。 「わが国の固定資産税についても、この課税標準の明確化を立法上どのようにして達成するかが最大の課題」(『土地と課税』p521)という指摘もされるところであります。 本来これは国としての当然の責務ではないでしょうか。 したがって、まず、課税標準を定めなければなりませんが、そのためには、そもそもこの固定資産税という税金は何に担税力をみて課税するのかをはっきりさせるべきです。 1990年(平成2年)の土地税制基本答申では、「固定資産税については、保有の継続を前提として、資産の使用収益しうる価値に応じて、毎年経常的に負担を求めることから、「土地の使用収益価格(収益還元価格)」をあるべき「適正な時価」」としました。 基本的には土地に対する固定資産税を徴収するならば、それはその土地の「収益力」に担税力を見出すのが適当ではないでしょうか。 全国に公平に適用される課税基準を立法で明確に規定したうえで、固定資産税は地方税ですので、ある程度地方によって税率を自由に設定できるようにしてもよいと思います。 ただし、税収確保のためとして高すぎる税率を設定できるようにすべきではありません。 ◆2020東京オリンピックに向けて その上で、まずは短期的に2020年東京オリンピック開催に向けて、再開発等の投資を促進するためにも「建物固定資産税の減税」と「償却資産にかかる固定資産税の撤廃」、を提案したいと思います。 そもそも、前回指摘したように、立法行為を経ずに実質的な負担割合が引き上げられた固定資産税であるならば、減税を考えるのは当然ではないでしょうか。 その中でも、償却資産に対する課税の減税については経済産業省からも要望が出ています。 「平成24年度税制改正(地方税)要望事項」において「事業用資産に対する課税は国際的にも稀」と指摘しているとおり、そもそも課税される事自体が稀な税であるがゆえに、それが日本の国際競争力を削ぐ原因になっているのではないでしょうか。 経済産業省は「東日本大震災と急激な円高を契機に、産業空洞化とそれによる雇用喪失の懸念が強まっており、国内の企業立地の環境改善が急務。 このため、償却資産に対する固定資産税のあり方を見直し、新規設備投資を促進し、産業空洞化を防止する」と、政策理由をあげた上で、「『機械及び装置』ついて、新規設備投資分を非課税とすること」と「『機械及び装置』について、評価額の最低限度(5%部分)を段階的に廃止すること」を要望としてあげています。 対して、全国知事会は、2013年9月27日の「消費税率引上げに係る経済対策に関する要望・提案」において「償却資産に係る固定資産税については、償却資産の保有と市町村の行政サービスとの受益関係に着目して課するものとして定着しているものである。国の経済対策のために、創意工夫により地域活性化に取り組んでいる市町村の貴重な自主税源を奪うようなことはすべきでなく、現行制度を堅持されたい」として、経済産業省の要望に対して反対しています。 しかし、事業用資産は付加価値創造のための元手にあたるものになります。 したがって、ここに税金をかけることは経済活動を阻害する要因になります。そして、そもそも利益の元手に税金をかけるべきではないと考えます。 そして、全国知事会は「償却資産の保有と市町村の行政サービスとの受益関係」を言いますが、その行政サービスが何にあたるのか、全くはっきりしません。 全国知事会は、もし本当に、この「海外ではほとんど税金がかけられることのない、事業用資産の所有」に、日本だけ税金をかけなければならない理由があるのなら、具体的にあげるべきです。 全国知事会の意見は、税収確保のための言い訳であるとしか考えられないと思います。 私からの提案としては、そもそも事業用資産(償却資産)への課税は、課税根拠が極めて不明確であり、経済成長の阻害要因であると考えられるため、「これを撤廃すべきである」というものです。 そして国際競争力を伸ばし、企業の海外流出を食い止め、国内に生産拠点の回帰を図り、更に海外からの投資、および国内からの投資を促進し、大きく経済成長につなげていくべきであると思います。 ◆消費増税から落ち込んだ景気を減税で立て直し、未来都市建設も進めよう さらに、建物固定資産税は少なくとも思い切った減税をすべきだと思います。2020年オリンピック開催までの建設投資が促進されやすい時期に、思い切った投資促進政策を実施すべきではないかと思います。 特に2014年(平成26年)4月には消費増税も実施されたため、消費も落ち込み、2015年9月8日の内閣府からの発表でも4-6月期のGDPがマイナス成長に落ち込んでいます。 民間の最終消費支出は0.7%のマイナス、民間の設備投資も0.9%のマイナスです。 国外の要因もあるとはいえ、消費増税後に落ち込んだ景気を素早く回復させ、更に伸ばしていくためには、今こそ大胆な減税が必要です。 もちろん、我が党が主張してきたように消費税を5%に戻すことは非常に効果が高いものと考えますし、法人税減税等も議論が進むかもしれません。 ただ、私からはさらに、日本全国の都市の発展、そして2020年に向けて東京をさらに素晴らしく、世界で戦える魅力的な未来都市にしていきたいという観点から、償却資産の固定資産税撤廃、および、建物固定資産税の減税を提案したいと思います。 すべてを表示する « Previous 1 2 3 4 5 Next »