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エネルギーは日本の安全保障と経済の基盤(10) 地球温暖化政策を無害化

http://hrp-newsfile.jp/2019/3607/

幸福実現党 政務調査会エネルギー部会

◆一種の「ポリコレ」となった地球温暖化説

幸福実現党は、人為的な温室効果ガス(GHG)の排出が地球の気温上昇の主な原因であるとする仮説には大きな不確実性があることから、地球温暖化政策を抜本的に見直すべきであると主張してきました。

地球温暖化を専門とする世界の科学者の機関である、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、GHGの濃度が気温上昇に寄与する程度(平衡気候感度)についての不確実性を認めており(※1)、我が党は事実としてこれを指摘しています(※2)。

また、地球温暖化対策の国際枠組み(国連気候変動枠組条約、パリ協定)への参加は、国際衡平性が担保されることが大前提であり、日本が不利になるおそれがある場合には、枠組みからの脱退も含めた措置を講じることを訴えています。

しかし、このような主張を堂々と行う政党は我が党以外になく、特に温暖化の原因に踏み込むことは、政治家も財界人も避けています。この問題は一種の「ポリコレ」(※3)となり、私的にどう考えるかは別として、公的な場で発言すると激しい攻撃を受ける可能性があるからです。

米国のトランプ氏も実業家時代には果敢に“放言”していましたが(※4)、大統領就任後は穏当な発言に抑えています(※5)。

◆パリ協定における削減目標と負担

パリ協定は、全ての国が参加する2020年以降のGHG排出削減の国際枠組みとして、2015年に採択されました。締約国は、産業革命以前からの地球の温度上昇を2℃より十分下方にとどめ、さらに1.5℃以下に抑えるよう努力することを合意しています。

各国が自国の事情に応じて提出した削減目標の達成には、国際法上の義務はなく、努力目標と解釈されます。

この点は、国連が先進国だけにトップダウンで削減義務を割り当て、中国を含む途上国には削減義務がなかった京都議定書(1997年採択)とは決定的に異なるものであり、日本や米国の主張が反映されています。(※6、※7、※8)

しかし、削減目標の実質的な負担には、国によって大きな違いがあります。

日本は2030年に2013年比26%削減、米国は2025年に2005年比26~28%削減、欧州連合(EU)は2030年に1990年比40%削減など、基準年比で排出量を削減する目標を提出していますが、中国は「2030年までに2005年比でGDPあたりの排出量を60~65%削減」と、GDPが増えれば排出量も増やせる目標となっています。

米国トランプ政権は2017年に、米中間にはこのような差異があることを理由にパリ協定からの離脱の方針を発表し、我が党はこれを支持する党声明を発表しました(※2)。

2019年6月に20か国・地域(G20)エネルギー・環境相会合のために来日した米環境保護局(EPA)のウィーラー長官は、記者団の取材に応じ、パリ協定は「米国に不公平な内容だ」と批判しています(※9)。

地球環境産業技術研究機構(RITE)は、削減目標を達成するための2030年における限界削減費用(※10)について、日本は378ドル、EUは210ドル、米国は85ドル(2025年)、オーストラリアは33ドル、ロシアは4ドル、中国・インドはほぼ「ゼロ」と試算しており、日本の経済的負担がきわめて大きいことがわかります(※11)。

◆国内での規制強化を狙う現政権

パリ協定の削減目標の達成には国際法上の義務がないため、仮に日本が2030年にこれを達成できる見込みがなくても、自国の安全保障や経済成長を犠牲にしてまで無理に達成する必要はないのです。

しかし、日本では環境省等の政府機関、東京都等の地方公共団体等が、まるで削減が義務であるかのように規制の強化や業務・権限の拡大を進め、マスコミや環境NGO等がこれを助長しています。

日本では1978年から、省エネの目的で石油石炭税が導入されていますが、2012年からは「地球温暖化対策のための税」(温対税)をこれに追加して段階的に税率を引き上げました。現在の税収は約2,600億円であり、経済産業省と環境省が半分ずつ所管し、この税収に対応する事業を執行しています(※12)。その税率は二酸化炭素(CO2)1トンあたり289円と、実際にCO2削減の誘因となるほどには高くありません。

しかし、環境省では、化石燃料を使いにくくするために、炭素税や排出量取引等のカーボンプライシング(炭素の価格付け)の導入を検討しており(※13)、その税率・価格は1トンあたり1万円以上ともいわれます。仮に1トンあたり1万円の炭素税をかけると、1リットルのガソリンには23円が課税されます(※14)。

◆CO2排出規制は日本の安全保障と経済成長を脅かす

現在、日本の火力発電用燃料に石油はあまり使われておらず、液化天然ガス(LNG)が約50%、石炭が約40%という比率です(※15)。

1kWhの発電に伴うCO2排出量は、LNG火力(複合発電)の376gに対して、石炭火力では864gと2倍以上もあることから(※16)、高い炭素税をかければ石炭火力が経済的に不利になるため、石炭からLNGへの転換を誘導することができます。

しかし、LNGの多くはオーストラリア、インドネシア、中東等から南シナ海を含むシーレーンを経由して輸入されるため、中国が台湾や南シナ海で軍事行動を起こせば、供給が止まる可能性があります。

LNGだけに依存せず、不測の事態に備えて、LNGとは異なる資源分布をもち世界各地から輸入できる石炭も利用可能にしておかなければなりません。

また、現状の発電コストはLNGが石炭よりも高く、経済合理性を無視して石炭からLNGに転換すれば、高い日本の電気料金がさらに上昇して経済成長を妨げ、製造業の国外流出が加速するおそれがあります。

◆不合理な規制は低炭素・脱炭素時代の到来を遅らせる

なお、非常に大きな視点で見れば、世界が脱石油文明にシフトしていく潮流はもはや止まることがなく、いずれ低炭素・脱炭素時代が来ることは確実です(※17)。

既に世界で再生可能エネルギーに関する急速な技術革新が始まり、今後は次世代の原子炉や核融合に関する技術や、送電等のエネルギーの輸送方法、交通の電動化なども大きく進化すると考えられます。

しかし、それは政府の規制ではなく技術革新によって起こることであり、規制によって経済成長を阻害すれば、民間による技術開発の原資や低炭素化に向けた投資意欲を奪い、むしろ低炭素・脱炭素時代の到来を遅らせることにつながります。

我が党はCO2排出規制の撤廃を繰り返し訴えていますが、それは当面の日本の安全保障と経済成長を守るためだけではありません。経済成長の中で潤沢な資金を技術開発に回し、新技術を次々と生み出して技術革新を一段と進め、化石燃料に依存しない「新文明」の到来を早めるためでもあるのです。

参考

※1 「地球温暖化の科学的不確実性」 杉山大志 キヤノングローバル戦略研究所 2018年4月23日 https://www.canon-igs.org/column/energy/20180423_4978.html
※2 「米大統領によるパリ協定離脱表明を受けて(党声明)」 幸福実現党 2017年6月3日 https://info.hr-party.jp/press-release/2017/4762/
※3 ポリコレ: ポリティカル・コレクトネス(political correctness)、政治的建前。
※4 “The concept of global warming was created by and for the Chinese in order to make U.S. manufacturing non-competitive.” Donald J. Trump, Twitter Nov. 7, 2012
https://twitter.com/realDonaldTrump/status/265895292191248385
※5 「トランプ米大統領、米政府の気候変動報告『信じない』」 BBCニュース 2018年11月27日 https://www.bbc.com/japanese/46354080
※6 「『パリ協定』の曲解で国を滅ぼすことなかれ【前編】」 HRPニュースファイル 2015年12月29日 http://hrp-newsfile.jp/2015/2554/
※7 「『パリ協定』の曲解で国を滅ぼすことなかれ【後編】」 HRPニュースファイル 2015年12月30日 http://hrp-newsfile.jp/2015/2556/
※8 パリ協定では各国が当面の削減目標だけでなく、「長期低排出発展戦略」の策定を努力するよう定めており、日本は長期目標として、2050年までに80%のGHGの排出削減を目指すことを決定している。以下を参照されたい。
「『地球温暖化対策計画』の閣議決定について」 環境省 2016年5月13日
https://www.env.go.jp/press/102512.html
※9 「パリ協定は不公平=温暖化軽視を否定-米環境長官」 時事通信 2019年6月16日 https://www.jiji.com/jc/article?k=2019061600290
※10 限界削減費用: ここでは、追加的に1トンのCO2を削減するために要する費用(ドル/トン)。
※11 「パリ協定国別貢献NDCの排出削減努力・政策評価」 秋元圭吾 地球環境産業技術研究機構(RITE) 2017年12月6日
http://www.rite.or.jp/news/events/pdf/akimoto-ppt-kakushin2017.pdf
※12 「地球温暖化対策のための税の施行について(お知らせ)」 環境省 2012年10月1日 http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=15769
※13 「『カーボンプライシングのあり方に関する検討会』取りまとめ」 環境省 2018年3月 https://www.env.go.jp/earth/cp_report.pdf
※14 ガソリンのCO2排出原単位:約2.3kg/Lより、炭素税率を1トンあたり1万円とすれば、ガソリン1リットルあたり約23円。
※15 エネルギー白書2018 資源エネルギー庁
※16 「日本における発電技術のライフサイクルCO2排出量総合評価」 今村栄一ほか 電力中央研究所 2016年7月
https://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/report/detail/Y06.html
※17 「エネルギーは日本の安全保障と経済の基盤(6) 自給率を高めるには再生可能エネルギーが不可欠」 HRPニュースファイル 2019年5月30日
http://hrp-newsfile.jp/2019/3562/

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