このエントリーをはてなブックマークに追加

逡巡するトランプに、日本はイラン攻撃反対を伝えるべき【前編】 

http://hrp-newsfile.jp/2019/3609/

HS政経塾スタッフ 遠藤明成

◆トランプ大統領がイラン攻撃承認を撤回

6月20日にイランが米国の無人機を撃墜したことを発表し、トランプ大統領は、イラン攻撃をひとたびは承認しました。

しかし、その後、攻撃開始の10分前に撤回命令を出しています。

「攻撃への許可を出して30分以内に150人の死者が出る。それは好ましくない」

「(無人機撃墜と)釣り合いが取れていない」

21日のNBCインタビューでは、理性的に思い直したことを明かし、「私は戦争を望んでいない」と述べています。

ただ、同時に、戦争となれば、「(イランは)完全に破滅する」とも警告しているので、イラン攻撃については、予断を許さない状況が続いています。

◆イランのハメネイ師が米国との対話に応じない理由

トランプ氏は外交ルートを通じてイランとの対話も模索していますが、ハメネイ師は応じていません。

イラン側は、「いかなる攻撃も地域的、国際的に重大な結果を招く」と返答しています。

こうした険しい姿勢となったことには、十分な理由があります。

米国は対外的な合意(イラン核合意)を「政権が変わったから」という国内の事情で破談にし、制裁まで課しているからです。

イスラエルの核を黙認しながら、イランの核を「悪」とみなす米国の矛盾に我慢して合意したのに、それを破棄されたハメネイ師は「面目丸つぶれ」です。

イラン側から見れば、とても、最高指導者が話し合いに応じられるような状況ではありません。

◆イランは「ならずもの国家」?

トランプ政権は、2017年に出した「国家安全保障戦略」で、イランを北朝鮮とともに「ならずもの国家」(the rogue states)と批判しました。

そして、2018年に就任した大統領補佐官(安全保障担当)のボルトン氏は、イランを「悪の枢軸」と呼んだブッシュ政権の頃の国連大使です。

現政権においてもイランは悪しき独裁国家にカウントされており、強硬派の閣僚は、攻撃の機会を伺っています。

◆イランの最高指導者と、北朝鮮の金一族とは何が違う

しかし、イランと北朝鮮の体制には、大きな違いがあります。

まず、北朝鮮では、金日成はスターリンや毛沢東の支援を得て、軍を編成しました。

そして、領土を奪い、人々に、社会主義と金一族を崇めるイデオロギー(主体思想)を強制しました。

これは、反対者が強制収容所に入れられる、スターリン型の独裁体制です。

ところが、イランの体制は、その成り立ちが違います。

イランでは、欧米の傀儡となり、イスラムを軽んじた皇帝(パフレヴィー2世)に徒手空拳の信徒が戦いを挑み、民族の伝統と宗教に根ざした国をつくりました。

この「イラン革命」の指導者がホメイニ師であり、今のハメネイ師は、後継者にあたります。

イスラムの場合、教えを解釈する高位の法学者は、生き方だけでなく、政治の指針を示します。

(イスラム教の場合、僧侶や牧師ではなく、教えを解釈する「法学者」が信徒の指導役となる)

ハメネイ師が、ロウハニ大統領のように国民投票で選ばれないのは、その体制が、彼らの信じるシーア派イスラム教に基づいているからです。

これは、ローマ法王をキリスト教圏の住民投票で選ぶわけにはいかないのと同じことです。

その正統性は、彼らが、自分たちの信じる教えに基づいて国を立てたことに由来しています。

結局、イランでは、人々の支持を得た宗教運動の結果、国ができたのであり、金日成のように、軍隊によって人々を力づくで従わせたわけではありません。

また、北朝鮮に比べると、大統領選や議会選で国民が政治家を選べることも、大きな違いになっています。

イランの体制には、北朝鮮に比べると、十分な正統性があるのです。

※シーア派イスラム教とイランの政治体制

シーア派では、ムハンマドの従弟のアリーが殺された後、教えの解釈を担う後継者(イマーム)が12代目まで続いたが、12代目が「お隠れ」してしまい、いつの日か「マフディー」(救世主)として帰ってくると信じられている。その救い主が帰ってくるまで、人々を導き、政治にも指針を示す役割を担うのが「法学者」。ホメイニ師やハメネイ師は、その法学者の最高位にあたる。

◆イランの体制は抑圧的か

イランの体制は、シーア派イスラムの教えのもとで、可能な限り、近代の政治制度を取り込んだものです。

これは、欧米から見れば「異質」な体制ですが、それだけで「悪」と決めつけるべきではありません。

また、イランの体制については、人権抑圧的だという批判が繰り返されています。

例えば、米国務省は、毎年、イランは信教の自由を迫害していると批判しています。

ただ、英米はもともと宗教弾圧を行ったパフレヴィー朝を支援していたのですから、これは、あまり説得力のない話です。

イランは女性の人権を抑圧しているとも、よく批判されますが、同国の大学は、男性よりも女性の学生のほうが多く、女性の社会進出は意外と進んでいます。

ロウハニ政権では、2013年8月に発足した時、11人の副大統領(大臣に相当)のうち、3人の女性が任命されました。

同国では、女性の政治家や経営者、スポーツ選手なども数多く活躍しています。

サウジアラビアで女性の運転が解禁されたのは、つい最近ですが、イランでは1940年代から女性の運転が認められていました。

人権面では、改善すべき点も残っていますが、「イラン女性が虐げられている」というイメージには、誤解も含まれているようです。

【参照】

・産経ニュース「『戦争ならイラン破滅』トランプ氏がテレビインタビューで発言」(2019.6.22)

・同上「【中東見聞録】ハメネイ師、安倍首相への『伝言なき』メッセージ」(2019.6.22)

・鵜塚健『イランの野望 浮上する「シーア派大国」集英社新書

遠藤 明成

執筆者:遠藤 明成

HS政経塾

page top