世界恐慌をサバイバルするセルフ・ヘルプの精神【前編】
幸福実現党外務局長及川幸久
◆イギリスを繁栄させたセルフ・ヘルプの精神
コロナウイルスの被害というよりも経済的な問題が、日本、そして世界で深刻な問題になってきました。
イギリスの著述家サミュエル・スマイルズは、「天は自らを助くる者を助く」(セルフ・ヘルプの精神)という有名な言葉を残しました。
幕末、徳川幕府は、当時の覇権国であったイギリスに海外の技術や知識を日本に導入するため若手を留学させました。その留学団のリーダーが中村正直です。
中村の問題意識は、「同じ島国なのに、どうしてイギリスが覇権国として、これほどまで繁栄したのか」ということでした。
まず、イギリスの工業生産力に驚くのですが、夜は街灯が光を放って明るい。家は江戸城の塀よりも高く、しかも住んでいるのは庶民が住んでいる。これに中村は驚いたわけです。
そのうち日本では江戸幕府が倒れ、留学団は帰国することになりました。
船で帰る直前に中村の知り合いのイギリス人が、「今流行っている本はこれだ」と渡したのが、サミュエル・スマイルズ著『セルフ・ヘルプ』という本だったわけです。
この本は、150年前、聖書の次に読まれていた本で、大ベストセラーだったのです。イギリスをイギリスたらしめた秘伝書と言われています。
300人近くのイギリスの庶民が「自助努力の精神」を発揮して、コツコツ努力して成功してきたサクセス・ストーリーを集めた本でした。
中村は帰りの船の中でこれ読み、「イギリスに繁栄をもたらした答え」はこれだとすぐに理解しました。それが「セルフ・ヘルプの精神」だったわけです
◆「立志」で世界列強に仲間入りした日本
中村は、この本を帰りの船の中で繰り返し読んで暗記するくらいになったと言われています。彼自身は、この本の本質を次のようにつかみます。
セルフ・ヘルプの「自助」とは何か。それは、努力したら道が開けます。それだけではないのです。
そうではなくて、まず志を立てる。志を立て努力によって志を成し遂げる。これがセルフ・ヘルプなのだと。この中心概念をつかみました。
これを中村は、「立志」と呼びます。
日本に帰ると彼自身はこの本を日本語に翻訳して『西国立志編』というタイトルで出しました。
『西国立志編』の西国とは、イギリスのことです。「立志」とは彼がつかんだ「セルフ・ヘルプの精神」だったのでこういうタイトルにしたわけです。
徳川幕府には、「立志」という概念がなく、武士はみんな「幕府にぶら下がっていた」と言うわけです。この本は、明治時代に100万部を超えるベストセラーになりました。
日本は鎖国を続けていた遅れたアジアの国だったのですが、しかし江戸時代から識字率は高く、この本を読んでいなかった者はいなかったと言われるぐらいでした。
その結果、日本は世界列強に仲間入りを果たしたのです。
◆サバイバル精神が日本を繁栄させる
この話を現代に当てはめると、今は不況・恐慌の心理状態にあります。そういう時に人々はどんなことを思ってしまうのか。
「幕府にぶら下がる精神」を、今に置き換えると「政府にぶら下がる精神」になっています。
人々が生活で困っているなら、すべての人の家賃は全部政府が持て。給料も全部持て。電気代も全部持て。何から何まで政府が全部持てばいいじゃないかというような政党もあります。
そうなると、国民も政府が何とかしてくれると思うようになります。
これは、「セルフ・ヘルプの精神」と対極にある考えです。政府に頼る気持ちを捨てて、自分のことは自分で守る。サバイバルする「自助の精神」を持つ人が多い国は繁栄します。
サミュエル・スマイルズの『セルフ・ヘルプ』はこれを説いていました。
◆どんな時でもポジティブに考える
アメリカでは、ノーマン・ビンセント・ピール牧師が世界的なベストセラー『ポジティブシンキング積極的思考の力』で重要なことを言っています。
「目の前の事実がどんなに困難で、絶望的だとしても、それは重要ではない。重要なのは、その事実に対する私たちの姿勢だ。なぜならポジティブな思いを持っていれば、その事実を変えられるから。」
これが「ポジティブシンキング」の中核部分です。
今、「目の前に起きている事実」は重要じゃない。それが10年に1回の不況であったとしても、100年に1回の恐慌であったとしても、それは重要ではない。
重要なのは、「事実に対する私たちの姿勢」なのだと。その姿勢がポジティブであるかどうかだと。ポジティブであったらそれを変えられると。
ここに「セルフ・ヘルプの精神」の大事な側面があります。どんな時も「ポジティブ」に考えることです。
今、自分の人生に何が起きているか。会社が倒産しそうになっているかもしれない。失業しそうになっているかもしれない。給料がもう出ないかもしれない。ボーナスなんかあり得ないかもしれない。
そんな時であったとしても「ポジティブ」に考えるという姿勢が目の前の事実を変えるのだと。
(つづく)
執筆者:及川幸久