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災害後のトイレ対策は自助による携帯トイレの備えを

https://youtu.be/bqHH-faFJC8

HS政経塾11期卒塾生 牛田久信

◆災害ごとに繰り返されるトイレの問題

2024年元旦に発生した能登半島地震では、死者245名、負傷者1300名以上、住宅被害12万戸以上(5/8現在、内閣府発表)などの甚大な被害が出たと当時に、被災直後のトイレ問題が浮き彫りとなりました。

地震直後、石川県内では11万戸の断水が確認され、公共施設や各家庭の水洗トイレを使うことはできませんでした。

その結果、行政は発災直後に、簡易トイレ設置が急務となったり、携帯トイレを配布するなどの対策に迫られました。

大震災で断水が生じると、トイレは使えない場所となります。一見、使えるように見えても、トイレの排水先の下水管が破裂している危険性もあり、安易に使用してはいけません。

それにもかかわらず、発災直後も容赦なく襲ってくるのが生理現象です。しばらく我慢できる水や食糧に比べて、排泄行為は数時間が我慢の限界でしょう。

こうしたトイレの問題は、実は大地震が起きる度に繰り返されています。

1995年の阪神大震災では、地震後の断水でトイレが使用できなくなり、避難所のトイレはおろか、校舎のグランドや側溝、砂場までもが糞尿まみれとなりました。

こうした教訓を充分に活かせず、2011年の東日本大震災においても、同じように避難所のトイレは排泄物の山となりました。

被災後のアンケートでも、避難者が困ったことの7割以上にトイレの問題を挙げており、被災後にまず直面する大きな問題となっています。備蓄対策として、水や食糧にはよく目が行きますが、手薄になりがちなトイレ対策は、今もなお盲点となっています。

◆トイレ対策不足は命に関わる

一般に、災害では、インフラの崩壊や清潔な生活環境の破壊、飲み水確保の困難などによって、感染症のリスクが高まります。

インフルエンザや肺炎、コロナなどの呼吸器感染症やノロウィルスなどの食中毒、外傷から広がる破傷風など、枚挙に暇がありません。さらに、トイレ対策不足は、より一層の感染拡大を招くのです。

2016年の熊本地震でのノロウィルス集団感染はその典型です。複数の避難所において発症が確認され、不衛生になっているトイレが発生源の可能性が高いと指摘されました。2010年、ハイチでもマグニチュード7以上の地震の後、ハイチ国内でコレラが大流行しました。

トイレ問題が起きると、感染症の他にも、トイレに行かなくて済むように水分補給や食料摂取を控えることで、脱水症状や血行不良、エコノミークラス症候群を招くこともあります。

エコノミークラス症候群とは、食事や水分を十分に取らない状態で、車などの狭い座席に長時間座っていて足を動かさないことで、血行不良が起こり、血液が固まってしまい、血の固まりで血管が詰まってしまう病気です。

重症化すると、肺に詰まって肺塞栓などを誘発することもあります。2004年の新潟中越地震においては、死亡事例も発生し、震災後に同症状の発生リスクが広く認知されるようになりました。

◆行政側も、自助の精神を育む取組みを

こうした問題の解消には、即効性のある携帯トイレの普及が急務です。

携帯トイレは、便器に便袋を設置し、付属の凝固剤を使用することで、排水せずとも排泄することが可能となります。使用後は、燃えるゴミとして処理し易いこともメリットです。

携帯トイレの使用によって、トイレの我慢からくる健康被害を防ぐだけでなく、排泄物を避難所や住環境に溢れさせない衛生環境の維持にもつながります。ですから、携帯トイレの普及は、災害対策に不可欠なのです。

しかしながら、行政が町の防災倉庫に大量の携帯トイレや仮設トイレを備えるだけでは対策として不十分であると言えます。

震災直後は、行政機能が麻痺し、そうした公助が行き渡るのには、時間を要します。一方で生理現象は待ってくれません。

発災後に繰り返されたトイレ問題を踏まえると、国民側も、公助を当てにする政府頼みの姿勢は、自分自身の安全や健康を損ねるリスクがあることを知っておかなければなりません。自分(家族)の命は、自分(家族)で守るという自助の精神が重要です。

しかし、2021年のミドリ安全株式会社の調査によれば、備蓄品として災害対策用トイレを備えている家庭は、1割程度に過ぎず、各家庭の普及が急務なのです。

内閣府発行の「地区防災計画ガイドライン」において、地域防災力向上のため、計画を立てるだけでなく、検証し見直していくことを推奨していますが、この携帯トイレの普及率においても、行政や地方議員が中長期的な視点で、現状の把握と向上に努めなければならないと考えます。

幸福実現党の大川隆法党総裁は「政府がやるべきことは、『チャンスの平等を、すべての国民に与える』ということ、そして、最低限の仕事として、『国民の生命・安全・財産を守り切る』ということ」(『日本を夢の国に(街頭演説集4)』「5 一人びとりに未来の可能性を」)と述べられました。

地方政治で言えば、住民を守ることも大きな使命だと言えるでしょう。それを果たすには、震災後のトイレ対策の重要性を、防災訓練や行政広報、SNSの発信等で啓蒙するだけでは足りません。

携帯トイレが自分の町の家庭にしっかり普及しているかどうかを評価することで、地域防災力の進捗を把握して、毎年毎年引き揚げていくことに責任感や使命感を持つことが行政や地方議員には求められるのではないでしょうか。

住民の自助の精神を育み、着実な備えにつながるまで、根気よく地道に取り組み続けることこそが、災害対策には肝要な姿勢であると考えます。

牛田久信

執筆者:牛田久信

HS政経塾11期卒塾生

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