教育の一律無償化は憲法改正に盛り込むべきではない
http://hrp-newsfile.jp/2017/3217/
幸福実現党たつの市地区代表 和田みな
◆今年の夏は憲法改正議論が熱い
2020年の憲法改正にむけて、永田町の動きがあわただしくなってきました。
安倍首相は自民党改正案の年内国会提出を目指す意向を示しており、自民党憲法改正推進本部は9月にそのたたき台をまとめたい考えです。
◆教育の無償化は憲法改正の主要4項目
自民党憲法改正推進本部は、これから、主要4項目を中心に議論を進める方針ですが、その中で、最も各党の合意が取りやすい項目は「教育の無償化」です。
先月、政府がまとめた「骨太の方針」にも「幼児教育・保育の早期無償化」や「高等教育の改革」が盛り込まれる形となりました。
民主党政権時に高校の授業料無償化に反対した自民党としては大きな方向転換ですが、改憲勢力として重要なポジションにある日本維新の会を取り込みたい安倍首相にとって、維新が強く主張する「教育の無償化」が重要な論点となっていることがわかります。
現在、日本国憲法第26条において、義務教育は無償と定められています。また、2010年度からは、高校の授業料についても全額または一部が無償となりました(「高校無償化法」)。
「教育の無償化」議論は、就学前教育や高等教育までこの範囲を拡大しようとするものですが、憲法に明記し、一律に無償化する必要があるのか甚だ疑問です。
◆高等教育の無償化も問題点
「高等教育の無償化」にはどのような問題点があるのでしょうか。
日本の大学の教育支出に占める私費負担の割合は65%と非常に高く、学生と家族に重い経済的負担が問題であると言われています。
このような現状に対して、日本維新の会などは「無償化は教育の機会均等、少子化対策にも資する」「教育投資は成長戦略である」と主張しています。
一方で、定員割れの私立大学は全体の4割強に達しており、授業料を無料にすれば、無料であることのみを理由に進学する人が増えることが予想できます。
また、学割や様々な学生サービスを利用したいがために、学ぶ意思のない人が進学するケースも懸念されます。
このような学生の増加は、定員割れに苦しむ大学にとっては、非常にありがたい施策であるかもしれませんが税金を支払っている国民にとっては、許せることではありません。
やる気のない学生の授業料を税金で賄うことが、投資として本当に有効であるとは思えません。
本来、大学も他の企業同様、市場原理の下で、学生に必要な教育の質を確保し、競争力を維持できるよう、努力するべきです。そのために、国は授業内容や授業料などを自由に設定できるようにすべきです。
逆に、無償化によって経営状態のよくない大学を国が支援する形になれば、「定員割れ」の大学は努力する必要がなくなり、結果として、大学教育の質の低下を招きます。これでは、意欲のある学生が大学に進学するメリットも薄れてしまうということになりかねません。
◆就学前教育の無償化
様々に問題がある高等教育の無償化に対して、就学前教育の無償化については、肯定的な意見が多くみられます。
経済学的な観点からは、「年齢が低いほど人的資本投資の社会的収益率が高い」とする、米ノーベル経済学者のJ.ヘックマンの研究を引用し、幼児教育や保育への投資が正当化されてきました。
さらに、社会保障的な視点からは、自民党の小泉進次郎氏などが主張するように、今の時代は「子どもは社会全体で育てるもの」であり、高齢者向けの社会保障費の増加に比べて、子ども向けの施策の少ないアンバランスな構造を是正するために、就学前の子育て支援の必要性が述べられてきました。
しかし、日本の場合、4歳で幼児教育施設に通っている比率は95%であり、すでにほとんどの子供が幼児教育を等しく受けている現状があります。さらに、保育対象の子供たちの内、全国で2万3000人が待機児童となっており、受け入れる器がない状態です。
待機児童問題が解決されない中、就学前教育が無償化されれば、今預ける必要のない子供たちまで、保育園への入園を希望するようになることは明らかです。
そうなれば、更なる保育園不足が問題となる可能性が高く、これによって保育の質の低下も懸念されます。
◆憲法に教育無償化を盛り込むことは単なるバラマキ
どのような家庭環境にある子供にも、教育を受ける機会を保障することは大切ですが、「教育の機会均等」のためというのであれば、教育内容にも議論が及ぶべきではないでしょうか。無償化によって質の低下を招いては意味がありません。
憲法改正には賛成ですが、教育の無償化を書き込むことには反対です。「教育の無償化」を憲法に明記するとなれば、義務教育と同じように、親の収入や子供の数に関係なく、一律に無償化されることになるでしょう。
これは単なるバラマキであり、ポピュリズム政治です。
教育は一律に無償化するのではなく、経済的に苦しい家庭に対しての、保育料や授業料の減免や教育バウチャー制度の導入、奨学金の拡充などで対応すべきです。
給付型奨学金制度に今よりも多くの予算を割き、能力ややる気のある学生を支援することも、無償化より有効な教育投資になると考えます。
執筆者:和田みな