エンジェル投資で日本を元気に!−−−「個人投資家」編
文/HS政経塾4期生 西邑拓真(にしむら たくま)
◆起業家にとっての 「エンジェル」の役割
3月19日(土)より、映画「天使にアイム・ファイン」が全国で公開されます。
映画「天使にアイム・ファイン」
http://www.newstar-pro.com/tenshi/
天使は、目には見えませんが、人生における苦難や困難の中にある人々を救済するために、地上に生きている私たちを見守り続ける存在です。
一方で、起業家にとって欠かせない存在が「エンジェル投資家」です。
起業家は実際に事業を興したり、それを拡大したりする際に、資金調達を行う必要性が生じます。
エンジェル投資家が、起業家にとって必要な資金を提供することで、その成長を後押しするわけです。
日本における「開業率」は5%程度で、欧米に比べて半分程度の低水準となっており、日本は起業を推進する必要に迫られています。
「アイデア」を持つ人が実際に「起業しやすい」環境を整えるためには、起業家を「バックアップ」する存在としてのエンジェル投資家が、今後、多数輩出されることが求められます。
◆日本の「エンジェル」事情
では、日本のエンジェル投資は現在、どのくらいの規模なのでしょうか。
近年のデータを見ると、個人による年間のエンジェル投資金額について、日本が約200億円であるのに対し、エンジェル投資が盛んなアメリカは約2.5兆円と、日本の年間投資額はアメリカの0.8%にとどまっているのが実態です(奥谷貴彦(2012)『ベンチャー企業の資金調達』(大和総研)参照)。
また、個人投資家の数も、アメリカが約23万人であるのに対し、日本が1万人に留まっており、わが国ではエンジェル投資が小規模に留まっていることがわかります。
◆エンジェル税制とは
日本では、エンジェル投資を喚起する目的から、1997年よりエンジェル税制が敷かれており、2008年にはその拡充を図るため、税制改正がなされています。
このエンジェル税制では、「投資家がベンチャー企業に投資をする時点」と、「ベンチャー企業の株式を売却する時点」の、二つの時点における税制面での優遇措置が設けられています。
まず、投資時点の減税措置は、所得税算出時において、投資した額をその年の「総所得金額」から控除することで、所得税の減税措置を受けることができるというものです。
一方、投資家が持っている「ベンチャー企業の株式」を売却する時点については、損失(キャピタル・ロス)が発生した場合に、売却後3年間で発生した他の株式投資の収益から、その損失分を控除するという減免措置を受けることができます。
こうした二つの時点での優遇措置を設定することで、エンジェル投資を活性化させようというわけです。
(注1)「総所得金額」からの控除額の上限は、「総所得金額×40%」と「1000万円」のいずれか低い方となっている。
(注2)「投資時点」の減税措置は、上記のように「総所得金額」からの控除を受けるか(優遇措置A)、あるいはベンチャー企業への投資額を、他の株式を譲渡した時に発生した利益から控除を受けるか(優遇措置B)の、どちらかを選択するしくみとなっている。
◆更なる 「減税策」の必要性
しかし、税制を改正した2008年以降、日本におけるエンジェル投資はやや拡大する傾向は見せているものの、起業大国アメリカの規模にはまだまだ及ばないのが現状です。
そこで、エンジェル投資のさらなる活性化のためには、より思い切った税制改革が必要です。
まず、投資時点における所得税減税策については、現行の「所得控除方式」から、イギリスなどにおけるエンジェル税制の事例を参考にし、「税額控除方式」に切り替えることが望ましいでしょう。
「所得控除方式」の場合、控除が納税額を算出する過程で行われ、いわば控除の措置が「間接的」なものに留まり減税幅も限定的なものとなる一方、「税額控除方式」を採用すれば、「納税額」から「直接的」に控除額が差し引かれるので、減税幅も大きくなります。
例えば、年収1000万円のAさんが、100万円のベンチャー投資を行い、税額控除幅を投資額の50%とする場合、「所得控除」から「税額控除」に切り替えることで、Aさんが受ける減税幅がおよそ20万円から50万円と大幅に増大することになります。
その他、ベンチャー企業の株式を売却する時点の優遇措置についても、「売却益(キャピタル・ゲイン)が発生した時の優遇策」を盛り込み、売却益の「課税対象額」を圧縮することで、キャピタル・ゲイン税の負担率を低下させることも、有効な策と言えるでしょう。
(注3)Aさんの事例では、その他の所得控除として、基礎控除、社会保険料控除、給与所得控除を勘案している。
◆「起業家」にとっての「エンジェル」を多数輩出せよ!
このように、起業家にとって「天使」としての役割を果たす「エンジェル投資家」にとって、メリットがより大きくなるようなエンジェル税制の大幅な改革が求められます。
新産業を創出し、「ジョブ・クリエーション」を行う可能性を持つ起業家をこの国に多数輩出していくためにも、日本は、こうした減税策を実現することで、起業家がとりわけ資金調達の面で活動を行いやすい環境を整えるべきです。