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オバマケアと医療保険

http://hrp-newsfile.jp/2017/3222/

幸福実現党・岡山県本部代表 たなべ雄治

◆オバマケアの廃止は決まらず

アメリカでは、医療保険制度改革法(オバマケア)廃止に向けての共和党の代替法案が話題となっています。

オバマケアの廃止は、トランプ大統領の公約の目玉の一つでした。

5月に、オバマケアの代替法案は僅差で米下院を通過しました。

ところが先月末、上院での過半数獲得が見込めず採決が延期となりました。

今、アメリカの医療サービスに何が起きているのでしょうか。

◆アメリカの医療制度

アメリカでは、医療保険制度の大部分を民間に任せています。先進国では例外的です。

公的医療保険制度もあります。高齢者・障害者向けの「メディケア」と、低所得者向けの「メディケイド」で、人口の3分の1の方がこの制度に加入しています。

上記以外は民間保険であり、多くの米国民は雇用先を通じて民間医療保険に加入しています。

ところがアメリカの医療費が非常に高いこともあって、民間医療保険の保険料も高額になっています。

保険料が払えない中低所得者などを中心に無保険者は10%を超えており、医療費の支払いに起因する破産などの問題がおきていました。

オバマケアとは、上述の問題を解決すべく、国民皆保険を目指して2014年から導入された医療保険制度です。

国民には医療保険への加入を義務付けて、民間保険会社には国民の保険加入を断れないなどの規制を設け、財政支援も加えました。併せて、メディケイドの条件を広げ、加入しやすくしました。

こうすれば、確かに無保険者は減っていくはずです。

◆オバマケアの評価

では、オバマケアは成功したのでしょうか。

確かに、医療保険の加入率は上がりました。

一方で、保険料が平均25%も値上がりし、オバマケアを提供する保険会社が相次いで撤退するなど、見通しの明るいものではありません。

その原因は、公営の社会保険ではなく、民間保険だからです。

民間保険の場合、リスクの高い人には高い保険料を求めますし、場合によっては加入を断ることもできます。

ところがオバマケアの規制により、リスクの高い国民の加入も断れなくなったため、保険給付が増え、その分を保険料の引き上げで補う必要が出てきたわけです。

さらに、収益を見込めない保険会社が撤退し始めました。

2018年には全米の約半数の州で、オバマケアの保険商品を提供する保険会社が1社以下になるという予想も出ています。

1社だと競争原理が働かず、保険料のさらなる値上がりも懸念されます。

オバマケアは成功とは言えません。

◆オバマケアの代替法案

対して、共和党によるオバマケア代替法案とは、以下のようなものです。

・国民への加入の義務付けを外す。

・保険会社は、リスクの高い人の加入を断ることができる。保険内容に関する規制も緩和する。

・拡大したメディケイドは、段階的に元に戻していく。

完全にオバマケア以前に戻すわけではありませんが、かなりの部分で規制が緩和されることになりそうです。

しかしこの代替法案が可決されると、再び無保険者が増加していくという分析があります。

上院では共和党の中にも代替法案に反対する議員が現れ、冒頭で述べた採決延期につながりました。

◆医療保険のあり方

多くの先進諸国で、医療を含む社会保障が財政を圧迫しています。

医療のように、自由化して市場原理に任せればよいと単純には言えない分野が存在します。

まだどの国も、医療保険のあるべき姿を見つけ切れていないのではないでしょうか。

これからも様々な社会実験をしていくことになるでしょうが、方向性を示すことは可能だと思います。

それは、「公共の資源を食いつぶさない」という「インセンティブ(動機)」を与えることです。

日本では安くて高品質な医療サービスがいつでも受けられます。

しかし、私たちが窓口で支払う診察料の2倍以上の額が、国民の税金から支払われていることを忘れてはなりません。(自己負担3割)

「保険診療を無駄遣いしない」という「インセンティブ」が望まれます。

その一例として、岡山県総社市の「総社市国民健康保険 健康推進奨励金制度(総社市国保「健康で 1万円キャッシュバック」)」を挙げます。

一年間保険診療を使わず、かつ健康診断を受けている世帯に対して、1万円を還付するという制度です。

また、夕張市のような事例もあります。
http://hrp-newsfile.jp/2017/3209/

あるいは、保険診療の利用額が少ない人に、年金給付を増額して還付する方法も考えられます。これらは、生活習慣改善へのインセンティブにもなることでしょう。

正しいインセンティブを与えつつ、効率化は市場原理にゆだねる。これが医療保険のあるべき姿だと考えます。

たなべ 雄治

執筆者:たなべ 雄治

HS政経塾 三期生

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