固定資産税制について考える【その1】
文/HS政経塾第二期卒塾生 曽我周作
◆土地税制を考える
2020年の東京オリンピックの開催まであと約5年。
新しい国立競技場の建設について屋根がつかないままの開催か?などというニュースも入ってきていますが、これからその2020年に向けて東京では様々な都市開発事業が行われていくことになるでしょう。
ただ、その開発について阻害要因の一つとなりそうなのが、固定資産税という税金を含む土地税制ではないかと思われます。
土地などの不動産に係る税金としては固定資産税の他、不動産取得税などいくつかの税金がありますが、今回は「固定資産税」について考えてみたいと思います。
◆固定資産税の位置づけ
土地や建物の所有に対して課税される固定資産税は、平成24年度の決算でいえば、税収は8兆5,804億円で市町村税の42.2%にあたる税金であり、地方財政の財源としては極めて重要な位置づけにある税金だといえます。
この固定資産税について、その課税根拠は様々な指摘がありますが、「最も有力な考え方は、地域的な行政サービスの対価として固定資産税を課すというものである」(岩田規久男:『都市と土地の理論』より)という指摘のように、固定資産税は地方行政のサービスに対する「応益課税」であるという意見が多くみられるところです。
ただし、(昭和6年の地租法制定について)「不動産についての保有税が本質的に収益課税であることから、これに最も適切な課税標準として賃貸価格が選択された…本税制は、シャウプ税制により課税標準を資本価格とされたが、課税の本質からすれば、地租税制度が優れていたと考えざるを得ない。」(佐藤和男:『土地と課税』p73)という指摘のように、土地の保有に関する税金は「資産収益」に課されるべきものであるという考えもあります。
また、「固定資産税は、地方自治体のサービスへの「応益課税」とされているが、同時に、貴重な都市空間の効率的な活用を促すための「市場価格」としての役割をもっている。…固定資産税は貴重な都市空間の「使用料」としての意味を持っている」(八代尚宏:『規制改革で何が変わるのか』より)というような指摘もあります。
この指摘から考えると、固定資産税には、特に「土地」という国家にとって限られた資産を使用するための使用料とも考えられますし、また、その限りある資源を有効活用して付加価値の創造を促すという意味もあるものとも考えられます。
◆建物固定資産税は応益課税として妥当?
ただ、現行の固定資産税は土地と建物に対して課税がなされるわけですが、特に建物固定資産税については「再建築価格」を課税標準としていますが、これは応益課税としてふさわしいものなのでしょうか。
というのも、「再建築価格」を課税標準とすると、質の良い建物ほど高い税金が課せられます。しかし、質の良い建物を建てるとその分行政サービスの充実が図られるとは単純には言えないと考えられるのです。
たとえば、先日川崎市内で簡易宿泊施設の火災があり、耐火建築物になっていなかったことが問題視されていますが、鉄筋コンクリートの耐火建築物になっていたならば、そしてスプリンクラーなどの設備があれば、あれほどの被害が出ずにすんだ可能性があります。
そうすると、それはある意味で、耐火構造の建築物は、もしもの時に人的被害等を軽減させると同時に、行政側の消防におけるサービスへの負荷をも軽減させると捉えることも可能になるわけです。しかしながら、反面、建物に対する固定資産税は高くなります。
これは質の良い建物に対して、その分行政サービスが増すと単純に言うことはできない例の一つだと考えられます。
◆建物固定資産税は投資を妨げる効果がある
さらに言えば、土地の保有に対して税金が課せられることは、前の指摘のように土地の有効利用を促すものになり得るものと考えられますが、建物に係る固定資産税は、より質の高い建物を建てればそれだけ税額も高くなるということになりますので、建物に投資することが不利に働いてしまいます。
したがって、建物固定資産税は投資を妨げる税制であると考えられるわけです。
そして、投資を妨げるだけではなく、例えば耐火構造の建築物への建替えなどを阻害してしまっては、火災の発生時、また大規模な震災などの発生時に被害を大きくしてしまうことにもつながります。
これは建物固定資産税のあり方は、非常に望ましくない形での租税回避行動にもつながる可能性があることを意味するわけです。
よって、この建物固定資産税の制度を見直すべきではないかと考えますが、次回は、さらに建物固定資産税の問題点を見ていきたいと思います。(その2につづく)