日本の農業とコメ文化を破壊する「減反」を今すぐやめよう【幸福実現党NEW174号解説】
幸福実現党政務調査会代理 小川佳世子
幸福実現党NEW174号
https://info.hr-party.jp/newspaper/2025/15014/
◆なぜおコメは高くなったのか?
おコメの値上がりが止まりません。
5月7日に発表されたコメ5キロあたりの平均販売価格は4233円で、17週連続の値上がりとなりました。
5月中旬に入って、ようやく前の週から19円だけ値下がりしましたが、依然として1年前の約2倍以上の価格になっていることは変わりません。
自宅で食べるおコメだけでなく、飲食店ではご飯の大盛やおかわりの無料サービスがなくなったり、コンビニのおにぎりが値上げされたりと、おコメの値上がりは家計に大きく響いています。
なぜ、おコメはこれほど高くなってしまったのでしょうか。その原因はズバリ「減反政策」です。減反政策とは、コメを作る田んぼの面積を減らし、コメの生産量を調整することで、おコメの値段を高く維持する政策です。
政府は「2018年に減反政策をやめた」と主張していますが、主食用のコメの代わりに家畜のえさ用のコメを作ると、補助金がたくさんもらえる仕組みが維持されており、主食のコメの生産を計画的に減らし続けている状況は変わりません。
実際、2023年秋に収穫されるおコメの量を、前の年より10万トン減少させるという計画を進めていたのですが、猛暑などの影響でコメの収穫が計画よりさらに30万トン減ってしまいました。
コメは工業製品などとは違い、安ければその分買う量を大幅に増やしたり、逆に高くなったら買うのをやめたりする商品ではありません。
年間を通じて同じくらいの需要があり続け、また1年に一度しか収穫できませんので、全体からすればわずかな生産量の減少であったとしても、供給が減るとすぐ値上がりしてしまうのです。
中国人や転売ヤーといわれる人たちがたくさん隠し持っているわけではなく、おコメの生産量を政府が計画的に減らしたため、コメが不足しているというのが、今回の値上がりの最大の原因です。
しかも、「コメの収穫量が増えれば価格が下がる」ため、単収といって「単位面積当たりのコメ収穫量を増やす」品種改良も日本はやめてしまいました。その結果、同じ農地面積で、アメリカ産のコメの生産性は日本の1.6倍となっており、かつて日本の半分の生産性しかなかった中国にも抜かれてしまいました。
なぜここまでしてコメの生産を減らしているのかといえば、コメの価格を高く維持して、小さな農家の収入を守ろうとしているのです。もちろん、善意からではありません。小さな農家は自民党の票田なので、農家を敵に回せば、自民党は地方の選挙で勝てなくなるからです。
ただ、あまりにコメが高くなり、消費者から批判の声が上がっているので、政府は備蓄米の放出を決めました。備蓄米とは、本来、災害や有事などでコメが足りなくなった時の緊急用に保存しておくべき食糧ですから、本来、価格調整のために出すものではありません。
しかし、備蓄米まで放出しても価格は上がり続けました。なぜなら、ほぼすべての備蓄米は、コメの価格を下げたくない農協に渡ったからです。
◆コメは一粒たりとも入れないという貿易政策
さらに、日本は、コメの生産を減らすだけでなく、外国産のコメに高い関税をかけて、輸入をしないようにしてきました。輸入が増えれば、当然、コメの価格が下がるからです。
政府の本心としては、コメは一粒たりとも入れたくなかったのですが、自由貿易を推進するWTO(世界貿易機関)の加盟国として、「自動車などは自由に輸出したいけど、コメは一切輸入したくない」というわけにはいかず、「最低限のコメは政府が買うので、コメの自由貿易は勘弁してほしい」ということで、年間約77万トンのコメを輸入しています。
これをミニマムアクセス米と呼んでいます。
しかもこのミニマムアクセス米は主食用としての利用は最大10万トンまでとなっていて、他はあられや味噌などに加工するためのコメか家畜のエサとして安く売られています。その結果、年間700億円近くの赤字が出ているのです。
一方、民間がコメを輸入する時には1キロあたり341円という関税をかけています。
ここ数年のコメの卸売価格は、1キロあたり240円でしたので、1キロ341円の関税がかけるなら、外国産のコメはタダであっても国産米より高くなるため売れず、輸入されないというわけです。
とはいえ、現在では国産のコメの価格が2倍以上になったため、341円の関税がかかっても外国産の方が安く売れるため輸入が増え、アメリカ産や台湾産の米が流通し始めました。
現状では「多少高くても、国産米が食べたい」という人は多いですが、今後、国産のコメがもっと高くなれば、消費者はやむを得ず外国産のコメを買うようになります。
また、大阪府交野市の小中学校では、コメが高くなったため、おコメの給食を週3回から週2回に減らすことにしたと報じられました。
一般の消費者でも「コメが高くなったので、最近はパスタなどを食べています」という声も聴かれるようになりました。
「日本の農業を守る」「コメは日本の文化だ」と言い張っても、市場原理をあまりに無視した政策では、国産のコメ離れを招き、コメ文化を衰退させることになります。
このように減反は、家計だけでなく、日本の文化にも大きなダメージを与えるのです。
◆日本を危機にさらす「減反政策」
そもそも、高い税金を出して主食であるコメ生産を減らす「減反政策」は、共産主義の中国も真っ青になるような異常な政策です。
減反は、高い税金を払って高いコメを買わされる消費者の負担が増えるだけでなく、食料安全保障を損ないます。
つまり、万が一、台湾有事などが起きて、シーレーンが閉ざされて食料の輸入ができなくなれば、大半の国民が飢えて死んでしまうことになります。
何しろ現在、日本のおコメの生産量は、国民の大半が餓死した終戦後間もなくの時よりも少ないのです。終戦時は900万トンのコメを生産していましたが、現在の主食用のコメ生産量は700万トンを切っています。しかも、日本の人口は終戦時より1.7倍に増えています。
もちろん、現在はお金さえ出せば輸入ができますので、私たちの食事にはおコメ以外にも様々な選択肢があります。
しかし、その輸入が止まってしまったら、コメとイモくらいしか食べるものがなくなります。有事が起きてからコメの生産を増やそうとしても間に合わず、たちまち終戦時より悲惨な食料不足となり、国民の半分以上が飢えてしまいます。
税金を使って主食のコメの生産を減らし、国民を危機に陥れる政策は一刻も早くやめるべきでしょう。
◆コメの価格を維持しながらコメ農家を守るには?
このようにコメの価格が昨年の2倍以上になって家計を苦しめているのに、コメを生産する立場からは「今の値段でも安いくらいだ」という声もあります。
JA会長は「決して高いとは思っていない」「長年にわたり、生産コストをまかなえていないような極めて低い水準だった」と述べています。
しかし、1キロあたり341円の関税がかかっている輸入米が国産米より安く売られているということは、世界的に見て、日本のコメがいかに高いかを示しています。
現状では、国産米よりお値打ちだと感じる程度ですが、関税がかからなければ、輸入米の販売価格は1キロ当たり200円から250円程度となると見込まれています。5キロなら1200円程度になりますので、値上がりする前の日本のコメよりはるかに安いと言えます。
こうしてみると、日本の消費者は異常に高いコメを買わされていることが分かります。
政府がどれだけ農業生産者に支援をしているかを表す「PSE」という指標によれば、アメリカが12%程度、中国が14%なのに対して、日本は41%です。
このPSEは、農家への補助金や、農産物の値段を高く維持して、他国より高いコメを買わされている消費者の負担も含まれるのですが、こうしてみると、日本は相当農家を手厚く保護をしていることが分かります。
ここまでしてコメ農家を保護しているのに、まだ「コメが安いから生産コストがまかなえない」というのは政策が明らかに間違っているのです。
なぜこれだけ政府が保護しても、コメ農家はあまり利益が出ないのでしょうか。
まず挙げられるのは、日本は諸外国では農家と見なされない、小さな農家でも「農家」と見なして、政府の保護の対象にしているということです。
特にコメ生産を行う農家は、兼業農家の割合が92%を超え、家計の主な収入は農業以外で得ています。
日本では「農業は弱い産業だから保護しなくてはいけない」と思わされていますが、いわば副業でやっている小さな農家まで保護の対象になっているというだけのことです。
小さな農家は、農業用の機材を購入したりレンタルしたりしても、たくさんコメを取れないので、生産コストに見合った収入が得られない、いわば生産効率が良くないのです。
一方、大規模な農家であれば、最先端の農業機器を導入しても、その分大量生産ができるので、利益が出るわけです。
しかし、日本ではコメの値段が世界的に見て高く維持されているので、生産効率が悪くても副業と考えればそこそこの収入が入ってきます。さらに、家族や親戚で食べるコメが、お店で買うよりは安く手に入るので、小さな農家もコメづくりを止めないのです。
政府が保護を止め、コメの値段が世界標準レベルに下がれば、小さな農家はコメづくりをやめ、農業で主な収入を得ている大きな農家への農地の集約が進みます。小さな農家にとっても、農地を売ったり貸したりすることでメリットがあるのです。
減反を止めて、日本でおコメをたくさん収穫できるようになれば、価格が世界標準レベルに近づいていき、日本のおいしいおコメを海外に売ることもできます。
「日本米」を一つのブランドとして海外に売り出せば、海外の富裕層にも人気が出るのではないでしょうか。
このように、海外に輸出できるくらいの量のおコメを平時から作っておけば、万が一、食料の輸入が止まった時には日本国内で食べて飢えをしのぐことができるわけです。
とはいえ、穀物の価格は、天候や世界情勢によっても大きく左右されますので、想定外に価格が下がることも考えられます。
そのような場合は、コメ作りで主な収入を得ている大規模農家の人たちの所得を支援すればよいのです。これは「直接支払い制度」と呼ばれ、EUなどでもすでに導入されています。
幸福実現党としては、基本的にはある産業の所得を補償するような政策は望ましくないという立場ですが、日本の食料安全保障強化という観点から、主食の生産を担っているコメ農家が、今後も生産を続けていけるように保護することは、ある程度必要だと考えます。
この「直接支払い制度」は、消費者は適切な市場価格でコメを購入でき、農家も存続できるうえ、食料安全保障の強化にもつながる点で、コメの生産を調整して価格を維持しようとする減反政策よりもはるかに理に適ったやり方といえます。
◆農業に関する様々な規制を取り除く
そして、農業をさらに発展させるために大切なことは、農業に関する不必要な規制を取り除くことです。
例えば、農業の生産性を高めるには、高度な経営ノウハウを持つ食品加工会社などが広い農地を取得し、農産物を生産するようなスタイルもあり得るでしょう。
しかし、現在の農地法では、株式会社が農地を取得する場合、主な事業内容が農業(耕作)である必要があります。また、半数以上の役員が、年間150日以上農業に携わらなくてはいけません。これは現実的ではありません。
ゆえに、大きな食品加工会社の場合は農地が持てず、もし持ちたい場合は、別の会社を設立する必要があるなど、いろいろ面倒なことになります。
また、個人で農地を売買したり、貸し借りしたりする場合でも、市町村に置かれる農業委員会の許可を得なくてはいけません。農業をやりたい若い移住者にとっては、農業委員会とのやり取りも農業を始める上で大きな足かせになります。
また、現在は、農家がコメを直接消費者に売ったり、中食・外食業者に直接販売や契約栽培をしたりすることも増えていますが、主に家庭で消費される主食用のコメの集荷の9割近くは、未だ農協が押さえています。
現在、新しい農協を設立するハードルは高いですが、農協設立の規制を緩和したり、地元の農協以外にも加入できるようにしたりして、新しい経営や流通の担い手が登場しやすくすることで、儲かるコメ農家をたくさん育てることができる可能性が開けます。
例えば、主食用のコメ以外にも、お酒用のコメ、寿司用のコメ、洋食に使うおコメなど、用途に合わせたコメを作って付加価値を生み、新たな販路を開拓することもできるでしょう。
農業政策を見直せば、日本の農業には大きな可能性があります。
大川隆法党総裁は、2010年2月に行われた質疑応答で、以下のように述べています。
「全世界を見ると、日本の農業は間違いなく、世界一進んでいるのです。『この世界一進んでいる農業が、高付加価値産業にならない、大きな付加価値を生めないでいる』ということは、やはり、何かの取り組みに間違いがあると考えなければいけません。
今の政府のやり方は、この世界一進んでいる日本の農業に対して、寝たきり老人のような扱い方をしているのです。『補助金を出して保護すればいい』というような考え方ではなく、もっと創意工夫を生かし、高付加価値のものを売り出していけるようにしていかなければいけません」
そのために、「世界一の技術を生かした高付加価値の商品を作る」ことと「PR戦略と共に安いものを海外に輸出していく」という二つの道を示されました。
コメ農家についていえば、世界一おいしいコメを作って高く売る道と、面積当たりの収穫量を増やす品種改良を進め、安くて安全なコメを世界に売るという二つの道があります。
小さな農家を存続させ、農家から票をもらおうという狭い了見にとらわれることはあまりに寂しい発想です。
そうではなく、日本の農業が優れた生産技術を生かし、日本も世界も豊かにする尊い使命を果たせるような、誇り高き農業政策を推し進めていくべきではないでしょうか。