国民を更に貧しくする「働き方改革」は天下の愚策。働きがいのある国にするには。
幸福実現党党首 釈量子
◆「2024年問題」働き方改革で貧しくなる日本
2015年に大手広告代理店で起きた過労自殺をきっかけに、2019年から、残業時間の上限などを規制する「働き方改革」が始まりました。実質上の「働かせない改革」で、これに対して苦しんでいるという声が多数寄せられています。」
例えば、大阪府の商店経営者からです。
「朝10時に開店で、夜8時に閉店しています。10時間労働となるので2人、あるいは3人シフトにせざるを得なくなりました。これで人件費が上がりました。また、政府は賃上げを要請しています。給料を上げると、雇用保険、社会保険の負担も上がります。賃上げ税制で戻ってくるといっても、微々たるもので雀の涙。残業規制がとにかく一番キツイ。」
この「働かせない改革」ですが、これまで「運送業」「建設業」「医療」の3つの業界においては、仕事の大部分を人間の労働力に頼る、その対応に時間がかかるため、猶予期間が儲けられていたのですが、4月からその3つの業種の猶予期間が終わり、約2カ月経ちました。
案の定、憤懣やるかたない声が噴出しています。人手がないとそもそも仕事が回らない「労働集約型産業」は、システム導入などで業務を効率化するといっても、限界があります。
こうした業種に「働く時間を減らせ」「さもなくば処罰する」という政策は、現場の実情を無視しているといえます。
◆「働き方改革」の悪影響について
●建設業界
建設現場は天候の影響などもあって思うように工事が進まない場合、以前は一時的な残業で対応していましたが、今後は、時間外労働の上限は「月45時間、年360時間」を原則とし、災害復旧などの特別な事情がある場合でも、年間720時間以内、ひと月最大100時間未満となります。
違反した場合は罰則がかせられるので、より多くの人手を確保する必要に迫られています。
いま、ビルの建て替え工事などが先送りになることが相次いでおり、例えば、広島駅前に建設されるアパホテルは、当初、2026年春の開業を目指していましたが「時間外労働の上限規制」の影響で、2028年春に約2年延期となっています。
大手だから余裕かと言えばそうでもなく、大きいところほどメディアも取り上げ公表されるので厳しいです。
工期の延長の影響は深刻です。コロナ禍以降、資材価格が高騰し、人手不足、人手を確保のための賃上げの圧力、そこに「働き方改革」という名の残業規制がのしかかりました。
帝国データバンクによると、2023年、建設業界の倒産件数は前年比38.8%増と急増しています。
倒産が増え、工事の停滞や先送りが生じると、元請けから下請けへの支払いが遅れ、資金繰りが悪化する企業がさらに増えてしまいます。地域経済への影響もあるので、目が離せません。
●運送業
運送業も、残業の上限が年間960時間となりました。
他にも
・1日の拘束時間(労働時間)は原則13時間が上限。
・休憩時間を8時間以上確保すれば最大15時間まで延長可能。
・連続運転時間は4時間が上限。4時間経過後は30分以上の休憩が必要。
・1週間に2回までは拘束時間を15時間まで延長可能。
・この上限規制に違反した場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金刑が科される可能性があります。
運転手一人が働ける時間が短くなるため、一人でやっていた仕事を二人、三人でやらねばならなくなり、多くの運転手を必要とすることになりました。
ドライバー不足は、様々な業種に深刻な打撃を与えています。特に長距離輸送のトラック運転手には深刻な問題が生じています。
年間の残業時間の制限だけではなく「連続運転が4時間を超えると30分の休憩を挟む」「1日の拘束時間は原則13時間以内」などの細かいルールがあるため、あと少しで会社に戻れる場所まで来たのに、そこでトラックを止めて朝まで休まなくてはならず、家に帰れなかったというケースもあるようです。
次に「バス業界」です。
慢性的な運転手不足に加えて、残業規制強化によって、全国各地の路線バスが大幅に減便となり、千葉県の調査によると、県内35の路線バスにおいて、4月16日時点で半年前より1900便減ったと公表しています(3万1900便から3万便へ)。
減便理由の8割が、残業時間などの時間外労働規制の導入を上げています。
また、「運転手不足と時間外労働の上限規制」を理由に、修学旅行のバスの手配ができないと断わるケースも発生し、「業界崩壊の危機」とも言われています。
「引っ越し業界」でも、残業規制の強化でドライバーが確保できないため、3月の引っ越し依頼を100件以上断ったという企業があり、新入学や入社シーズンの3月から4月、引っ越しができない「引っ越し難民」が続出しています。
「宅配業界」は、翌日配送していた地域への宅急便を、翌翌日配達に変更したり、翌日の配達時間の指定を断ったりする対応を取っています。
スーパーやコンビニなどの小売業においても、商品を各店舗に配送する回数を減らす対応をしています。
●医療
医療も、既に土曜日の外来診察を減らすなどの対応を始めています。救急患者のたらいまわしなどがもっと深刻化する可能性もあり、死亡率が上がるのではないかと危惧されています。
また過疎地など地域医療に影響が出ると予測されています。実際、北海道の離島への医師の派遣を減らす、見送るといった事例が出始めています。
◆「働き方改革」の対応に追われる企業
このような中、企業も仕事を断る、減らす、またコストの負担に耐えながら対応を取り始めています。
長距離輸送運送会社では、一人のドライバーで運ぶと一日の上限時間を超えてしまうため、中継点でドライバーを交代して二人にするといったスイッチ体制を組むなどしていますが、人件費は増えます。
そこで、1台で通常の大型トラック2台分の荷物を運べる「ダブル連結トラック」(全長25メートル)を導入する企業も出てきました。(鴻池運輸)
運送業では、2025年には現在運んでいる荷物の28%が、2030年には35%が運べなくなるという試算も出ています。
深刻な危機感から、物流大手のヤマトHDは、効率的な共同輸送に向けて、荷主と物流会社のマッチングを行う新会社を設立したと発表しました。トラックの積載率を向上させ、配送の効率化を目指すということです。
こういうと、よくお役人は、「2024年問題をプラスに捉えて…」とか「物流の改革が進みつつあるのは、政府が残業規制を強化したからだ」などというのですが、違和感があります。
大型トラックには、休憩時間や一日の上限時間を守っているかを確認するため、運転速度、運行時間、走行距離などを記録する「デジタコ」と言われる機器の装着を義務付けられています。
また、国交省の役人が「トラックGメン」となって監視の強化も始まりました。こうした規制の強化のオンパレードで、これで仕事をしているつもりなら、それは社会主義の国の官僚と変わりません。
国交省は「2024年問題」対策に、総額482億3500万円(22・26倍)という超大型予算を組んでいますが、政府がやることはたいてい壮大な「無駄遣い」となり、税金をドブに捨てるのと同じという状況になりがちなのです。
◆働き過ぎを一律決めるな! 自由の領域を増やすのが政治の仕事
私たち幸福実現党は、政治の仕事とは「国民の血税を再配分して、規制を強化すること」ではなく、その逆である「自由の拡大」だと考えています。
「働き方改革」が進む中、2021年に労災認定の基準、いわゆる「過労死ライン」が見直されましたが、何時間の仕事を「働きすぎ」かなど、年齢や体力など個人差がありますし、「仕事の負担感」も、やりがいや職場の雰囲気など、さまざまな要因に左右されます。
そうした個人や企業の事情を無視して、一律「働きすぎ」の基準を決め、休憩時間まで口を挟み、残業時間を守らないと企業に罰則を科すというのは、政府がすべてを把握し、経済をコントロールできると思っているからでしょう。
親切のつもりでしょうが、これは「致命的な思い上がり」です。
政府が、個人の働き方や労働契約に口を挟んでくるような政治が、国民の自由をどんどん奪っています。こうした政府の領域が大きくなっていくのと「大きな政府」といいます。
この真逆の「小さな政府、安い税金」にすべきだというのが幸福実現党です。
実際、トラックドライバーへのアンケートでは、「収入が増えるならもっと働きたい」と回答した人が42.5%と最多でした。
もちろん、「収入が増えたとしても働きたくない」という人もいますので、それは各従業員が会社と相談しながら働き方を決めればいいだけのことです。
働けなくなることで「手取りが減る」庶民にとっては、住宅ローンや子供の学費の工面など死活問題です。そのためいま「副業」に注目が集まっていますが、「エセ副業」など問題も多発しています。
そもそも、残業規制など、企業に余計な負担を強いることになるので、企業はそうしたコストを宅配サービスや商品の価格に上乗せします。国民にとっても「高い税金」を支払わされているのと同じようなことになるわけです。
◆勤勉の精神を失わせる愚策「働き方改革」勤勉あってこその経済成長
結局、「働き方改革」は、「勤勉の精神」を失わせ、国を貧しくする愚策です。
特に怖いのは、長時間労働を処罰するような政府の動きが、「長時間労働は望ましくない」という考えがさも「常識」のように国民に浸透してしまうことです。
確かに、短時間で優れた成果を出すのが一番ですが、仕事に慣れない新人の頃は、頑張って働かなければ経験値も増えず、智慧や工夫も生まれてきません。
また、「自分は人の二倍、三倍努力しなければ身につかないけれども、それでも働きたい、お世話になった社長の役に立ちたい」と言う青年がいました。
「学習障害」と診断された青年です。効率よくサクサク仕事できなければ切り捨てられるような環境を、政治が作るのは本末転倒です。
実際問題ですが、「経済成長と労働時間」には関係があります。
イギリスでは、17000年から1870年までの170年間、経済規模が10倍に拡大しました。この成長を裏付けるのが労働時間です。年間の平均労働時間は約2600時間から3500時間へと35%も増えました。
そしてこの時代、『自助論』「天は自ら助くるものを助く」という自助の精神が読まれていたのは有名な話です。勤勉さが、国の成長を導くわけです。
見事にその逆の方向に向かっている「働き方改革」です実際、近年の日本の労働時間は減少傾向にあります。
1988年に約2100時間だった日本の年間平均労働時間は、33年後の2021年には1600時間程度と大幅に減少しています。
「年次有給休暇の取得」も義務づけられていて、2019年から、従業員に年間5日以上の有給休暇を取らせないと、違反者一人につき30万円以下の罰則が企業に科せられるようになりました。
日本の年次有給休暇の取得日数は、アメリカに次いで少ないものの、祝祭日の日数はG7諸国で最多となっています。休日全体は、ドイツに次いで多い国です。
日本の経済規模を示すGDPは中国、ドイツに抜かれ、世界2位から世界4位にまで落ち込みました。来年にはインドにも逆転されると見込まれています。
二宮尊徳型の「勤勉さ」を取り戻さなくてはならないのではないでしょうか。
そもそも「仕事」とは何か。大川隆法党総裁は、「人間は、ともすれば、仕事に不満を持ったりするけれども、『世の中に仕事がある』ということに感謝したことがないのではありませんか」(中略)「仏が、自分と同じような創造の喜びを人間に与えようとして、仕事というものを与えたのだ」と考えてよいのです。(『仕事と愛』) と説かれています。
「思いによってあらゆるものを創造する自由」が神の子の証明であるし、この「自由」こそ、人間の最大の幸福だということです。
また、「働く」ということが、多くの人への「愛」となれば、また多くの幸福を生んでいけます。
「働く」ということは、生きていく糧を得るということですが、この世に生まれてきた目的や使命、つまり、「天命」「使命」にも昇華する精神的な問題でもあります。
今日お話しした内容は、幸福実現党NEWS162号「『働き方改革』で貧しくなる日本 働きがいのある国にするために」にまとめています。
幸福実現党は、「小さな政府、安い税金」を掲げ、働くことの喜び、自助努力からの繁栄に道を拓こうとしている唯一の政党です。
私たち一人ひとりの自由と豊かさ、幸福を守るために共に声を上げていきましょう。