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国富を増やしていくには

http://hrp-newsfile.jp/2022/4311/

HS政経塾スタッフ 赤塚一範

◆実物資産と金融資産

家計の金融資産が2,000兆円を突破したと報道されています。

これを受けて、岸田総理が掲げる「所得倍増プラン」では「貯蓄から投資へ」つまり、NISAやiDeCo等の国民に株を買わせる政策を拡充しようとしています。

また、日銀の黒田総裁も、家計の金融資産の増加により、家計はインフレに耐えられると発言し、国民の非難を浴びました。

本当に家計の資産は増加しており、国民はインフレに耐えられ、株を買うことが出来るのでしょうか?

ここで理解すべきことは、富には大きく実物資産と金融資産の2種類あり、金融資産だけ増えたとしても何の意味もないということです。

実物資産とは、現実の世界を生きている国民の生活を豊かにし、外国や自然の脅威から国民を守るための具体的に実体を持った資産のことをいい、その中でも特に固定資本が日本の国富の中心を構成しています。

固定資本とは、住宅、工場、機械設備、道路、ダム、港湾、知的財産等のことですが、日本には2020年末、1,986兆円存在しています。

他方で、同年の現預金、債券、株式等からなる金融資産は8,582兆円となっており、固定資産の約4倍も存在しています。

◆金融資産は国富ではない

次のことに気を付けなければなりません。それは、金融資産とは、貨幣の貸借でいくらでも増やすことのできる資産であり、実物の財の裏付けがなければ、まやかしに過ぎないということです。

たとえば、日本国民が日本の国債を1兆円購入したとしましょう。この場合、国民は1兆円の金融資産を得ると同時に、日本政府は1兆円の負債を負ったことになるのです。

更に日本政府が日本国民にこの1兆円をばら撒き、日本国民がその1兆円で日本国債を購入するなら、さらに1兆円分の金融資産と負債が増加するのです。

アベノミクス第一の矢「異次元の金融緩和」によって、国全体の金融資産と負債は劇的に増加しました。2012年末の金融資産は6,018兆円でしたが、2020年末には8,582兆円となっています。

つまり8年間で金融資産は2,564兆円も増加したのです(当然ですが負債もほぼ同額増加しています)。

問題なのは、この金融資産の増加と比べて、国富の重要な要素である実物資産が増加していないことです。2012年末の固定資産は実質値で1,865兆円、2020年末は1,905兆円です。

なんと、8年で46兆円しか増えていないのです。金融資産が8年で2,564兆円増えたのと比べると驚きですが、これはバブルと言ってもよいでしょう。

かなりざっくり言うと、2,564兆円も貨幣的なものが増えたのに、その貨幣で買うことのできる実物資産は、46兆円しかないのです。

◆日本は借金で飲み食い(消費)している

これが意味するのは、アベノミクスの8年間で政府は、借金で、実物資産を作る(投資)のではなく、飲み食い(消費)していたということなのです。

今の日本は、将来の生産のための元手である資本を現在の生活のために食いつぶしているような状況です。

簡単に言えば、来年植える種イモを現在の生活のために食いつぶしている状態であり、これでは将来のイモが取れなくなってしまい、やがて困窮してしまうのです。

皆さんは21世紀が思ったより進歩していない、例えば、なぜドラえもんやアトムのような空中に道路があり、ロボットが仕事をし、宇宙旅行に行ける未来世界になっていないかをお考えになったことがあるでしょうか。

その大きな原因一つが資源の浪費です。日本経済全体で考えてみましょう。日本では、2020年度に535兆円の生産が行われました。

このうち、固定資産の形成に使われた金額は、135兆円で、残りの大部分(約400兆)は家計や政府によって消費されてしまったのです。135兆円もの投資があるなら、未来社会がやって来ると思う人もいるかもしれません。

しかし、毎年、同じ規模(2020年度は135兆円)で固定資産は摩耗、劣化していくのです。従って、固定資本が壊れる以上に投資をしないと実物資産は増加せず、アニメのような世界にはならないのです。

◆国富を増やすには

では、固定資産を増やし、国富を増加させるためには、どうしたら良いのでしょうか。

将来のイモの収穫を増やすには、現在の消費を抑えて種イモを多くのこし、来季に向けて畑を耕し、肥料を作り、用水路を整えることです。これを行うには、現在の消費を抑え、貯蓄を増やすしかないのです。

今回の参院選挙では、れいわ新撰組をはじめいくつかの政党で、即時の消費減税が言われています。しかし、もし、この減税と同等額の、政府支出のカットがなされなければ、インフレは加速してしまいます。

令和4年度の消費税の歳入見込みは21.5兆円です。

もし、21.5兆円分の歳出をカットすることなく、すなわち国債発行と日銀の買い取りで乗り切った場合、消費需要は純粋に21兆円分し拡大し、また同時に日本円も21兆円増加し、円安は進行するでしょう。その結果は、インフレの加速です。

インフレの加速は、更なる消費の増大を招き、資本の蓄積を妨げます。なぜなら、インフレ時には貯蓄は不利となり、直ぐにお金を財に変えてしまった方が得だからです。

実際、インフレの激しい、アルゼンチンでは、給料をもらうとすぐに使ってしまう国民が多いと聞きます。

また、インフレ時は消費財産業が活性化しやすいと言われていますが、これも国内の資本蓄積を妨げます。

人手不足、資源不足が叫ばれる現在、資本財産業を活性化させるには、国内の物的、人的資源を、現在の消費財産業から引き抜き、投資財産業や防衛産業で利用されなければならないのです。

日本における戦後のインフレを乗り切るために、貯蓄の推進が行われていたことを忘れてはいけないのです。

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執筆者:webstaff

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