菅政権「デジタル庁」構想、中国サイバー軍の標的に【前編】
幸福実現党党首 釈量子
◆デジタル庁発足で何が変わるのか
菅政権が発足して、「デジタル庁」の創設を掲げました。
これは、政府が2004年から進めてきた「インフラのデジタル・トランスフォーメーション(デジタルによる変革)」の延長線上にあるもので、ITの進化にともなって働き方改革や社会そのものの変革につなげようとするものです。
菅政権は行政改革の目玉として「デジタル庁」の下に、あらゆる情報のインターネットで結びつけようとしています。
データを共有することによって、各省庁に縦割りになっていた様々な行政サービスを一元化し、行政の効率化と国民の利便性向上を図り、さらに民間企業もこのシステムに組み込む、という方向性を掲げています。
この国民の生活の「デジタル化」の中心に据えられようとしているのが、「マイナンバーカード」です。
一人10万円の給付に際して手続きの遅れが生じたことを口実に、マイナンバーカードと個人の銀行口座とを連結させることを目論んでいます。
2021年国会での義務化については見送りとなりましたが、マイナンバーと銀行口座の義務化は、銀行預金に税金をかける「貯金税」など、資産に課税するためのインフラ作りが目的ではないかという指摘もあります。
さらに、マイナンバーカードは、今後、健康保険証、運転免許証との一体化が検討されていると発表されています。
国民のあらゆる行政手続きをマイナンバーカードに集約させることで、各省庁や事業所が管轄していたデータを一括管理しようとしています。
(1)「デジタル化」に伴うリスク――困難なシステム構築
しかし、デジタル化は、そう簡単に進められるものではありません。政府はシステムをつくる業者に発注します。
日本のIT業界は、アメリカなどと違い、システム構築の専門家であるSIer(エスアイアー)が、システムの発注者(ユーザー)側に少ないため、外部の業者にゼロから丸投げする事例がよくあります。
すると、発注者の側が、ユーザーの観点からの使い勝手の細かい指定ができず、実際上使い勝手の悪いシステムになっていたり、システムの完成ができず、発注者の側が巨額の損失を被ることもあります。
こうした問題とされる弱点が、国のレベルで起きた事がありました。
2004年に、特許庁が、業務を一括管理する包括的なシステムの開発を決定し、2006年に、システムの開発を、有力な2つの企業と契約しました。
しかし、システムの複雑さゆえに、結局開発が出来ず、2012年には開発が停止されました。結果として、特許庁の計画の無謀さと、受注者の側にシステムを作る能力が無かったことが露呈したわけです。
国民全員をマイナンバーカードで管理し、あらゆる行政サービスと結び付けていくシステムは、とてつもない規模になります。
政府が無謀な計画をつくり、民間業者に丸投げして、ずさんなシステムが出来上がる、という問題が起きかねません。
(2)「デジタル化」に伴うリスク――政府と業者の癒着
また、最初にシステムを受注したベンダーは、システムの運営や保守のために、長い年月仕事を引き受け続けることになります。
政府と業者に必然的に癒着が生まれ、汚職が発生しやすくなります。これは「ベンダーロックイン」と言われる問題です。
最近、「持続給付金」の事業を政国から委託された会社が、大手広告代理店に再委託した「トンネル会社」だったことで、癒着の問題が取り沙汰されたこともありました。
これまでも、国や自治体、民間企業、学校や病院などで情報のデジタル化というものはなされてきましたが、それぞれが独立して接続されていないシステムだったので、個人情報が守られていました。
しかし、すべてのシステムが結合されて、一元管理されれば、それを扱うことが出来る人というのは、大変恐ろしい権力です。
そして、政府が委託を受けたベンダー、業者が、細かい業務をさらに下請けのベンダーに任せる可能性もあります。知らない所で、こうした再委託が行われる可能性も十分にあります。
(つづく)