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「改憲」の中身を失った自民党 交戦権なき自衛隊は使命を果たせず

http://hrp-newsfile.jp/2019/3663/

HS政経塾スタッフ 遠藤明成

◆安倍首相は「改憲した首相」になりたいだけ?

ジャーナリストの田原総一朗氏が、春頃から、安倍首相への批判を強めています。

6月下旬には、安倍首相は「『戦後初めて憲法改正した総理大臣』になりたい」だけで、改憲の「中身は関係ない!」とまで断じていました。

そう語気を強めるのは、安倍改憲案は「憲法と自衛隊の存在」が「明らかに矛盾している」ことを無視しているからです。

「交戦権」を否定した条文(9条2項)を残したまま、3項に「自衛隊」を足すと、自衛権を発動した時に、2つの条文が矛盾してしまいます。

「自衛隊はあっても交戦権はない」というおかしな憲法になるので、この案を「インチキだ」と批判しているのです。

(※田原氏は憲法改正そのものに反対しているわけではなく、内容を問題視している)

◆本音では、安倍首相は、もう改憲には関心がない?

田原氏は、安倍首相が、こんな案でも納得できるのは、「内容」への関心を失い、戦後初の「憲法改正した総理大臣」になりたいとしか思っていないからだ、と見ています。

その例として、前回(2016年)の参院選の後に、田原氏が「いよいよ憲法改正だね」と言った時、首相が言った言葉を取り上げていました。

・「大きな声では言えないけれど、(略)憲法改正をする必要は全く無くなった」

・「集団的自衛権の行使を認めるまでは、アメリカがやんややんやとうるさかった。『日米同盟はこのままでは続けられない』と言うまでうるさかった。集団的自衛権の行使を(安倍内閣で)認めたら、何も言わなくなった。だから憲法改正をする必要はない」

要するに、安倍改憲は「自分の国を自分で守る」ためではなく、米国の要望に答え、批判を封じるための条文改正にすぎないわけです。

防衛が強化されたように見えればよいので、実際の「内容のよしあし」はどうでもよいのです。

◆「改憲」の中身を問えない自民党のイエスマン議員団

自民党で安倍案に異を唱えたのは石破茂氏ですが、他の議員は、同じように扱われるのを恐れて、今の改憲案に追随しています。

小選挙区制だと、執行部から公認をもらえるかどうかが死活問題になるため、議員はみなイエスマンになりました。

そして、憲法改正を真っ向から訴えても、国民から得られる票が少ないと見て、選挙で年金問題ばかりを語っています。

結局、「自民党議員はみんな憲法から逃げている」(田原氏)わけです。

◆残念な改憲案で自民党が「終わる」までの経緯

憲法から逃げてきたのは、自民党の歴代政権も同じです。

田原氏は、自民党は「憲法を逆手にとってアメリカの戦争に一切巻き込まれず、平和や安全保障はアメリカに責任を持たせ」てきたと指摘しています。

その典型は、ベトナム戦争における佐藤栄作首相の外交です。

当時、米国に「ベトナムで一緒に戦おう」と言われた時、佐藤首相は「一緒に戦いたい。しかし、あなたの国がこんな難しい憲法を押し付けたから、戦いに行けないじゃないか」という論理で切り抜けたのでした。

また、田原氏が、自衛隊について「こんな戦えない軍隊でいいのか」と竹下登首相に聞いた時、竹下氏は「戦えないからいいんだ。戦っちゃうと大東亜戦争(太平洋戦争)だ、負けるに決まっている。戦わないから日本は平和なんだ」と言ったそうです。

まったく、安全保障の責任者とは思えない発言です。

結局、自民党政権は安全保障を米国に依存してきました。

主権国家・日本を取り戻そうとしたのは、岸信介ぐらいまでで、改憲の党是は、限りなく形骸化していきました。

その最終形が、今の自民党の改憲案だとも言えます。

◆現場に行かない政治家は、不合理な改憲案でも、何も困らない

結局、政治家がいい加減な改憲案をつくった場合、その負担は、すべて自衛隊に押し付けられます。

今の自衛隊は「軍隊」ではありません。

自衛隊は、消防隊や徴税職員などと同じ行政機関の一つ(「執行機関」)なので、根拠法令のある範囲でしか動けません。

例えば、自衛隊は2000年代にインド洋で米軍への給油活動をしていましたが、その時も、日本のタンカーの防衛は多国籍軍に依存していました。

2007年にソマリア沖のアデン湾で日本企業が保有するタンカーが海賊に乗っ取られた時、救援にあたったのは米駆逐艦やドイツのフリゲート艦などです。

近海にあたる北部インド洋にいた日本の護衛艦は、法令の根拠がなかったので、タンカー防護に動けませんでした。

(※当時、「テロ特措法」に基づいて給油活動をしていたが、この法律には「海賊の追跡や監視、あるいは海賊被害を受けた日本船に対する救援活動は何も任務に含まれていない」ため、海自は動けなかった)

そして、米軍がインド洋で自衛隊の給油活動を切望しても、2010年に法律が期限切れとなると、海自の艦艇は帰国するしかありませんでした。

結局、今の体制は、法令でがんじがらめなので、融通がききません。

さらに、憲法9条から生まれる「専守防衛」の原則は、自衛隊に後手に回ることを強いるので、ミサイルなどで先に攻撃された部隊が壊滅する危険性もあります。

九条1項や2項も含めて根本改正し、自衛隊を「軍隊」として認めないと、自衛隊は「国民の生命と安全と財産を守る」という使命を果たせません。

有事に日本の領土や領海を守れず、海外の活動では、諸外国の信頼を失う恐れがつきまといます。

自衛隊の根拠条文を追加するだけでは、こうした問題は解決できません。

◆自民党案では、結局、何も変わらない

結局、自民党がいう「自衛隊を合憲化すること」と「自衛隊を軍隊と認めること」は、別の問題です。

この有名無実化した「改憲案」に替わるべきなのが、憲法9条の1項、2項を含めた全面改正です。

自衛隊を「軍隊」と認め、自衛のために交戦は起こり得るものだという現実を直視し、民主国にふさわしい軍のコントロールを確立しなければいけません。

そして、国民の生命と安全と財産を守るために、自衛隊が国際法に則って、機動的に動ける体制をつくります。

これを日本で今、訴えている政党は、幸福実現党だけです。

改憲の中身を見失った自民党ではなく、今こそ、根本的な九条改正を訴える勢力が必要とされているのです。

【参照】

・ITmedia「田原総一朗が憲法9条で安倍首相を斬る――『“改憲した総理”になりたいだけ』」(服部良祐, 今野大一,2019.6.25)

・週刊朝日「田原総一朗『安倍改憲案への石破氏の異論は正論である』」(「ギロン堂」2018.2.8)

・北村淳著『米軍が見た自衛隊の実力』(宝島社)

遠藤 明成

執筆者:遠藤 明成

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