世界は減税 日本は増税→没落? 理不尽な未来は拒否したい
http://hrp-newsfile.jp/2019/3658/
HS政経塾スタッフ 遠藤明成
◆「福祉のために増税」は当然ではない
米中貿易戦争だけでなく、10月の英国のEU離脱などを見込み、世界では厳しい見通しのもとに減税を進める国が増えています。
安倍政権は増税を進め、日本は「社会保障のために増税」という論調が根強いのですが、違う路線を取る国も多いのです。
例えば、福祉国家のスウェーデンでも減税は行われています。
同国は今でも高税率ですが、近年は、金の卵を産むガチョウを殺さないように、企業や富裕層への課税を緩める措置が取られました。
◆スウェーデンが減税 揺らぐ福祉国家
スウェーデンでは、社会民主労働党政権が19年4月に「高所得者層向けの減税」を打ち出しました。
約780万円相当(70万スウェーデンクローナ)以上の所得層にかかる「富裕税」が廃止されます。
通常の所得税に上乗せする5%の追加課税が廃止され、高齢者介護や海外援助の削減などが行われるのです。
スウェーデンは、2004年に富裕層の海外への資産移転を止めるために相続税廃止も行っています。
(※訂正:以前のHRPニュースで07年と書いたのは間違い。正しくは04年)
◆福祉を重視する欧州でも減税
米国よりも福祉を重視する欧州は税率が高めですが、近年、減税を進める国が増えています。
(本記事の為替計算は、19年は直近為替、17年と18年は年平均で換算。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの数値を用いています。GDPは世界銀行の2017年の数値を活用)
【フランス】
18年9月にフランスは3.2兆円相当(248億ユーロ)の減税案を発表しました。
具体的には法人税や住民税などを減税し、公務員を12万人減らします。
法人税33.3%を段階的に25%まで下げ、企業向けには2.4兆円(188億ユーロ)を減税。
個人向けには住民税などを0.8兆円(60億ユーロ)減税します(18年為替で計算)。
同時に、国防費を1.5倍に増やすプランを立てています(18年の342億ユーロから500億ユーロへと段階的に増やす)。
フランスのGDPは日本の半分よりもやや多い程度なので、もし、マクロン政権のプランをわが国で実践したら、6兆円が減税され、7兆円台に防衛費が増えます。
安倍首相は保守だと思われていますが、実際は、マクロン大統領よりも「左」の財政政策です。
日本の保守層は、マクロンよりも左派寄りの政治家に未来を託しているのかもしれないのです。
【オーストリア】
オーストリアは、本年5月に、2023年までに年間8000億円相当(65億ユーロ)を減税する方針を決めました。
法人税を25%から21%へと段階的に下げ、年間所得11000~31000ユーロの所得にかかる税率を5%下げるなどの措置を取ります。
・11000~18000ユーロ:25%→20%
・18000~31000ユーロ:35%→30%
・31000~60000ユーロ:42%→40%
オーストリアのGDPは日本の9分の1ぐらいなので、わが国のGDPに合わせると、65億ユーロ減税は7兆円減税と同じぐらいのインパクトです。
【イタリア】
19年6月にイタリアのディマイオ副首相(「五つ星運動」党首)は「減税の確約を尊重する」と表明。
サルビーニ副首相(「同盟」党首)は「100億ユーロ以下の減税は本格的な減税ではない」とし、「それをさせてもらえないのなら、グッバイと言って去る」と述べています。
100億ユーロは1.2兆円。
イタリアのGDPは日本の4割程度なので、我が国で言えば「財務大臣が3兆円以下の減税など、減税ではない」と言ったようなものです。
麻生大臣が、サルビーニ氏のようなことを言う姿はまったく想像できません。
日本とは真逆の路線です。
なお、コンテ伊首相は、減税については、サルビーニ氏以上に「野心的」だとも報じられています。
◆英国、豪州も減税
【英国】
英国では、メイ政権下で19%の法人税が20年4月以降は17%になることが決まっています。
今後の英国では、保守党党首選でEU離脱派のジョンソン前外相が勝っても、対抗馬であるハント外相が勝っても、減税が行われる見込みです。
ジョンソン氏は税率40%がかかる所得区分を5万ポンドから8万ポンドに上げ、年約96億ポンド(約1.3兆円)を減税すると述べています。
同氏は、16年の国民投票でEU離脱が決まった日に、消費税に相当する付加価値税について「英国経済の必要に応じて法律を通し、税率を決められるようになる」とも述べていました。
EU加盟国は、付加価値税の税率を自由に決めることができないからです。
また、ハント外相のほうは、法人税率を17%から12.5%に下げると述べています。
【豪州】
オーストラリアでは19年7月、保守連合が10年間で1580億豪ドル(約12兆円)の減税法案を成立させました。
約1000万人の低・中所得者層が「法案成立後1週間以内に最大1080豪ドル相当(※約8万円)の払い戻しを受ける」とも報じられています。
豪州のGDPは日本の27%程度なので、これは、わが国の経済規模にあわせると、1年あたり4.4兆円の減税を10年間続けるようなものです。
豪州は、他国と比べると大がかりなプランになっています。
◆インドも減税
インドでは、モディ首相が19年2月に所得税控除枠の倍増を打ち出しました。
・控除枠を年25万ルピー(39.5万円)から50万ルピー(79万円)に増額
・2軒目の家の購入にかかる税金を免除
・1億2000万世帯の低所得農家に年6000ルピーの所得補助
低所得者から中間層への支援を打ち出しています。
◆最大の減税国は中国
そして、アジア最大の減税国は中国になろうとしています。
景気が減速・悪化する中国では3年連続での減税が進んでいます。
・17年:1兆元(約16兆3000億円
・18年:1兆3000万元(約21兆3000億円)
そして、19年の「政府活動報告」によれば企業税と社会保険料負担が約2兆元(約31兆円)減ります。
米国の減税は1年あたり16~17兆円程度なので、ここ3年の減税規模は米国を上回っています。
上海財経大学・胡怡建院長は、2兆元減税のうち増値税減税は約8000億元(約12兆4000億円)を占めると見積もりました。
減税の四割が消費税にあたる税金なのです。
この「増値税」が製造業などで16%から13%に下がり、交通・運輸業、建築業などでは10%から9%になります。
中国のGDPは日本の2.5倍なので、この増値税減税は、自民公約の増税分(5~6兆円程度)を減税するようなものです。
中国の2兆元減税は、日本のGDPに合わせると、消費税増税をやめて、法人税(12兆円)の半分を減税するような政策に近いと言えます。
(※社会保険の企業負担率も、都市部従業員の基本養老保険が19%から16%に下げられる)
◆「日本だけが増税→没落」という理不尽な結末を避けよう
各国の減税プランは、日本の消費税増税と同規模か、それ以上のものも少なくありません。
仮に、日本が増税したのと同じ規模だけ減税した国があれば、その差は二倍になります。
景気対策をした国と増税した日本とでは、成長率に差が出るわけです。
その先にあるものは、日本経済の凋落と競争力の低下にほかなりません。
幸福実現党は、そうした理不尽な未来を避けるべく、消費税の5%への減税と法人税の1割台への減税を訴えてきました。
日本経済の発展がなければ、年金の未来もありません。
増税ではなく、減税が日本には必要なのです。
【参照】
・三菱UFJリサーチ&コンサルティング「外国為替情報 前年の年末・年間平均」
・同上「外国為替相場一覧表」
・ロイター「焦点:揺らぐスウェーデンの平等社会、富裕層減税で格差拡大へ」(Simon Johnson 2019/04/11)
・日経電子版「仏3兆円減税 成長促す 予算案 失業率改善へ法人税下げ」(2018/9/26)
・JETRO「政府、法人税、所得税の引き下げを柱とした大型減税を発表(オーストリア)」(2019/5/13)
・ブルームバーグ「ジョンソン前外相、英首相選出なら法人・所得税を減税も-テレグラフ」(Sarah Kopit、2019/6/10)
・ロイター「英首相候補ハント氏の減税・歳出案、費用は年360億ポンド」(2019/6/27)
・朝日新聞デジタル「英国の「消費税」どうなる? EU離脱で減税説と増税説」(寺西和男 2016年/6/27)
・同上「豪上院、1100億米ドル規模の減税法案を可決 経済押し上げに向け」(2019/7/4)
・日経電子版「モディ政権、所得減税を公約 支持率挽回狙う」(2019/2/1)
・AFP通信「中国の2兆元の減税と費用削減 どのように行うのか?」(2019/3/18 東方通信の転載記事)