中国が南シナ海でミサイル実験 日本は自主防衛の気概を
http://hrp-newsfile.jp/2019/3645/
HS政経塾スタッフ 遠藤明成
◆中国が南シナ海で対艦弾道ミサイルを発射
米国防総省は、7月2日に、中国が6月30日に南シナ海の南沙諸島で対艦弾道ミサイルの発射実験を行ったことを批判しました。
CNBCから、この件について問われた国防総省のイーストバーン報道官は、以下のように答えています。
「国防総省は、南沙諸島(スプラトリー諸島)近辺の人工島からのミサイル発射を知っていた」
「この行為は、2015年に習主席が米国やアジア太平洋諸国、世界に約束した『人工島を軍事基地化しない』という声明に反している」
G20で、米国が中国に追加関税をかけるのを延期し、貿易交渉が再開されることになった矢先にミサイル発射が行われたので、今後の展開が注目を集めています。
◆「航行の自由作戦」への対抗措置
今回のミサイル発射は、中国が領有権を主張する南シナ海で米軍が駆逐艦等を航行させていること(「航行の自由作戦」)への対抗措置と見られます。
5月6日には駆逐艦2隻が南沙諸島のジョンソン南礁とガベン礁の12カイリ内を通り、19日にも駆逐艦1隻がスカボロー礁の12カイリ内を通過しました。
5月8日には米海軍のイージス駆逐艦と海上自衛隊、インド海軍、フィリピン海軍が国際海域で合同訓練を行っています。
また、19年に、米軍は毎月、台湾海峡で艦艇を通過させており、そこに英国やフランス、カナダなども参加するようになったので、中国は、この問題で妥協できないと判断したと思われます。
日本人的な感覚では「貿易交渉中に、なぜ?」と思いがちですが、中国の国家戦略では、南シナ海を中国の海とすることは死活的な国益に相当する重要課題とされています。
米国が交渉で一歩後ろに引き、大統領が訪朝時に対話路線を出したのを見て、中国は「どこまで自国の主張を米国に呑ませられるか」を読むために、際どい手を打つことを躊躇しませんでした。
これは、「貿易交渉がどうなろうが、南シナ海の覇権は譲ることができない」というメッセージだとも言えます。
◆毎月のように続く、南シナ海での米中の応酬
6月1日にシャナハン米国防長官代行(当時)が「アジア安全保障会議」で「中国は他国の主権を侵害し、不信を抱かせる行動をやめるべきだ」と批判した後も、中国はミサイル発射実験を行っています。
米国側が容認できない活動として「紛争地域を軍事化し、先進兵器を配備すること」をあげた後に、「環球時報」が新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を報道していました(6/5英語版)。
つまり、毎月のように、米中の応酬が続いており、今回のミサイルは中国側の「7月の行事」だったのかもしれません。
◆南シナ海が「中国の海」になったら、日本も台湾も危うい
既成政党の党首たちは、討論会でも第一声でも「米中の覇権競争が続く中で、日本はどう動くべきか」という重大な問題をまったく議論しませんでした。
「そんなことは票にならない」というのが本音なのでしょう。
しかし、この問題に対して、日本は「他人事」のような態度を取ることはできません。
なぜならば、南シナ海は日本に資源を運ぶシーレーンだからです。
中国の潜水艦が遠浅の東シナ海を航行する際には、浮き上がった時に発見されやすいのですが、台湾の東側には世界で最も深い海域があるので、ここを潜水艦が押さえれば、日本に物資を運ぶタンカーや輸送船などをいくらでも脅せるようになります。
また、中国が南シナ海を制すれば、台湾を中国軍が海から包囲できるようになります。そうなれば、台湾が中国の支配下に落ちるのは、時間の問題になるのです。
もう、南シナ海は、我が国の「専守防衛」の範囲を越えているとは言っていられません。
◆潜水艦発射の核ミサイルで中国が米国を威嚇したら・・・
さらに、米国本土に届く核ミサイルを積んだ原子力潜水艦を、南シナ海に展開すれば、米国を核兵器で威嚇する時の「威力」が増します。
現在、中国がもつ4隻の原子力潜水艦(「普」級)は、中国近海からアラスカにまで届く核ミサイルを12発(射程7200km)ほど搭載しています。
これを南シナ海から太平洋へと展開すれば、計48発の核ミサイルで米国全土を狙えるようになるからです。
このミサイルは3個の核弾頭を積めるので、144発の核弾頭で米国全土を威嚇できます。
発見が困難な潜水艦に載せた長距離の核ミサイルは、先制攻撃にも反撃にも有利な最強兵器です。
中国は、これで米国全土を脅せる体制をつくり、アジアから米軍を追い出そうとしているのです。
(※この潜水艦搭載の長距離弾道ミサイルは「巨浪2」〔JL-2〕と呼ばれる)
◆中国は20世紀から覇権確立を構想していた
中国は、アジア支配の野望を抱き、20世紀から計画を実行してきました。
南シナ海の西沙諸島を軍事支配したのは1974年。
1980年には南太平洋のフィジー諸島沖合に向けて大陸間弾道ミサイルの発射実験に成功しました。
この時、弾頭を回収するために駆逐艦を含む18隻の船団が航行し、80年代以降に中国海軍が外洋に進出していきました。
この核実験から39年を経て、南シナ海を我が物にする構想を具体化してきています。
◆中国の野心に対抗できるだけの「国家戦略」が必要
しかし、今の日本は、米国に依存する以外に、中国に対抗する策がありません。
中国の核には、米軍の核抑止力で対応することになっています。
しかし、中国が潜水艦からの核で米国全土を狙えるようになれば、米国にとって「日本を守るリスク」は大幅に上がります。
弱気な大統領であれば、「日米同盟を放棄して、中国と話し合ったほうがよい」という発想が出てきかねないわけです。
中国が核抑止力を完成させた時、もはや、米国の核に頼るだけでは不十分になります。
冷戦期の欧州は、ソ連の巨大な核に対して「英仏の核」(+NATO軍の核)と米国の核という二段構えで自衛する戦略を固め、安全を保障してきました。
英国とフランスに核ミサイルがあれば、ソ連が欧州に核攻撃した場合、英仏の反撃でソ連の戦力も破壊されます。この場合、同盟で参戦する米国と次の核戦争はできないので、ソ連は攻撃を思いとどまり、「核による抑止」が成り立つのです。
(NATO軍の核は実質的に米軍の統制下にある。これは独自核ではなく、核シェアリング)
幸福実現党が、日米同盟だけに頼る体制が不十分だと主張しているのは、今後の東アジアは、同じようなプランが必要になるぐらい厳しくなると見ているからです。
7月2日の産経(6面)の公約比較では、他政党が福祉や消費税についての訴えを並べる中で、幸福実現党だけが「自衛目的の核装備推進」を訴えていました。
これをみて驚かれた方もいらっしゃるかもしれませんが、「核装備」は、どうしても必要な「国家戦略」なのです。
幸福実現党は、世に媚びず、責任政党として正論を貫き、日本を守るために力を尽くしてまいります。
【参照】
・CNBC “Pentagon condemns ‘truly disturbing’ Chinese missile tests in South China Sea” (2019/7/3、Amanda Macias)
・平松茂雄著『中国、核ミサイルの標的』(角川ONEテーマ新書)
・米国防総省 “Annual Report on Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China”(2019/5/2)
※「巨浪2号」の性能は中国軍事研究家の平松茂雄氏と米国防総省の報告書を参照。