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年金「百年安心」シナリオ あなたは信じられますか?

http://hrp-newsfile.jp/2019/3618/

HS政経塾スタッフ 遠藤明成

◆党首討論は「2000万円報告書」をめぐる政治闘争に終止

6月19日の党首討論では、消費税減税や国防強化といった、本当に大事な政策が議論されませんでした。

年金だけでは「2000万円足りない」と書かれた報告書についてのやりとりが続きましたが、「社会保障費が増え続ける中で、本当に100年安心を保てるのか」という、現実に即した議論も盛り上がりませんでした。

まともな質問だったのは、5年に1度の財政検証の発表が遅れていることと、実質賃金の伸び率が前回の財政検証で最低値と想定した0.7%を下回っていることを問うた、国民民主党の玉木代表の発言ぐらいで、あとは残念な内容です。

立憲民主党の枝野代表が訴えた、(社会保障の)「自己負担額に所得に応じた上限を設ける総合合算制度」と「介護・医療従事者の賃上げ」は、結局、さらに社会保障費が必要になります。

また、共産党の志位委員長が述べた「減らない年金」というのは、保険料を払う現役世代が減る中で高い年金給付を維持する構想なので、結局、一人あたりの年金保険料が増えるだけです。

どちらも、社会保障費が膨張するなかで、大盤振る舞いをめざす人気取りでしかありません。

今の党首討論は、各党がスタンドプレーを狙うつまらない会合に堕しています。

◆年金をめぐる財政検証の発表は「選挙の後」?

麻生金融相の「報告書」受取拒否は論外ですが、財政検証の発表が遅れているのも、大きな問題です。

これは「100年安心」の年金を保障するために、5年に1度、財源と給付金が適正かどうかを厚労省がチェックする作業です。

具体的には、年金給付が会社員世帯の平均賃金の半分以下にならないように調整します(所得代替率の5割以上にする)。

過去の検証結果は、2004年、09年、14年に公表されました。

本年も、過去の日程から見ると、もう公表すべき時期が来ています。

・前々回:08年11月に検証のための経済前提を厚労省の専門委が年金部会に報告。検証結果は09年2月に公表。

・前回は:14年3月に経済前提を年金部会に報告。検証結果は6月に公表。

本年は3月13日に「経済前提」が報告されており、過去は約3ヶ月で公表されたことから考えれば、選挙への影響を「忖度」して、発表を遅らせているようにしか見えません。

これを党首討論で問われた安倍首相は、「財政検証をしている最中であり、(最新の結果の)報告を受けていない」とはぐらかしていました。

◆財政検証の「経済前提」は妙に楽観的

過去の財政検証に関しては、試算の前提となる経済指標が楽観的すぎるという声もありました。

(2009年の検証は)「100年近くにわたって運用利回りを年率4.1%もの高利回りに設定したり、賃金も年率2.5%で100年近く上昇することが前提となっています」(学習院大学教授・鈴木亘氏 ※1)

「実質賃金上昇率 1.2~1.4%という結果は、およそ100年後までの超長期の経済前提であるとはいえ、最近の実績と比較するとやはり高い」「2000年代に入ってからの実質賃金上昇率を計算すると-0.23%でしかない(2000~12年度の単純平均)」(日本総研調査部 上席主任研究員・西沢和彦氏 ※2)

この検証には、経済成長率や物価上昇率、生産性や給料の伸び率といった指標が、「百年安心」という標語に都合のよい形に歪められる危険性があることに注意が必要です。

◆成長率がマイナスでも年金の運用利回りはプラスになる?

確かに、2014年の「経済前提」をみると、不審な数値も目に付きます。

「2024年以降の20~30年」に適用される未来シナリオは、ケースA~Hまでの8通りですが、そこでは、平均値の経済成長率(実質)がマイナスになろうとも運用利回りは必ずプラスになることが想定されています。

それは、以下の想定です(どちらも名目値-物価で計算した数字)。

A:成長率 1.4% 利回り3.4%
B:成長率 1.1% 利回り3.3%
C:成長率 0.9% 利回り3.2%
D:成長率 0.6% 利回り3.1%
E:成長率 0.4% 利回り3%
F:成長率 0.1% 利回り2.8%
G:成長率 -0.2% 利回り2.2%
H:成長率 -0.4% 利回り1.7%

シナリオAとEには成長率で1%の差がありますが、利回りは0.4%しか差がありません。

また、シナリオAとHには成長率で2%差がありますが、利回り差は1.7%です。

つまり、成長率よりも利回りが下がりにくいという想定になっています。

◆財政検証はGPIFを買いかぶり過ぎでは

2014年10月まで、年金資産を扱うGPIFは債権7割で運用していたので、日本の景気が運用損益に与える影響を抑えようとしていました。

しかし、アベノミクスでの株高を支えつつ、そのメリットを活かそうと考え、株式の割合が5割にまで上がった結果、昔よりも運用損益は景気の影響を受けやすくなっています。

今の「国内株式25%、海外株式25%、国内債券35%、海外債権15%」という運用比率で、日本の成長率がマイナスになっても利回りプラスを維持できるかどうかは、疑問が残ります。

米国で1600億ドルの資産を運用するレイ・ダリオ氏(ブリッジウォーター創業者)は「株式には債権の3倍のリスクがある」(※3)と指摘していますが、財政検証では、GPIFはそのリスクをものともせず、不景気下でも利回り1.7%を出し続けることが想定されているのです。

◆「百年後の未来」がわかるなら苦労しない

財政検証の結果は、まだわかりませんが、自民党や公明党のいう「百年安心」には無理があります。

そもそも、今後100年の経済動向など、誰もわかるわけがないからです。

それを「安全だ」と主張するために、財政検証で様々な手練手管をこらしていることが伺えます。

本来、財政検証は、年金の健全化のために必要なのですが、それが十分に生かされていない状況が続いてきました。

年金に関しては、大盤振る舞いが続いているので、今の高齢者と将来の高齢者のために、給付の適正化をはからなければいけません。

幸福実現党は、年金に関して、ウソや隠し事、タブーを廃した正直な議論を推し進めてまいります。

【参照】

財政検証の数値は「国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通しー平成26年財政検証結果-」(2014/6/3)から引用。

※1:鈴木亘著『社会保障亡国論』(講談社現代新書)
※2:西沢和彦「年金財政検証における経済前提の見方」(日本総研、2014/5/2)
※3:アンソニー・ロビンズ著『世界のエリート投資家は何を考えているのか』(三笠書房)

遠藤 明成

執筆者:遠藤 明成

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