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【米・イラン対立(前編)】米軍のイラン攻撃はあるのか? 

http://hrp-newsfile.jp/2019/3602/

HS政経塾スタッフ 遠藤明成

◆「タンカー攻撃」その後

中東のホルムズ海峡付近で日本と台湾のタンカーが攻撃され、米国とイランの間で緊張が高まっています。

トランプ大統領やボルトン補佐官、ポンペオ国務長官らが「イランの犯行だ」と主張するなかで、イランは攻撃への関与を否定。

事実や状況に基づいた証拠がないと米国に反論しました。

イランを警戒する米国は空母打撃群とB52爆撃機を中東に送っており、米軍1000人の増派も決まったので、今後の動向が注目されています。

ただ、この問題の結論を先に述べれば、日本は、イラン攻撃には反対すべきです。

イラン攻撃は、戦火の拡大を招く危険性がありますし、米国側の正当性も怪しいからです。

この攻撃には「『アメリカの犬』アベ帰れ!」という意図が含まれていたとみるべきだと考えます。

◆本当にイランが犯人なのか?

ポンペオ国務長官は、イランを犯人と断定した際には、以下の四点を主張しました。

・機密情報(※原則非公開)

・使用された兵器や攻撃に必要な専門知識の程度

・最近のイランによる類似したタンカー船攻撃

・これほど高度な攻撃を実行できる勢力はほかにない

ただ、これは、推測の域を超えていません。

米国側は、イラン海軍がタンカーから機雷を外す画像などを公開し、証拠隠滅をはかったとも述べました。

その通りなら、イランは首脳会談をしながら日本のタンカーを攻撃し、その後に自国の海軍で消火し、救助したことになります。

しかし、イランに、そこまで周到に日本をだまし撃ちしなければいけない理由があったのでしょうか。

日本はイランと深刻な対立関係にあるわけではありません。

その意味では、米国の主張には、大きな疑問点が残っています。

イラン海軍が、救援活動の延長として危険物を処理しただけなのかもしれないからです。

◆米国とイランの大規模戦争はあるのか

この案件で気になるのは、米国とイランとの間で武力紛争などが起きるかどうかです。

しかし、両国の軍事力の差や近年の中東情勢を考えると、これだけで大きな戦争を起こすのは、それなりに困難です。

米国にも、イランにも、それぞれ、大戦争をしがたい理由があるからです。

◆イランと米国の戦力差は歴然

まず、イランが米国と大規模な戦争ができないのは、軍事力の差が大きすぎるからです。

そもそも、核兵器のないイランは核大国の米国には勝てません。

彼らの弾道ミサイルは中距離弾(シャハブ)でも中東全域と欧州の一部にしか届かないので、狙えるのは、イスラエルや中東の米軍基地などにとどまります。

イランがミサイルを撃っても、米国は多数の機動部隊を集めれば、千発以上のトマホークと爆撃でイランの要所を攻撃できます。

(※イラク戦争では空母6隻を中心に機動部隊が展開した)

開戦となれば、サイバー攻撃やミサイルで空港や通信施設が破壊されます。

イランにはホメイニ革命前に米国が売った戦闘機(F14やF4)やソ連製戦闘機(MiG29やSu24等)やソ連製防空システム(S300)があり、それなりの戦力ですが、これで、今の米空軍に対抗することはできません。

米国のステルス戦闘機(F22)や高度な情報ネットワークを備えた戦闘機部隊(空母はF18を運用)には勝てず、制空権は米国のものになります。

(※米空軍はデータリンクを用いて飛行隊の全機が敵情報を共有して戦うが、イラン軍は個々の戦闘機がそれぞれ敵を見て戦うだけ)

イラクより時間はかかりそうですが、結局、米国は爆撃で陸上戦力を滅ぼしながら、陸上部隊を展開することができます。

本当にイラン打倒を図ったら、米軍が戦闘機や攻撃ヘリでイラクの戦車を狩っていったのと同じ光景が繰り返されるでしょう。

イラン海軍は潜水艦で奇襲し、駆逐艦やミサイル艇でペルシャ湾を荒らすことはできますが、規模が小さいので、その後に米軍に一掃されます。

イラン軍は、米国を核で威嚇することも、通常戦力で勝つこともできないのです。

◆米国はイランに勝てても「治める」ことはできない

しかし、だからといって、米国は安易にイランと戦争できません。

米国には、イラク戦争の手痛い体験があります。

米軍はイランを打倒できますが、戦後統治には重大な痛みが伴うことが、イラクやアフガニスタンで実証されました。

米国はフセインを打倒後、統治を楽観視しましたが、イラクは日本とは違い、天皇のような秩序の中心もなく、議会政治をきちんと運営してきた歴史もありませんでした。

そのため、戦後は統治不全地域となり、宗教紛争や反米闘争が相次ぎます。

約4500人の米軍人が死に、統治まで含めた国費は300兆円以上にのぼりました。

(※米経済学者スティグリッツ氏はその戦費を3兆ドルと試算)

「独裁者から解放されれば、民衆は喜んでついてくる」という幻想は無残に打ち砕かれ、ブッシュが率いた共和党政権は多くの国民の支持を失ったのです。

◆米・イラン対立 ありそうなのは「限定攻撃」か?

結局、イランには米国と戦える戦力はありません。

また、米国はイランに勝てても、そのあとに「治める」ことができません。

イラク統治の崩壊の結果、生まれたものは「イスラム国」でした。

その繰返しを防ぐ方法を持たないまま、アメリカがイランに大きな戦争をしかければ、ブッシュ政権の二の舞になります。

トランプ大統領が「イランとの戦争は望まない」と言っているのは、そうした経緯があるからです。

そのため、今回の米国とイランの緊張関係は、まずは政治闘争の次元で進んでいくはずです。

トランプ政権が動いた場合、まずは、巡航ミサイルで基地を狙うといった限定攻撃がなされる可能性が高いといえます。

◆紛争拡大の危険性があるので、日本はイラン攻撃に反対すべき

しかし、限定攻撃であろうとも、エスカレートの危険性はあります。

武力衝突は、事態が制御不能になるリスクを伴うので、日本はイラン攻撃に反対すべきです。

攻撃がなされれば、その応酬として、イランが原油の輸送ルートであるホルムズ海峡を狙う危険性が高まります。

また、イランは宿敵イスラエルとの戦いや、イスラムの盟主を巡るサウジアラビアとの戦いを続けていることにも注意が必要です。

(※ペルシャ民族の雄であるイランとアラブ民族(諸国)との戦いも数千年の歴史がある。ペルシャ帝国の頃から両者の関係は険悪)

イスラエルもサウジも自国の戦いに米国を巻き込みたがっているからです。

火に油を注ぐ危険性があるので、大局を見るならば、日本は、タンカー攻撃が仮にイラン軍だったとしても、米国のイラン攻撃には反対すべきです。

遠藤 明成

執筆者:遠藤 明成

HS政経塾

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