オーストラリアで与党勝利のサプライズ 日米豪の連携強化へ
http://hrp-newsfile.jp/2019/3549/
HS政経塾スタッフ 遠藤明成
◆豪州総選挙で与党が辛勝
5月18日に行われたオーストラリアの総選挙は、保守連合(国民党+自由党)が労働党に勝利しました。
自由党では2018年に内紛が起き、ターンブル前首相が失脚。スコット・モリソン氏は国民の審判を仰がずに首相となったので、総選挙は厳しい戦いでしたが、続投が決まりました。
労働党に有利な数字が並んでいた数か月の世論調査をくつがえすサプライズが起きています。
親米路線を取り、中国のファーウェイ社(華為技術)排除にもいち早く協力した保守連合が勝利したことは、同じく米国との同盟を重視する日本にとっても朗報だといえます。
◆注目点(1):豪州の外交路線は親米でまとまる
日本から見た時に、今回の豪州選の最大の注目点は、与野党の外交路線です。
モリソン首相と労働党党首の路線が真逆だったので、政権が交代すれば、外交路線が変わる可能性があったからです。
労働党のビル・ショーテン党首は「中国の台頭を歓迎」しており、その台頭を「脅威」ではなく、「チャンス」と捉えていました(※1)。
そして、トランプ大統領に対しては、2016年に「自由世界の指導者に全くふさわしくない」とまで酷評していたのです(※2)。
しかし、保守連合を率いたモリソン首相はトランプ大統領と連携して中国のファーウェイ社の排除を主導。
カナダと豪州、ニュージーランドがいち早く米国に賛同し、これに日本も同調したことで、米国の影響力が世界に印象付けられたといえます(英国は19年4月に全面排除を撤回)。
米中の経済対決は、双方が賛同する主要国の数を競っているので、このたびの保守連合の勝利には、非常に大きな意義があります。
◆注目点(2):中国包囲網の「豪州切り崩し」は困難に
この保守連合の勝利を悔しがっているのは、中国でしょう。
ファーウェイ排除の厳しい網の目を破るために、中国は「豪州の切り崩し」を狙っていたからです。
豪州の貿易において、中国は輸出の3割(30.6%)、輸入の2割(18%)を占めているので、労働党政権ができたら、これを用いて対中政策をくつがえせる可能性がありました。
(※3:出典は外務省HP「オーストラリア基礎データ」)
それが必要だったのは、トランプ政権が5月15日に大統領令で安全保障上の脅威と見なされた企業が米企業に通信機器を販売することを禁止したからです。
ファーウェイ社はその中に含まれただけでなく、製品供給も事実上、禁止されるブラックリストに載せられています。
これが完全に実施されれば、ファーウェイはソフトウェア更新やメンテナンス、ハードウェアの交換ができなくなり、経営危機に直面するはずです。
そのため、中国は英国に続いて「豪州切り崩し」を狙っていましたが、それは、今回の選挙で難しくなりました。
◆注目点(3):労働党のCO2削減案は予期したほどの支持を得られず
3番目に大きな注目点は、豪州のエネルギー政策です。
今回の選挙では、与党も野党もインフラ投資による雇用拡大を掲げており、経済では意外と共通点がありました。
(※ただ、最低賃金の引上げや低所得者減税、富裕層や大企業への課税強化などを訴える労働党のほうが「格差是正」色が強い)
しかし、最も大きな違いが分かれたのは、エネルギー政策です。
石炭の産地である豪州は火力発電が8割を占めているので、保守連合は地球温暖化対策にはやや消極的でした。
(※保守連合のCO2等の削減目標は2030年までに2005年比で26~28%削減)
これに対して、豪労働党は2030年までに温暖化ガス排出量を45%(2005年比)削減することを公約したのです。
そのために再生可能エネルギーの拡大をうたったのですが、これを実現した場合、火力発電にブレーキがかかり、再エネ用の設備投資や温暖化対策費がかかります。
これに対して、モリソン首相は「コストを明らかにせよ」と批判していました(※4)。
結局、労働党は予想したほど支持されなかったのですが、「火力で十分なのに、なんで再生可能エネルギーがそんなに要るんだ?」という疑問が出てくるのは、きわめて当然のことでしょう。
◆日米豪でさらなる連携強化を
オーストラリアは、日本にとって欠くことのできない友好国です。
同じ自由民主主義国で、ともに米国を同盟国としているだけでなく、わが国は石炭の7割(71.5%)、天然ガス(LNG)の3分の1(34.6%)をオーストラリアから輸入しています。
日本は原油の9割(86%)を中東から輸入していますが、豪州も、違った意味での資源安全保障上の要地なので、失うわけにはいかない友好国です。
また、米国にとっても豪州は秘密情報を共有する五カ国(ファイブアイズ)の一員です。
イギリスとカナダ、オーストラリアとニュージーランドは、米国の同盟国の中で、もっとも親密な国々に位置づけられています。
米海兵隊は豪州のダーウィンに拠点を構え、中国の海洋進出に睨みを利かせています。
グアムと、グアムの北にある沖縄、南にあるダーウィンに米軍が展開することで、東南アジアから日本までのシーレーン(海上交通路)が守られているのです。
(※5:日本の化石燃料の輸入比率は「日本のエネルギー2018」(資源エネルギー庁)を参照)
すでに、トランプ大統領からモリソン氏の勝利への祝辞が届いていますが、今後、日米豪が安全保障と経済面で連携を強化し、中国の覇権拡大に対峙していくことが大事だといえます。
【参照】
※1:ニューヨークタイムズ Bill Shorten Wants Australia to Embrace China. But at What Cost? (By Jamie Tarabay, 2019/5/15)
ショーテン氏は“I welcome the rise of China in the world”と述べていた。NYTは he saw China not as a “strategic threat,” but as a “strategic opportunity.”と指摘。
※2:ガーディアン Australian opposition leader Bill Shorten to declare Donald Trump ‘unsuitable’ to lead US (2016/10/11)
原文は entirely unsuitable to be leader of the free world
※3:2017/18年の「財・サービス」輸入。出典は外務省HP「オーストラリア基礎データ
※4:ガーディアン “Australian election 2019 Final leaders’ debate: Bill Shorten slams climate inaction as Scott Morrison focuses on tax”(2019/5/8)
モリソンは党首討論でショーテンに政策提言の「責任」を問い、コストを明らかにすることを求めた
The question here is what is a responsible approach to take,” Morrison said after demanding Shorten reveal the cost of his emissions reduction plan.
※5:資源エネルギー庁「日本のエネルギー2018」