上がり続ける介護保険料は「隠れた増税」
http://hrp-newsfile.jp/2019/3516/
HS政経塾スタッフ 遠藤明成
◆4月1日から、現役世代の介護保険料が1割増える
本年の4月1日から、現役世代(40歳から64歳)が負担する介護保険料が1割増しになります。
協会けんぽによれば、一人あたりの負担が年間で7000円近く増えるのです。
今まで68000円ぐらいだった保険料が75000円程度にまで上がります。
これは、年間報酬にかかる「介護保険料率」が1.57%から1.73%に増えたことによります。
高齢者(65歳以上)も昨年に6%増しになったので、介護保険は全世代で負担が重くなりました。
ここ10年間でみると、高齢者が払う保険料は、年間5万円から7万円にまで増えています。
介護保険は、現役世代でも、高齢者でも、10年間で4割以上も上がりました。
しかし、その是非は、国民に見える場所で十分に議論されていません。
これは、気づかれにくい増税であり、隠れた増税だとも言えます。
※介護保険料の増額
・現役世代の2019年増額:一人あたりで年間6911円(67808円⇒74719円)
・現役世代の介護保険料は10年間で45%増:1.19%(09年)⇒1.73%(19年)
・高齢者の介護保険料は10年間で41%増:49920円(09年)⇒70320円(19年)
◆「隠れ増税」に要注意
4月19日の日経朝刊でも、この問題が取り上げられていました。
大企業の社員が入る健康保険組合では、本年に一人あたりの介護保険料が年間10万円を突破したのです。
これは、会社員の収入に応じて介護保険料が上がる仕組みが2017年にできたためでもあります。
少子高齢化が進んでいけば介保の負担が増えますが、保険料は給料からの天引きなので、健保からの情報や給与明細を見ないと、それに気づきません。
そのため、日経は、これを「隠れ増税」と呼び、健康保険料や介護保険料は「2度延期した消費税に比べれば気づきにくく、あげやすい」ことに注意を促していたのです。
◆介護費の伸び率は医療費や年金を上回る
介護保険料の伸びが止まらないのは、介護費がどんどん増えているからです。
近年の社会保障の統計を見ると、介護費の伸び率は、医療費や年金の伸び率を大きく上回っています。
2012年から16年までの伸び率を見ると、介護は14%、医療は9%、年金は2%の伸び率でした。
年金の支払いが巨額であることは周知の事実なので、いくつかの対策が取られましたが、医療や介護への対策は遅れているのです。
※2012~16年の年金、医療、介護の伸び率
・年金は2.15%:53.2兆円(12年)⇒54.4兆円(16年)
・医療は8.65%:35.3兆円(12年)⇒38.4兆円(16年)
・介護は14.4%:8.4兆円(12年)⇒9.6兆円(16年)
(国立社会保障・人口問題研究所「平成28年度 社会保障費用統計」を参照)
◆介護保険が抱える大きな問題
介護は、2000年に施行された「介護保険」を中心に回っていますが、ここには、多くの問題があります。
その一つは、高齢者のお金の積立ではなく、現役世代の支払いをあてにした制度だということです(「賦課方式」)。
90年代から少子高齢化が加速していたのに、介護保険は、年金や医療と同じく、減っていく現役世代が増えていく高齢者を支えるように設計されました。
この仕組によって、介護保険料はどんどん増えています。
また、もう一つの問題は、給付金の半分が国のお金で賄われているということです。
介護にも、高齢者に原則1割の自己負担はあります。
しかし、そこに現役世代のお金が流れ込み、さらに国のお金が投入されるので、結局、自己負担した以上のサービスが受けられるようになっています。
この制度は、若い世代と国全体から、お金を高齢者介護に移転させ、大盤振る舞いの福祉を実現しているとも言えるのです。
※介護は原則1割負担だが、所得に応じて2割負担、3割負担となるケースがある
◆給付と負担のバランスを取るためには
そのため、給付と負担のバランスを取らなければいけなくなりました。
その具体策の一つは、自己負担率を所得に応じて上げることです。
介護に社会保険制度を採用している主な国は、日本とドイツ、韓国です。
日本は原則1割負担ですが、総費用を利用者負担額で割ると、7%にしかなりません。
ドイツは30%、韓国は18%なので、自己負担率に関しては、もっと引き上げる余地があるわけです。
医療と同じく、2割負担(主に中間層)や3割負担(高所得者層)の対象を広げていく改革が可能です。
2つ目は、給付の削減です。
介護は、案件のレベルに応じてお金が給付されるので、軽い介護の案件での支給を止めれば、介護費は減らせます。
厚生労働省の資料では、軽度者(要介護2以下)は、中重度者(要介護3以上)よりも、1人あたりの利用者負担額は小さいが、近年の費用の伸び率が高くなっていると書かれていました。
介護費を減らす場合は、軽度者から始めるしかありませんが、年初の厚生労働省の月額発表によれば、給付額のうち、軽度者が36%、中重度者が64%を占めていました。
その36%のなかから、削減が可能な案件を洗い出し、給付の絞り込みを行う必要があります。
(※「介護保険事業状況報告(平成31年1月分)」を参照。軽度者累計が2754億円、中重度者累計が4841億円)
介護の中には「最低限のセーフティネット」として、公的な支援が必要なサービスもありますが、可能な支援には限りがあるからです。
そのため、自己負担額の増加と、軽度な案件から保険適用を止めるなどの策が必要になるのではないでしょうか。
【参考】
・協会けんぽ「協会けんぽの介護保険料率について」(2019/2/19)
・協会けんぽ「介護保険の平成31年度保険料率について」(2019/1/31)
・社会保障審議会「介護分野の最近の動向等について」(2018/7/26)
・日本経済新聞朝刊(2019年4月19日付)
・国立社会保障・人口問題研究所「平成28年度 社会保障費用統計」
・厚生労働省「社会保障①(総論、医療・介護制度改革)」(2017/10/4)
・厚生労働省「介護保険事業状況報告(暫定)」(平成31年1月分)