このエントリーをはてなブックマークに追加

「ユーロ」の行く末――ギリシャからイタリアへ

http://hrp-newsfile.jp/2018/3401/

HS政経塾 第7期生 安原 宏史(やすはら ひろし)

◆イタリア発の経済混乱

2018年3月4日。イタリアの総選挙で与党民主党が惨敗、コメディアン出身のディマイオ氏率いる「五つ星運動」と「同盟」の連立政権が誕生しました。

両政党ともEU懐疑派です。新首相のコンテ氏は、内閣発足時の所信表明演説の中で、最低所得保障導入(ベーシック・インカム)と減税に向けた税制改革など、両立しがたい政策を掲げました。(※1)

結果、急激なイタリア国債売りが進み、金利が急上昇、市場が混乱しました。今後、EU離脱に加え、イタリア発の経済危機にも備える必要がありそうです。

◆欧州危機のからくり

イタリアの経済危機はどう発生し、どう波及するのでしょうか。その鍵はイタリアの経済規模と債務の大きさです。

イタリアはギリシャの約10倍のGDP(約210兆円、2017年時点※2)です。債務は約265兆円(2016年時点※3)で、EUで1位、世界第4位の大きさです。

金融危機対応のための欧州システムであるESM(欧州安定メカニズム)準備金は約100兆円ですが、これを超えたらユーロ圏では対処不能、世界的規模の恐慌となる可能性があります。

国債の金利が7%近くなると、いわゆるジャンク債(紙切れ)扱いされ、デフォルト(債務不履行)の懸念が高まります。金利が上がれば上がるほど、債務国の財政負担はますます厳しくなり、新規国債発行も買い手がつきません。

国債は売られる一方で資金調達の術なく、破産状態に陥ります。これがユーロ危機のからくりです。

◆ユーロ圏の抱える「構造的な問題」―為替変動と各国経済の乖離―

ギリシャ、イタリア、スペイン、フランスなどの南欧では、財政赤字対GDP比3%以内、累積債務残高対GDP比60%以内などのEUが定める厳しい財政規律をクリアできずにおります。

この財政規律達成のためにも、国内産業育成による経済成長が必要です。

しかし問題なのが共通通貨ユーロというシステムです。共通通貨ユーロを採用するユーロ圏各国の金融政策はECB(欧州中央銀行)が一括で行い、各国経済に応じた独自の金融政策はとれません。

通常、各国の経済の強さに応じて為替は変動しますが、ユーロ圏各国では「ユーロ圏の経済力」として為替が推移します。

ドイツのような経済強国では、本来の為替より低く推移し、ギリシャのような経済弱少国では、本来の為替より高く推移します。

ドイツは輸出に有利、ギリシャは輸出に不利だと言えます。発展途上国の成長モデルでは輸出増が大切な要素ですが、ドイツ製の割安で質のいい製品ばかりを消費者が好むなど、国内産業が成長していきません。

◆ユーロ圏の抱える「構造的な問題」―各国バラバラの財政政策―

また、金融政策は統一にも関わらず、財政政策が各国独自である点も問題です。先に述べたイタリアの例が顕著です。

ただバラバラといってもルールはあり、ユーロ圏は財政面でも厳しい規律を求め、基準を超すとペナルティがあります。当然、バラマキや年金、雇用や労働規制についての構造改革は必要です。

しかし結果として、減税や公共投資なども絞られ、有効需要の創出まで削がれてしまいます。国内経済の成長戦略が採りづらいのが問題です。

◆ヨーロッパ合衆国構想とユーロ圏の行く末

ただ、もしユーロ圏が金融・財政政策とも均一であれば、この危機を超えられるかもしれません。

つまり、ユーロ圏の各国が日本の都道府県やアメリカの州のような位置付けとなり、全体として合衆国的に動くということです。

ただ、そのためには財政政策の決定権等を中央に移譲せねばならず、国の主権放棄と言えます。それを各国が呑めるかといえば、現実的に考えて難しいのではないでしょうか。

思うに、EUの前身であるECができた時に英国首相サッチャーが参加を拒否したのは、主権の放棄につながると直感的に感じたからではないでしょうか。(※4)

結局ユーロ圏がユーロ圏である限り、改革不能な問題をはらみ続けております。未来にEUや共通通貨ユーロがあるかどうか―。

それは、(1)危機は構造上の問題 (2)EU合衆国実現の見通しも限りなく厳しい、ということから、「ユーロ圏はどこかのタイミングで体制の崩壊に繋がる可能性がある」と言わざるをえません。

【参考文献】
白井さゆり2011「ユーロ・リスク」
藤原章生2010「ギリシャ危機の真実 ルポ『破綻』国家を行く」

※1日本経済新聞2018年6月5日「イタリア新首相『我々はポピュリズム政権』 上院で所信表明」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31416050V00C18A6FF8000/
※2世界銀行データバンク
https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.CD?year_high_desc=true
※3IMFデータバンク
http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2018/01/weodata/weorept.aspx?sy=2016&ey=2023&scsm=1&ssd=1&sort=country&ds=.&br=1&pr1.x=30&pr1.y=10&c=122%2C941%2C124%2C946%2C423%2C137%2C939%2C181%2C172%2C138%2C132%2C182%2C134%2C936%2C174%2C961%2C178%2C184%2C136&s=GGXWDN&grp=0&a=
※4大川隆法著「サッチャーのスピリチュアル・メッセージ」9「EUの失敗」は予測していたP.113
https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=933

安原宏史

執筆者:安原宏史

HS政経塾 第7期生 安原 宏史

page top