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トランプ革命の行方と日本の外交戦略【3】 クリミア危機の伏線を敷いた「EUの野心」と「脆弱なウクライナ経済」

http://hrp-newsfile.jp/2017/3094/

幸福実現党政調会・外交部会 彦川太志

前回のニュースファイルでは、米トランプ政権がロシアとの関係改善を実現するためには、シリア問題とウクライナ問題を巡る対立にどのような着地を見出すかが試金石になると紹介させて頂きました。

トランプ革命の行方と日本の外交戦略【2】トランプ政権下で進展する、米露関係の修復
http://hrp-newsfile.jp/2017/3085/

今回は、ロシアとウクライナ、EUの関係について触れつつ、ウクライナ問題の解決に向けて、日本が持つべき考え方を提言させて頂きます。

◆ロシアを追い詰めたEUの「野心」

一般的に、ウクライナ内戦はクリミア半島やドネツク・ルハンスクなどの二州に対するロシアの領土的野心から引き起こされたと考えられていますが、軍事的な観点からみると、逆にNATOがロシアを挑発した、という構図がある事が見えてきます。

ウクライナは91年のソ連邦崩壊と共に独立を果たし、EU諸国の「東方拡大」政策を背景とした欧米からの資金供給をテコに、ロシアからの経済的・政治的独立を志向してきました。

EUの東方拡大政策とは、旧ソ連邦の同盟国を形成していた旧東側諸国を西側諸国の一員として取り込んでいく政策であり、NATOによる対ロシア軍事包囲網の形成をも含んでいました。

そうした流れの延長として、ウクライナのEU加盟と経済統合が推進されておりましたが、ウクライナ領内にはソ連時代に形成されたロシアの重要な軍事産業が今も複数所在していることから、ウクライナ経済のEUへの統合は、経済問題のみならず国防上の問題とも絡んだ深刻な政治的対立に発展していました。

ウクライナに所在するロシアの軍事産業の例を紹介すると、軍用機や艦艇のエンジン生産工場をはじめ、対空ミサイルの誘導装置やICBMの部品を生産する工場が所在していることが知られています。

ロシア政府は、このような軍事力の中枢にかかわる産業の情報がEUとの経済統合によって第三国に流出する可能性を警戒していたのであり、ウクライナのEU加盟によって、軍事力の基幹に関わる産業を喪失した上に、ロシアに対するミサイル防衛網がモスクワの目と鼻の先に展開されるという危機に直面することを危惧していたのです。

カーネギー国際平和財団・モスクワセンターのドミトリー・トレーニン氏は、「ウクライナ危機とそれに先行する西洋との関係悪化」により、ロシアは中国との「協商関係」の拡大を選択せざるを得なかったと指摘しています。

ロシアを中国との実質的な「協商関係」に追い込んだEUの東方拡大政策について、その妥当性を検証する必要性があると言えます。

◆外国資本に左右される脆弱なウクライナ経済にこそ問題の核心がある

一方で、ウクライナ経済の在り方にも注意を払う必要があります。

ウクライナは独立以来、IMFなどの西側資本を呼び込みつつ経済改革を進めてきましたが、26年に渡る歴史の中でGDPがプラス成長となったのはわずか4年間のみ。

しかもヤヌコヴィッチ大統領が追放された2014年初頭時点でのウクライナ財政は、GDP約1783億ドルに対して、対外債務残高1421億ドル、外貨準備高204億ドルという財政リスクを抱える状態でした。

確かに、軍需中心のソ連経済はウクライナを豊かにすることはありませんでしたし、ソ連崩壊後のロシアもウクライナを救済する力を持ち合わせていませんでした。

しかし、それと同様に、欧米諸国が十年以上に渡って資金援助や経済改革を指導してきたにもかかわらず、ウクライナ経済が行き着いた所はデフォルト間近の「外資依存経済」であり、国営企業民営化の努力も一部のオリガルヒ(新興財閥)を育てただけで、国内に厚い中産階級層を形成する事ができなかったという現実があります。

外資に依存せざるを得ない経済状況それ自体が、ウクライナ国内に混乱の火種を点している事は明らかです。

結局、「ロシアの資金」と「欧米の資金」のどちらを利用して経済を維持するのかという経済的・政治的選択肢の間を揺れ動いた結果、民族衝突に火が点く寸前までいったのがウクライナ問題であり、「ウクライナ国民の自立と幸福を真に実現する」という観点が完全に抜け落ちている点、同国の政治指導者に反省を求めるべきだと言えるでしょう。

むしろ経済制裁による深刻なリセッションの最中、「武器輸出額」以上の「農業輸出額」を達成し、新たな輸出の主力産業を育てるという経済改革を「自力で」行ったロシアに、ウクライナも少しは見習った方がよいと思います。

◆ODA政策を見直し、ウクライナに「自助からの繁栄」の精神を育てるべき

以上の点を踏まえると、結局ウクライナ問題と言っても、旧ソ連時代の重工業産業からの産業転換に苦戦し、自立した経済を構築できていないウクライナを、欧米が救済するのか、ロシアが救済するのかと言うだけの問題であることが見えてきます。

また、経済を外資に依存している状況が変わらない限り、資金提供を行う国や集団の利害に常に内政が影響されますので、外交にも重大な影響が及びます。

このことから、ウクライナ問題の解決に向けて、日本は同国国内の健全な中産階級育成を支援することで、「内政の安定」と「外交関係の安定」を達成できるように取り計らうべきだと言えるでしょう。

その政策的手段としては、これまで日本が行ってきたODAを見直し、新たな基準で実施して行く事が考えられます。

日本はクリミア危機以降、ウクライナに対して2000億円以上のODAを実施していますが、下水処理場の修復や日本企業製品の無償提供などの場当たり的施策に終始しており、ODAを通じてウクライナ問題にどうコミットしていくのかと言う「哲学」が感じられません。

これは私見に基づく提案ではございますが、ODAを「商道徳」育成に特化し、「石門心学」(江戸時代中期の思想家・石田梅岩を開祖とする倫理学で、正直 倹約 勤勉の「三徳」を説いた)をウクライナに輸出するようなイメージで、「ウクライナ経済の安定と発展」、「紛争の抑止」に貢献する気概を見せてはいかがでしょうか。

日本は「資源大国」ではありませんが、世界有数の「老舗大国」でもあり、「ファミリービジネス」大国でもあります。

その核心は宗教的信条に裏打ちされた「自助努力」と「利他の精神」に基づく「ジョブ・クリエーション」の経済思想に他なりません。

もちろん、テクニカルな法改正や制度改革は別途必要となるでしょうが、「日本の繁栄にあやかりたい」という親日国を増やしながら、欧州とロシア間の対立を経済面から解消していく哲学を一本打ち込んでいく事も、外交の使命であると考えます。

次回、最新情勢を踏まえつつ、「ミンスク合意」の履行を果たし、米露関係を修復に導くための日本の具体的行動について提言し、ウクライナ問題の最終回としたいと思います。

彦川 だいし

執筆者:彦川 だいし

HS政経塾第1期卒塾生/党政調会・外交部会

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