このエントリーをはてなブックマークに追加

地方活性化に向けて(1)――群馬県上野村「農林業の6次産業化」の事例

HS政経塾4期卒塾生 西邑拓真(にしむら たくま)

◆危機にある「地方」

近年、「地方」が危機の中にあると叫ばれています。

国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」によると、今後、人口が激減する自治体が急増し、2040年に人口5000人未満となる自治体は全自治体のうち5分の1以上を占めるであろうと予測されています。

特に、地方自治体のうち、2040年時点に20-39歳の女性人口が半滅すると推計される自治体は「消滅可能性都市」と呼ばれるようになりました。

これに関し、2014年5月に行われた「日本創成会議」の「人口減少問題検討分科会」において、2040年までに全国約1800市町村のうち約半数(896市町村)が消滅する恐れがあるということが発表されました。

このように、人口の大幅な減少により、いわば「存続の危機」に直面している地方は、今、その活性化のための施策の実施が急がれているわけです。

◆人口の19%が「移住者」で占められる上野村

当稿では、地方を活性化させるための施策を考えるきっかけとして、群馬県上野村の事例を取り上げることに致します。

上野村は、人口1300人(2016年3月時点)で、群馬県内で最も小さな自治体です。

同村では定住人口を増加させるため、早期から高齢化や過疎化に対する様々な取り組みが行われてきました。

その結果、上野村へIターン(出身地とは別の地域に移住すること)を行った者は、平成元年からの総計で121世帯254名にものぼり、現在は、移住者が人口の約19%を占めるまでになりました。

また、上野村への移住者に対するアンケート調査によると、およそ5人に4人もの人が「今後も上野村で暮らしたい」と答えており、このことは、移住後の生活満足度も高いことを裏付けています。

そして、移住を行うかどうかに大きな影響を及ぼす要因になると思われるのが「雇用」や「所得の向上」です。

そこで、ここでは、上野村で行われている様々な施策のうち、地元産業の活性化策に焦点を当てて議論を行って参ります。

◆上野村における農林業の6次産業化

上野村では、地元資源の活用を通じた「農林業の6次産業化」に向けた取り組みが行われています。

6次産業化とは一般的に、第1次産業としての農林業が、第2次産業である食品加工業や第3次産業のサービス業に進出することを通じ、特に地元経済を活性化させることを指します。

上野村における取り組みとして、まず取り上げられるのが「きのこ栽培」です。

同村では、以前より椎茸や舞茸の栽培が行われてきましたが、新鋭設備を有する「きのこセンター」の建設や、きのこ類の製造・販売など村の積極的な取り組みにより、きのこ類が村の基幹産業に育てあげられてきたわけです。

また、林業に関しては、9割以上が山林で占められる同村は、以前から行われていた丸太の出荷に留まらず、通例、伐採の際に出荷することができないとされる間伐材に着目しました。

それを木炭や木酢液、また、ストーブなどの燃料となる木質ペレットの生産に活用し、生産工場を村が直営で事業化しています。

さらに13年には、これら農林業に対する資金面や経営面でのバックアップなどを目的として、地域ファンド「上野村活性化投資事業有限責任組合」が発足しています。

このファンドは、地元金融機関ではなく自治体が主体的に組成している点で、非常に画期的なものとなっており、こうしたことからも、農林業の6次産業化の更なる推進の取り組みに対する自治体の積極的な様子が現れています。

◆地方活性化策とは

では、この上野村の事例から、どのような地域活性化に向けたヒントを見出すことができるでしょうか。

一点目は、上野村では林業やきのこ栽培に関する潤沢なる経営資源が有効利用されているという点です。まず、「地域」について知り尽くし、ヒト、モノ、カネ、情報などといった「強み」となる資源を見出していくことが必要であることを、この事例は物語っています。

二点目は、本来廃棄されるはずの間伐材の例のように、地元の経営資源をうまく転換しながら、それを「顧客の満足」につなげるためにあらゆる創意工夫が施され、様々な製品の製造や販売がなされているという点です。

そして三点目は、「外部との連携」を構築することです。上野村では、多くの移住者が林業やきのこ栽培に携わっているという点で、元々外部にあった「人的資源」がうまく活用されている一方で、上野村における今後の長期戦略として「販路の開拓」が課題の一つであるいう指摘もあります(竹本昌史『村ぐるみで6次産業化 シンボル事業を深堀り』参照)。

リーダーシップを発揮し、こうした「課題」の解決に導く人材が、村の内部にいるとも限りません。外部との人的ネットワークの構築等を通じた取組で、6次産業化のさらなる発展が望めるかもしれません。

このように、地域の活性化に対しては、(1)地元資源の最大活用、(2)創意工夫と試行錯誤によるオリジナリティの創出、(3)外部との連携強化という、三つのヒントを挙げることができるでしょう(週刊ダイヤモンド2014年4月12日号「地方復活の特効薬 “ジリキノミクス”」参照)。

また、この事例を見ても、地方活性化のための鍵は「国からの補助金」などの外部要因に求めることができるわけではないこともわかります。

やはり、地元の資源を生かし切ることで産業を推進させ、地域の魅力増大につなげていこうとする「自助努力の精神」にこそ、地域活性化のための根本的なヒントが隠されていると言えるのではないでしょうか。

(参考文献)
週刊ダイヤモンド2013年7月6日号「『イナカノミクス』成功の極意」
週刊ダイヤモンド2014年4月12日号「地方復活の特効薬 “ジリキノミクス”」
竹本昌史『村ぐるみで6次産業化 シンボル事業を深堀り』, 経済界2014年7月8日号.
佐藤知也 『移住者を後継者に変える村づくり』, 「農業と経済」2016年5月号.

西邑拓真

執筆者:西邑拓真

政調会成長戦略部会

page top