交通革命の歴史と未来ビジョン【その3】
文/HS政経塾第二期卒塾生 曽我周作
◆新幹線利用と飛行機利用の境界線は移動距離「約750キロ」?
現在、東京駅~大阪駅間の移動は、新幹線を利用すると、およそ2時間45分程かかり、飛行機で羽田空港・伊丹空港を利用した場合、およそ3時間かかります。
移動距離にして約550キロですが、筆者個人でいえば東京~大阪間の移動であればほとんどの場合新幹線を利用しています。
『鉄道の未来学』が紹介する2007年度の国土交通省「貨物・旅客地域流動調査」の結果によれば、「500キロ以上、750キロ未満」を鉄道で移動した人の数5,792万人に対し、飛行機での移動は1,700万人で圧倒的に鉄道移動の方が多くなっています。
それに対して、「750キロ以上、1,000キロ未満」の移動になると、鉄道906万人に対して、飛行機での移動が1,652万人と両者のシェアが逆転します。
梅原淳氏著『鉄道の未来学』によれば「300キロ以上、500キロ未満」を鉄道移動した7,497万人のうち33%の2,510万人が東海道新幹線で首都圏~中京交通圏を移動しています。
また「500キロ以上、750キロ未満」を鉄道で移動した人の数5,792万人うちの66%にあたる約3,813万人は東海道新幹線で首都圏~京阪神交通圏を移動した人の数です。
「他の新幹線の利用者数も考慮にいれると、鉄道を利用して300キロ以上、750キロ未満を移動した人の大半は在来線ではなく新幹線を利用したと考えられる」といいます。
したがって、これらの事から推測すると、新幹線利用による移動と、航空機を利用しての移動の選択の境界は、移動距離にしておよそ750キロ付近ではないかということが推定できると思われます。
例えば東京駅~岡山駅の移動は距離にして約730キロですが、新幹線の利用と飛行機の利用でほとんど時間の差はなく、両者とも約3時間20分程かかるようですが、これくらいの距離の移動をする辺りで、新幹線か航空機の利用が分かれてくるようです。
◆リニアの建設と、空の交通の利用拡大を
しかし、もし東海道山陽新幹線と並行するようなかたちで、東京~博多間にリニア新幹線が開通したとしたらどうなるでしょうか。
東京駅~博多駅までは移動距離にして約1,100キロになりますが、現状では新幹線を利用すると5時間ほどかかり、航空機利用で3時間半程度かかるようです。
これが、リニアがこの間を開通した場合、東京~大阪間が1時間7分ほどで結ばれると言われていますから、東京~博多間も2時間半を切るくらいで結ばれると推定されます。
そうすると、先ほどのデータによると、1,000キロ以上の移動では鉄道が308万人に対して航空機利用が4,994万人と圧倒的な差があるこの両者の関係に、大きな変化が出る可能性があります。
やはり、乗降手続きの容易さや、運行本数、さらには空港の整備、空港へのアクセス向上などを行う必要があります。また、政府は「観光立国」の目標を掲げていますが、国内の移動を早く、容易に行えるようになることが、訪日客を増加させることにつながると思います。
都市間の距離を縮める交通革命を前進させることで、ビジネス環境を大きく変え、観光立国への推進を進めていくことができると考えられます。
ですので、リニアの建設を進めるとともに、もっともっと空の交通網を充実させることが同時に必要です。その中には羽田空港を真の国際空港として機能させるようにしていくことも大切だと思います。
◆交通の24時間化を推進しよう
幸い2020年東京オリンピックの開催が控えており、様々な課題が浮き彫りになってくるでしょう。
例えば前述の羽田空港の24時間化や、都市交通の24時間化も大きな課題として注目されるようになるはずです。
森記念財団の理事、市川宏雄氏は「五輪を機に東京での都市機能の24時間化が進むだろう。交通機関や集客施設の営業時間を延長すれば、各駅や各施設周辺の飲食店や店舗なども、それに追随するようになる。」(『TOKYO2025』市川宏雄/森記念財団都市戦略研究所)と予想しています。
都市機能の24時間化を図ることで、より多く人が日本を訪れるようになりますが、それを支える交通インフラの充実が極めて重要で、そのインフラが整えばこそ、新しい投資、例えば、ホテル建設の推進などもますます進んでいくようになるでしょう。
まだまだ日本は開発の余地があります。まだまだ成長が可能です。交通革命の実現もその一翼を担う大きなエンジンの一つであることは間違いないでしょう。