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「電力自由化」の是非――安定的で安価な電力供給の確立を

文/HS政経塾4期生 西邑拓真(にしむら たくま)

◆政府の電力システム改革

2016年4月より、電力の小売が全面自由化されます。

これまでは、電気の大口使用者への小売事業への参入のみ認められていましたが、この度の全面自由化で、家庭などへの小売り事業に対する参入規制も撤廃されることになります。

現在、日本は、(1)電力需給をチェックする機関の設置、(2)小売事業の全面自由化、(3)大手電力会社から送配電網を分社化する(発送電分離)という3つの段階で電力システム改革を推進しています。

そして、今月3日、政府は改革の3段階目である発送電分離を義務付ける電気事業法の改正案を閣議決定し、2020年4月に発送電分離を実施することが目指されています。

◆公益事業における規制緩和事情

電気は、国民の日常生活や生産活動にとって必要不可欠なことから、適切な料金で安定的な供給がなされる必要があります。

その一方で、同事業は規模の経済性などの自然独占性の性質を有することから、参入規制などを敷く必要がある事業として、「公益事業」に分類されます。

現今の「地域独占」に対し、規制を緩和し新規参入を認め、同事業に「競争の原理」を取り入れることで、利用者の選択の自由を増やすのが「電力自由化」です。

また、電気事業では発電、送電、配電、小売の業務が同一企業の下で維持されてきました。

これに対し、垂直的に統合された企業を業務内容別に分離する「発送電分離(アンバンドリング)」は、新規参入企業が、既存大手企業に比して公平な条件で送配電網を利用することができるようにさせ、これにより競争環境の改善が進むことが期待されています。

◆電力自由化が価格に与える効果

では、電力自由化によって、実際に価格は低下するのでしょうか。

諸外国における電力自由化等による電気料金への影響調査において、「電力自由化開始当初に電気料金が低下していた国・州もあったが、概ね化石燃料価格が上昇傾向になった2000年代半ば以降、燃料費を上回る電気料金の上昇が生じている」と指摘されています。

【参考】
『諸外国における電力自由化等による電気料金への影響調査(平成25年3月)』
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2013fy/E003213.pdf

「欧米諸国の先行例を改めて吟味する電力全面自由化はやはり愚策だ」
(石川和男 [NPO法人 社会保障経済研究所代表]
http://diamond.jp/articles/-/47345

このように見ると、電力自由化は、必ずしも電気料金の低下につながるわけではないということがわかります。

◆安定供給網体制の整備に対する懸念

また、電力自由化の重大な懸念事項として、「競争の導入によって、電力供給の安定性が失われる」ということが挙げられます。

その一例が、2000年夏から2001年冬にかけての「カリフォルニア電力危機」です。

アメリカ・カリフォルニア州では、1996年に電力自由化が実施されましたが、電力需要が拡大する中で、発電事業者が発電所新設に対し消極的姿勢をとったり、既存発電設備が運転停止になるなどして、電力需要は供給を大きく上回り、電力卸売価格は増大する一方となりました。

その中で、小売価格に対しては、政府によって価格規制が行われていました。

したがって、電力小売業者は卸売価格の上昇を、小売価格に転嫁することができなかったことから、「逆ざや」が生じました。

その中で、大手電力会社の一社が破たんに追い込まれる一方、発電事業者が代金回収に懐疑的となったことから「売り渋り」を行い、結果として輪番停電を行わざるを得ない状況にまで発展しました。

この事例から、電力自由化によって、国民生活にとって不可欠な電力が十分安定的に提供されなくなり、電気事業が「公益事業」としての役割を果たさなくなる可能性が懸念されるわけです。

◆安定的かつ安価な電力供給網整備の前提条件は、原発の再稼働

日本の産業競争力の強化にとって欠かせない、安定的かつ安価な電力を供給することは、電気事業を担う者にとっての使命とも言えます。

その使命が十分に成就されるためにも、適切な競争環境の整備に向けた取り組みと共に、電力供給量の確保そのものに向けた取り組みが重要になります。

原発は、火力や水力発電に比べて、安価で大量の電力を提供することができるのは周知の通りです。この点から、競争の有無に関わらず、原発再稼働は電気料金低下にとっての大きな前提条件と言えます。

したがって、日本は、各地の原発の再稼働に向けた取り組みに邁進すべきことは言うまでもありません。

同時に、電力自由化を行った場合、「競争環境下において、重要な電源としての原発を、誰が維持・促進していくのか」などといった「設計図」が示される必要があります。

以上のことから、日本は今一度、「電気事業の公益性」という原点を鑑みた上で、「電力システム改革」の是非を検討すべきです。

西邑拓真

執筆者:西邑拓真

HS政経塾4期生

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