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「特別の教科 道徳」設置と次なる課題

文/HS政経塾 第3期生 和田みな

◆「特別の教科 道徳」

文部科学省の中央教育審議会の道徳教育専門部会は今月19日、10回目の審議を開き、最終答申案をまとめました。

今回の答申でまとめられた内容は、以下のようなものです。

道徳の時間を「特別の教科 道徳」(仮称)として格上げし、学校教育全体を通じて行なう道徳教育の要として位置づけ、理解と実践のための内容の充実を図ること。

それに伴い、目標・内容を明確にし、指導方法を改善すること、検定教科書と評価の導入、教員の指導力及び免許や教員養成課程の改善を行なうことなどです。

◆現状の「道徳の時間」の問題点

「道徳の時間」は昭和33年に創設され、週に1時間確保されてきましたが、「教科」ではありませんでした。

平成18年、教育基本法が60年ぶりに改正され、その内容を反映するために道徳の学習指導要領も改訂されました。

その中で、道徳教育の充実を図るため「学校における道徳教育は、道徳の時間を要として学校の教育活動全体を通じて行うもの」であると明記され「道徳教育推進教師」が位置付けられます。

しかし、効果には地域差があり、現場の教師に理念が浸透せず、結果として他教科に比べ軽んじられてきたことが問題視されていました。

◆「特別の教科」への格上げの意味

このような現状から、今回の答申では、道徳教育は「道徳の時間を要として学校の教育活動全体を通じて行うもの」という理念の浸透と、具体的な取り組みを推進するために、道徳の時間を単なる「教科」とするだけではなく、「特別の教科」に格上げすることがまとめられたのです。

「道徳教育」は学校教育全体で行う根源的なものです。「特別の教科 道徳」はその道徳教育の要を担う時間であり、他の教科や特別活動は道徳教育の実践の場であるという位置づけになります。これが「特別」の意味です。

この重要な意識改革を現場の先生方はもちろん、国民にも促すことができるかどうかが、今回の大きなポイントです。

◆教育の目標「人格の完成」と道徳教育

道徳教育を「根源的なもの」と強く述べた理由は、教育とは何を目指しているものなのかという「教育の目標」に関係しています。

教育基本法では、第一章第一条に「教育の目標」は「人格の完成」にあることが述べられています。

そして今回の答申の冒頭ではこの目標を示した上で、「人格の基盤となるのが道徳性であり、その道徳性を育てることが道徳教育の使命である」と明記されました。

この点から、教育の目標を達成するための基盤が道徳教育にあるということは明らかです。

◆道徳教育と宗教教育

「道徳」は、私立学校においては「宗教」と置き換えることが許されてきました(学校教育法施行規則の第50条「宗教をもって前項の道徳に変えることができる」)。つまり道徳教育と宗教教育は、同じく人格の完成の基礎を成すものであるということです。

また、昭和22年、文部省に設置された教育法令研究会がまとめた『教育基本法の解説』では、次のように記載されています。

「宗教的信仰が将来の国民の道徳的向上のために必要なこと、ことにそれが人格の完成及び民主主義的、平和主義社会の建設に貢献するところが大であることが認められなければならない」

この解説からは、教育の目標である「人格の完成」には、道徳教育、さらにその根源には宗教教育が必要であると読み取れます。

◆教育界が抱える「宗教=タブー」というジレンマ

今後の道徳教育の深化には、道徳の根源にある「宗教性」を教えられるかが鍵となるでしょう。

今回の道徳部会で主査を務めた押谷由夫教授も、道徳教育の再検討を研究していく中で次のように道徳教育における宗教の重要性を述べています。

「宗教の道徳教育が果たす役割について考えざるを得なくなり」、「最も深く人間としての在り方や生き方を、自らに問いかけ実践しつつ追い求めた人々は、世間でいわれる宗教者です」、「人間として生きることの探求には、人間の力を超えたものとの対話が不可欠」(「学校における『宗教にかかわる教育』の研究1」)

一方で、今回も宗教教育は「重要な課題」であると認識され、何度か意見が出たにも関わらず、最後まで踏み込んで話し合われることはありませんでした。

教育界は、「宗教性」が重要だとは認識しつつも、「宗教教育」触れられないという「宗教=タブー」というジレンマから抜け出せずにいるのです。

◆課題は「宗教=タブー」の払拭

ある調査では、日本人の約70%が「無宗教」であると答えていますが、一方で70~80%が「宗教心は大切だ」述べています( 橘木俊詔著『宗教と学校』)。

80年代、政教分離の米国においてレーガン大統領が、教育の荒廃と道徳の乱れを改善するため「教室に聖書と祈りを復活させる」と言ったことは有名です。

このように、「教育の中で宗教性を教えることは大切だ」と多く人が認めています。

子供たちの人格の完成、人生にとって本当に大切なものを教えられる道徳教育にするために、日本の教育界は「宗教=タブー」という凝り固まった意識を払拭し、議論すべきです。

和田みな

執筆者:和田みな

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