「自立した農業」実現へ――北海道・浜中町『高品質牛乳』の成功
文/HS政経塾4期生・鹿児島県本部 副代表 松澤 力
◆年末にかけ「農協改革の攻防激化」
政府は、年内に具体的な農協改革案をまとめ、来年の通常国会に関連法案を提出する方針となっています。
今回の農協改革の大きな狙いの一つとして、一律的な経営指導に批判の多いJA全中の影響力を弱め、全国約700の地域農協の創意工夫が引き出されることが期待されています。
ただ、JA全中の万歳会長は、政府の抜本的な農協改革の動きに対して、「改革案はJA自らが決めたい」と自己改革を訴えています。
先日、万歳会長が行った記者会見の中でも、「自己改革はスピード感を徹底した議論を進めていくとともに、国民のみなさまにご理解いただけるよう検討していく」と改めて強調しました。(8/8 SankeiBiz)
今後、あくまでも自己改革を目指すJA全中と、JA全中を頂点とする中央会制度の「廃止」も含めて検討する抜本改革を目指す安倍政権との攻防が、年末かけて激化していく可能性が高まっています。
◆ハーゲンダッツも認めた「浜中町の高品質牛乳」
日本農業が再生するための一つのカギとなる、地域農協と農業者の方々の創意工夫によって「自立した農業」を実現しているのが、北海道の酪農の町『浜中町』です。
JA浜中は、酪農専門の農業地帯にある農協で、生産組合員戸数は184戸と小規模ながら、年間生産額が約100億円という高い生産性を実現しています。
浜中町の酪農によって生産されている牛乳は、乳脂肪分が4.0と高く、一般のスーパーでは手に入らない高級牛乳です。実は「乳脂肪分4.0」という濃厚牛乳を、一年通じて生産できているのは、現在 日本で浜中町だけです。
全国で生産されている牛乳の中でも、特に品質が高いとして、あの高級アイスクリームを製造するハーゲンダッツも、1984年に日本進出して以来30年間、浜中町の牛乳をアイスクリームの原料としています。
現在、JA浜中の成功に学ぼうと、多くの地域農協・農業関係者が浜中町へ視察に訪れています。また先日は、テレビ番組「カンブリア宮殿(テレビ東京)」で特集されるなど、その取り組みには大きな注目が集まっています。
◆奇跡を起こした「トップの信念」
これまでの浜中町 酪農の成功には欠かせない人物がいます。それが、浜中町農協の石橋組合長です。
全国トップクラスの高品質牛乳を支えているのが、30年以上も前から全国に先駆けて浜中町農協が造った「酪農技術センター」です。
酪農技術センターでは、2日に1回、浜中町の各牧場が生産する牛乳の成分や雑菌のチェックを行うほか、牧草の栄養や土壌の状態まで全てをデータ分析し、その結果を酪農に活用することで、牛乳の品質を徹底的に高めてきました。石橋組合長は、この技術センター建設を主導してきました。
ただ、今でこそ高品質牛乳の生産に欠かせない「酪農技術センター」も、建設当時は行政や農協上部組織が猛反対。反対理由は「農協がやる仕事ではない」というものでした。
しかし、石橋組合長には、農協の使命は「組合員である農家のサポートだ!」という信念があり、分析機械代だけで約2億7千万円の費用を投じ、酪農技術センター建設に踏み切りました。この決断が、現在の浜中町 酪農の成功の大きな礎となりました。
その後も、石橋組合長は、安い消毒液を海外から直接輸入することや1年中休みのない酪農家が休みを取れるようヘルパー制度の導入、新規就農者が3年で一人前の酪農家となれるように支援・指導する「就農者研修牧場」の設立など、行政や農協上部組織の反対を受けながらも、「組合員のため」と信じて様々な酪農改革を進めてきました。
様々な改革の結果、農家の後継者問題では、「後継者がいる」農家は全国で4割といわれる中、浜中町では7割に上る農家で後継者を確保しています。また、全国で年々増えている「耕作放棄地」も浜中町には存在せず、約15,000ヘクタールもの広大な農地が有効活用されています。
石橋組合長の信念と浜中町 酪農家の方々の絶え間の無い努力の積み重ねによって、浜中町では奇跡の酪農が実現しました。
◆地域で「創意工夫」できる農協改革を!
農業は地域ごとに事情が異なり、全国一律の政策は取りづらいのが現実です。浜中町の成功事例からも、日本農業復活のカギは、各地域の事情に合わせたやる気ある農業者・地域農協の方々の主体的な「創意工夫」にあると思います。
その大きな一歩として、一律的な経営指導に批判の多いJA全中の影響力を弱め、全国約700の地域農協の創意工夫が引き出されることを目指す農協改革は非常に重要だと考えます。
補助金に頼る農業を終わらせ、各地域の新たな取り組みによる「自立した農業」を実現していくため、農業者・地域農協の方々の自由な発想を発揮できる制度が強く求められます。