実効性ある『農協改革』の実現を!
文/HS政経塾4期生・鹿児島県本部 副代表 松澤 力
◆「岩盤規制」である農協改革の攻防
『農協改革』の実効性をめぐって、政府 VS 農協・自民党農林族の攻防が激しくなっています。
民間識者で構成する政府の規制改革会議が今年5月にまとめた提言をきっかけに、農協改革の議論が加速。提言では全国農業協同組合中央会(JA全中)による地域農協の経営指導や監査権限の「廃止」や農産物の販売を請け負う全国農業協同組合連合会(JA全農)を「株式会社」に転換することなどが主張されています。
これらの提言に対し、JAグループや自民党農林族は強く反発。そのため、政府・与党による協議では、JA全中の経営指導権などを「廃止」と明記することは見送られました。
自民党の農協改革案では、JA全中を新組織にする場合、「JAが自主的に検討する」としているため、地域農協への経営指導や監査などで一部の権限が残り、農協改革が単なる「看板の付け替え」に終わる可能性もあります。
もう一つの焦点であるJA全農についても、規制改革会議が株式会社への転換を求めたことに対し、自民党は「前向きに検討」「株式会社に転換することを可能とする」などと、あくまでJAの自主性を尊重する内容にとどめました。
ただ、安倍政権は規制改革会議の提言を重視する意向を変えておらず、具体案を固める年末に向けて、政府と農協・自民党農林族の攻防はさらに激しくなる見通しとなっています。
◆農業発展につながる「実効性ある」改革へ
農業協同組合(JA)は、農業従事者や農業を営む法人によって組織された協同組合で、各都道府県に本部や支店があり、各支店や市町村の農協では、営農指導や融資・貯金などの窓口業務も行っています。
基本的には各地にある個別の農協組織の集合体だが、これらを取りまとめる全国組織がいくつかあります。
全国組織の中で、全国農業協同組合中央会(JA全中)は、グループ全体の方針決定や地域農協の指導を行うための組織です。
その他に、農産物の集荷や販売を一手に担い、資材販売なども行っている全国農業協同組合連合会(JA全農)、生命保険や損害保険のサービスを提供する全国共済農業協同組合連合会(JA共済)、融資や貯金などのサービスを提供する農林中央金庫などの全国組織があります。
戦後まもなく誕生したJA全中は、零細農家の保護を前提とする国の農業政策の実働部隊を担ってきました。ただ現在では、農家の平均年齢が66歳に達するなど、深刻な課題に農業が直面する中、JA全中を頂点とした一律指導ではなく、地域に応じた「自立的な農業」を活性化する仕組みづくりが求められています。
JA全中が廃止となった場合、各地域の農協は国の補助金やJA全中の保護に頼れなくなる半面、各農家向けのサービスで創意工夫を生かせるようになります。地域農協の創意工夫による「自立」が、農業活性化の一つのカギといえます。
また、JA全農は、協同組合であることから独占禁止法が適用されず、取り扱う肥料や農機具などは「流通業者より高い」など農家からの批判も強く、農家のJA離れの一因にもなっています。
農水省が昨年、農家を対象に行った調査では、JAの資材供給について「満足していない」が最多の44%でした。JA全農が株式会社になれば、2012年度の売上高ベースで三菱商事や丸紅などに続き、第4位の「商社」が誕生することになります。
株式会社化で独占禁止法の適用除外がなくなることで、商社や流通業者との競争にさらされ効率化が進むことが期待されます。
◆「票」のためでなく、「真の国益」を実現する農協改革を!
農協は自民党の有力な支持母体で、組織票が見込める「票田」になっています。
そのため自民党では、来年4月の統一地方選を控え、農協との関係をこれ以上悪化させると、大都市部を除くほとんどの議員にとって、選挙への影響が避けられないという危機感は強いのです。
一方、安倍首相は参院決算委員会で農協改革について「やらなければいけないと、我々は決意している」と述べています。
日本の食糧自給率(カロリーベース)は、1965年には73%でしたが、近年は40%を割ってきています。農家の後継者不足も深刻な状況です。
日本の未来のため、農業の再生・発展は待ったなしの課題です。そのカギを握る『農協改革』を、何としても実効性あるものにしなければなりません。
安倍首相が目指すように、過去の「票」のための政治から決別し、未来を見据えた「真の国益」を実現する政治へ、農協改革を通して政治が生まれ変わることを強く求めます。