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年金制度改革に取り組み、新しい国家モデルを提示する

文/HS政経塾1期生 伊藤のぞみ

◆公共事業が支える日本経済

4月から始まった消費税増税の景気悪化を緩和するため、政府が公共事業を前倒ししています。

5月の公共事業請負金額は、1兆4602億円(季節調整値)。伸び率は3月の3%、4月の5%から、5月は11%と大きく伸びています。(6月12日付け 日経新聞5面)

政府は景気対策に5.5兆円の補正予算を組んでいますが、昨年の補正予算10兆円と比較すると、圧倒的に減少しています。今年度後半からは、公共事業はマイナスになる見通しで、個人消費が回復を見ながら、さらに補正予算を増やす必要性も出てきます。

しかし、補正予算の5.5兆円は、消費税増税によって増える税収6兆円に迫る規模であり、これ以上の補正予算を組んだ場合、財政赤字はさらに悪化します。

「社会保障」を人質にとり、増税を行ないながら、結果的に財政が悪化するのであれば、何のための増税か問い直す必要があります。

◆際限なく負担を増やすのか、給付を抑制するのか

今月発表された公的年金の財政検証で明らかになったように、現在の年金制度は維持できないことが明らかになっています。年金制度を維持するために、さらに負担を増やすのか、そうではなく、年金給付を抑制し、負担はこれ以上増やさないのか、選択しなければなりません。

学習院大学の鈴木亘教授の試算によると、国民年金、厚生年金ともに、2030年代には積立金が枯渇します。10パーセントの消費税では、高齢者の年金を負担しきれません。

政府はこの「不都合な真実」を隠しながら、消費税を決定してしまいました。残念ながら、負担と給付の説明をきちんとしないまま、少しずつ負担を増やしていく手法は、損失を隠しながら、さらに投資資金を集める悪徳金融業者と変わりありません。

政府は現在の年金制度を維持するために、将来的にはどれだけの負担が発生するのか明示する責任があります。

◆年金制度を見直すべきとき

年金に関しては負担を増やすのではなく、給付を抑制することを考えるべきです。財政的な観点からだけでなく、人間のあり方を考えた上でも、それが本来のあり方ではないでしょうか。

60歳から年金が支給されるようになったのは、戦後からです。それまでは、徳川吉宗が江戸町奉行所の大岡忠相に命じて、小石川養成所などをつくっていますが、身寄りがなく、病気になった高齢者を対象としたものでした。すべての高齢者を対象としたものではありません。

また、上杉鷹山は老齢年金制度を始めていますが、年金を給付したのは90歳以上の高齢者に対してでした。江戸時代の平均余命は30代後半から40代前半であったと推計されていますので、90歳以上の高齢者の存在は、例外中の例外であり、年金というよりも報奨金に近いものであったことが分かります。

明治時代に入って、退職者に対し年金を支払う企業が出てきますが、平均余命が42歳であった時代、50歳以上の退職者に長年勤めてもらったことに報いるために、企業が年金を払うという状況でした。さらに、そういった企業は、国営企業を含めて数えられる程度でした。

企業でも藩でも、老齢年金を始めた団体は、責任がとれる範囲で年金を支給し、受け取る側は年金を受け取ることは想定しないで生きてきました。(平均余命よりも、年金を受け取れる年齢が高いため)

現在でも、年金だけでは生活できないご高齢の方は働かれているし、将来年金は支給されないだろうと考えている若者は、個人年金に加入しています。

第二次世界大戦が終わり、平和が続いた結果、先進国では財政的に余裕が出来て、年金制度が始まりましたが、平均余命が伸び、少子化が進んだ結果、想定しなかったリスクが年金財政に発生しています。

1973年の石油危機や景気停滞をきっかけに、多くの国々で社会保障改革が進んでいますが、日本を含め、ヨーロッパ各国も財政赤字の問題を抱えています。

日本が先陣をきって年金改革に取り組むことで、新しい国家のあり方を提示すべきです。

伊藤 のぞみ

執筆者:伊藤 のぞみ

HS政経塾1期卒塾生

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