迫りくる首都直下地震――「防災大国ニッポン」を目指せ!
日本は火山列島であり、マグマの上に浮かんでいる国です。東大震研究所は今年1月、首都圏でM7級の直下型地震が4年以内に70%の確率で起きる可能性があるとの予測を発表しています(⇒http://goo.gl/fsgZv)。首都圏の防災対策は急務です。
東京都防災会議は4月18日、地震被害想定を6年ぶりに更新し、首都直下地震が起これば、都内の建物の約1割に相当する30万棟が全壊・焼失し、約9,700人が死亡するとの予測を発表しました。(4/18毎日「首都直下地震:最大死者9700人 都防災会議想定見直し」⇒http://goo.gl/v6VsG)
東京の防災上の最大の弱点が「火災」であることは「江戸」の頃より変わりません。死者の4割強、建物被害の6割強を火災被害が占めると予測されています。
その理由は、23区西部や南西部、東部の下町を中心に、約1万6千ヘクタールの木造の家屋がひしめく「木造住宅密集地」、いわゆる「木密(もくみつ)」が広がっていることにあります。(4/20 朝日社説「首都直下地震―燃えない街への工夫を」)
木密では山手線の内側2個分もの土地に150万世帯が暮らしています。木密は戦後、東京の都市整備がなされないまま、急激な人口増加に伴う敷地の細分化、建物の高密化等が進んだために形成されて来ました。先進国の諸都市と比べても防災対策は非常に脆弱な状況にあります。
木密では地震で倒壊する家屋が多いのみならず、一旦、火災が起きれば、火は一気に燃え広がります。狭い道路や行き止まり、未接道敷地が多く、消防車が駆けつけにくい上、大地震で大渋滞や道路の寸断、建造物の崩壊等があった場合、消防車が駆けつけることは極めて困難です。
街の防火対策には、延焼を防止するための広幅道路や公園等の整備、耐火住宅への建て替えが急務ですが、木密の街では高齢化が急速に進展しており、高齢者の方々は建て替えや引越しを厭うケースが多く、防火対策が進んでいないのが現状です。
木密の居住者の中は「地震や火災が来たらあきらめる」と自己責任を主張する方もいらっしゃいますが、自らのみならず、延焼の拡大によって多くの人々をも火災に巻き込むことを考えれば、「公共の福祉」の観点から、ある程度の私権制限はやむを得ないと考えます。
政府や都はこれまで「自己責任論」の立場を重視し、私権制限に慎重な立場で木密を放置して来ましたが、東日本大震災を受け、東京都は方針を一転し、今年1月、耐火住宅への建て替えを強制的に進める「木密地域不燃化10年プロジェクト」を打ち出しました。⇒http://goo.gl/Il0qr
具体的には、都は「特区」に指定したエリアで建て替え助成金をアップし、固定資産税を減免する一方、建て替えに同意しない人がいても土地収用法に基づく強制収用を適用し、延焼防止のため道路も広げる予定です。(4/19 読売「首都地震、都が強制収用も…不燃対策に私権の壁」⇒http://goo.gl/mRbmk)
平時においては、政府・行政機関による「私権制限」は慎重であるべきですが、防災・復興に向けては政府や自治体は「事なかれ主義」で逃げることなく、住民に対して十分に説明責任を果たした上で、迅速かつ柔軟な防災インフラの整備を推し進めるべです。
また、首都の防災機能を高めると共に、東京の国家機能のバックアップとなる「副首都」を関西圏等の適地に建設し、巨大災害で日本列島が政経両面で即死状態にならないような国家ビジョンの検討が急務です。(参照:WEDGE2012年5月号 小川和久著「東日本大震災の反省を踏まえ、副首都構想を推進すべし」)
民主党は「コンクリートから人へ」を掲げていますが、日本列島は常に地震や火山活動などの巨大災害に見舞われる可能性に直面しているため、強固な防災インフラの整備が急務です。
その財源は景気を悪化させる安易な増税によるのではなく、デフレ克服を兼ねた国債の日銀引き受けや、PFI等を活用した民間資金を用い、強力なリーダーシップで「防災大国ニッポン」を築いていくべきです。(文責・黒川白雲)