財務省の「日本の国民負担率が低い」は統計のトリックである。
【財務省の統計トリック】
「国民負担率」とは、租税負担率と社会保障負担率を合計した割合のことです。大雑把に言えば、私達が稼いだ所得の内、税金や年金、医療保険などのために支出する割合だと言えます。
政府が増税の根拠を示す際、よく用いるのが「国際的にみて日本は国民負担率が低いから、まだ増税の余地がある」という議論です。今回は、この点について検証致します。
財務省は、ホームページで「国民負担率の国際比較」と題し、国際比較のグラフと共に「日本の国民負担率は、主要先進国と比べると低い水準にあります」と説明しています。⇒http://goo.gl/o8vyA
このグラフによれば、国民負担率は日本38.8%、アメリカ32.5%、イギリス46.8%、ドイツ52.0%、スウェーデン59.0%、フランス61.1%となっており、確かに、日本の国民負担率はアメリカに次いで低い数値となっています。
このグラフだけ見ると、日本も増税する余地が大いにあるような錯覚に陥りますが、ここに「統計のトリック」があることを指摘しておきます。
「第一のトリック」は、財務省統計では、租税負担と社会保障負担の合計の「国民所得」に対する割合を「国民負担率」としていることにあります。
国際標準では「国民負担率」は「国民所得に対する割合」ではなく、「GDP(国内総生産)に対する割合」が用いられています。
※『国際比較にみる日本の政策課題』(国立国会図書館)p.28には「日本では一般的に、租税・社会保障負担額の対国民所得比が用いられるが、対国民所得比を用いると分母に間接税が含まれないため、税収に占める間接税の割合が高い国は相対的に負担率が高く表わされる傾向がある。OECDの統計では、国際比較をする際、租税・社会保障負担額の対GDP比で比較をして」いると記されています。⇒http://goo.gl/bFXzY
すなわち、財務省方式の「対国民所得比」を用いると、分母に間接税が含まれないため、間接税の割合が高い欧米の国は相対的に負担率が高く、日本は相対的に負担率が低く見えるというトリックが駆使されているのです。
実際、国際方式である「対GDP比」の「国民負担率」で見ると、日本28.1%、アメリカ26.4%、イギリス37.3%、ドイツ39.3%、スウェーデン43.7%、フランス45.2%となり、財務省方式と比べて、日本と欧米との差は大きく縮まります。(財務省「国民負担率の国際比較」より⇒http://goo.gl/eC1rZ)
「第二のトリック」は、税金負担と社会保障負担に財政赤字額を加えた割合である「潜在的国民負担率」(対GDP比)を見せないようにしていることにあります。
「将来の税金」とも言える財政赤字を加えた「潜在的国民負担率」で比較すると、日本36.2%、アメリカ32.3%、イギリス42.1%、ドイツ39.3%、スウェーデン43.7%、フランス48.5%となり、日本と欧米との差は更に縮まります。(同上)
上述した財務省方式では、日本と「高福祉・高負担」国家であるスウェーデンの国民負担率の差は20.2ポイントと大差がありますが、「潜在的国民負担率」(対GDP比)で見ると、両国の差は僅か7.5ポイントに過ぎません。
結局、財務省の統計は、世論を増税に導かんがための「統計のトリック」を大いに駆使したものであり、こうした「悪意ある統計」を垂れ流しにし、国民を洗脳しているマスコミも同罪です。
【「重税感」こそが問題の本質】
また、「国民負担率」に関わらず、日本人の多くが「重税感」を感じている理由について、慶應義塾大学の土居丈朗教授は「払った税金に見合うだけのメリットを自分たちが得られないから」と説明しています。(土居丈朗著『財政学から見た日本経済』光文社新書)
すなわち、「日本は国民負担率が低いから、まだ増税の余地がある」という単純な議論は間違いで、私達の税金が無駄遣いされ、国民がメリットを受けていないことにこそ問題の本質があるのです。
「重税感」は「国民負担率」だけでは表されません。行財政の無駄を放置したまま増税すれば、日本国民は更なる「重税感」を負うことになります。
「日本の国民負担率が他国と比べて重いか軽いか」は二の次であり、政府は「増税」を論じる以前に、まずは「払った税金に見合ったサービスが供給されていない」お粗末な国政・行政の現状を改革していくことから始めるべきです。
(文責・黒川白雲)