野田首相は日本の国益を守る気概はあるのか――「日中の戦略的互恵関係」の裏にある中国の意図
11月末から12月にかけての中国の直近の動きを三つ取り上げ、12月中旬の野田首相訪中に向けた中国の計略を推察してみたいと思います。
(1)中国海軍艦艇6隻が宮古島沖を通過
11月22~23日にかけて、中国海軍艦艇6隻が宮古島沖を通過、西太平洋上での軍事訓練を行いました。
同23日、玄葉外相は温首相らと会談、来年が国交正常化40周年となるのを契機に、両国の「戦略的互恵関係」を深化させる方針を確認しています。しかし、一連の会談で、玄葉外相から中国海軍の宮古島通過問題は一言も取り上げられませんでした。(11/24産経)
(2)軍事訓練を終えた中国海軍の艦艇4隻が古島沖を通過
西太平洋で軍事訓練を終えた中国海軍の艦艇6隻にうち4隻が宮古島沖を通過しました。(12/1朝日)
実は、前日の11月30日に、東京で第5回「日中関係シンポジウム」(中国人民外交学会と日本世界平和研究所が共催)が開催されています。
ここで両国の政治界、財界、学界の代表が、日中の「戦略的互恵関係」の進展、相互理解を深めた日中関係発展の政策提言が行われています。
その翌日12月1日、中国海軍艦艇が宮古島を通過していたその日に、シンポジウム参加のために訪日していた中国全国政協外事委員会主任、趙啓正氏が首相官邸を訪れています。(12/3中国網)
しかし、野田首相の口からは「中国海軍艦艇の宮古島沖通過」に対する抗議は一言もなく、「できるだけ早期の訪中を実現したい」との感謝の意を表しただけでした。
(3)中国が「日中境界画定に関する協議」の再開を提案
野田首相の12月中旬の中国訪問に向け、中国政府が2003年末を最後に中断していた国連海洋法条約に基づく東シナ海の「日中境界画定に関する協議」の再開を提案していることが明らかになりました。(11/28共同)
「日中境界画定協議」は、日中ガス田共同開発交渉にも影響を与えるばかりではなく、尖閣諸島の領有権をめぐる重要な問題です。
国連海洋法条約の関連規定では、双方の200海里までの排他的経済水域及び大陸棚が重なり合う部分について、双方の合意により境界を画定する必要があります。
ちなみに、「国連海洋法条約」の関連規定及び国際判例に照らせば、境界を「日中中間線」を基に画定することが国際的に常識な解決の道筋です。
しかし、中国側は「日中中間線」による境界画定は認められないとした上で、「中国大陸棚の自然延長」と言い張る「沖縄トラフ」(沖縄の近海)までを主張しています。
ここで問題となるのが2008年の「東シナ海ガス田の日中合意」です。これは、中間線より日本側海域のガス田も中国も参加して共同開発するというものです。
中国が主張する「沖縄トラフ」までを日中の境界とする交渉を日本が飲めば、尖閣諸島はもちろんのこと、共同開発した東シナ海のガス田も共同開発が終われば、最終的には全て中国のものとして接収されることになるでしょう。
それを狙って、野田首相訪中のタイミングに合わせて東シナ海に軍艦を航行させ、無言の圧力を加えているものと見られます。しかし、野田首相は、これに対して何ら抗議をしていません。
表向きは「戦略的互恵関係」を強調しておきながら、日本を中国の利益ために奉仕させる、これが中国の「戦略的互恵関係」の隠れた意図です。
この「東シナ海ガス田開発」の解決策は、「日中中間線」より日本側の海域で日本単独のガス田開発を一日も早く行い、「日中中間線」を既成事実化してしまうことです。これは「海域の実効支配」を行うことを意味しています。
野田首相が訪中を検討している12月13日は、日本軍が南京に入城した日にあたり、中国では「南京大屠殺同胞遭難記念日」として、「南京大虐殺記念館」を中心に関連行事が集中しています。
その渦中に訪中した野田首相は中国の前に大謝罪させられ、更なる経済支援と、ガス田共同開発交渉の譲歩を迫られることは目に見えています。
野田首相に日本の国益を守る気概はあるのか、その覚悟が試される訪中となることは間違いありません。
(文責・佐々木勝浩)