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次期日銀総裁に課せられた「難題」—「減量」なくして「出口」なし

http://hrp-newsfile.jp/2023/4420/

幸福実現党政務調査会 西邑拓真

◆「内定」した日銀新総裁人事

政府は今月14日、日本銀行の次期総裁に植田和男氏を充てる人事を国会に提示しました。

植田氏は金融論、マクロ経済学で国際的な経済学者であり、過去には日銀の金融政策を決める日銀の審議委員を務めるほか、日本政策投資銀行で社外取締役として活動するなど、実務面での経験を持つ人物として知られています。

日銀はこれまでの10年、デフレ不況からの脱却を果たすために「異次元」と呼ばれる金融緩和を行ってきましたが、今、その「副作用」も露わになりつつあります。この「副作用」こそ、日銀の新総裁に課せられた「難題」に他なりません。

当稿では、なぜこれからの日銀が極めて難しい舵取りを強いられるのかについて、難しい議論はできるだけ簡略化して、ポイントを整理いたします。

◆「黒田バズーカ」の残したツケ

黒田総裁がこれまで行ってきた大規模金融緩和は「黒田バズーカ」と呼ばれます。

黒田バズーカとは、簡単に言ってしまえば、「民間の金融機関や個人が持っている国債を日銀が大量に買い取り、日銀が発行するお金(円)を世の中に大量に流す」というものです。

これまで、長期金利の指標として「10年もの国債」の金利を0%にするよう国債の買い付けを行い、これに連動して世の中の金利を低く抑えることで、企業や家計がお金を借りて設備投資等を行いやすくするとともに(※)、世の中にお金を流して2%のマイルドなインフレを作ることで、「価格の上昇→企業の売り上げ増→給料増→消費拡大→売り上げ増…」といった好循環を作ろうとしました。

しかしながら、黒田総裁の任期中に、時の政権が消費税率を5%→8%→10%へと2度も増税して実体経済が大きく冷え込み、将来の先行き見通しが暗くなってしまいました。

このことから、日銀の大規模緩和策も虚しく、景気の好循環は生まれませんでした。

今は、原材料費の高騰などの影響で、給料アップ・好景気には必ずしもつながらない物価高が世の中を直撃しています。

結果として、日銀が目指していた「給料アップを伴う好景気を作る」目標は今もなお果たせていません。

(※)そのほか日銀は、民間銀行が日銀に預けている預金の一部にマイナス金利を適用する「マイナス金利政策」を実施してきましたが、幸福実現党は、同政策は資本主義の精神に反するとして、反対してきました。(幸福実現党声明「日銀のマイナス金利導入を受けて(2016年1月30日)」「日銀の『総括的な検証』を受けて(党声明)(2016年9月22日)」参照)

◆「出口戦略」論も主張されるようになってきた

日本が物価高に喘いできた原因の一つが、円安・ドル高基調です。

米国は日本以上の激しいインフレに対応するため、金利を引き上げる政策を実施しました。日銀が長期金利の目標を「ゼロ金利」に据え続ける中で、米国は金利を引き上げたことで、投資家による円を売ってドルを買う動きが強くなり、これが円安・ドル高を招きました。

円安は日本にとって輸入物価の高騰をもたらし、これが物価高を招きました。このことから、日本も米国などの金融政策に歩調を合わせて、ゼロ金利政策を解除する「出口戦略」を採るべきとの主張も聞こえるようになってきました。

そもそも、ゼロ金利政策は不況時の特効薬としては意味を持ちますが、長期にわたって継続させると、「資本を蓄積してそれをさらに価値を生むものに投下し、経済の善の循環を生む」という資本主義の精神を失わせ、長い目で見て日本経済の停滞を生む要素となります。

さらに言えば、国債を吸収する反面、お金を世の中に流すことで、今よりも深刻なインフレになる可能性を高めるなど、黒田バズーカには様々な副作用があるわけです。

◆「出口戦略」は採りうるのか

政府は歳出が税収を大幅に上回る状況を続けてきました。無論、その差額は国債を発行することで充てられます。そして、この国債を日銀が買い続けた結果、総国債額のうち50.3%に当たる534兆円もの国債を保有するまでに至っています(2022年9月末時点)。

バラマキによる政府の国債発行とそれを日銀が吸収していくという構図は、大きな弊害を生んでいます。それは端的に言えば、金融政策の自由性を失わせることです。

日銀が今の構図のままで利上げに踏み切れば、政府にとって巨額の国債利払い費が発生して、政府の財政を圧迫することになります。

国債には償還期間が短期のものから長期のものまでありますが、仮に短長期問わず、また、新規に発行する国債とともにこれまでに発行してきた国債が新しい金利の水準で借り換えられ、全ての国債の金利が仮に1%になれば、毎年12兆円、金利が2%になれば、24兆円もの国債償還費が政府に課せられることになります。

このように利払い費が増えれば、借金の利払いのためにまた借金をこしらえるという、借金地獄に陥ることになってしまうのです。

「出口戦略」を急いで破綻に向かうのは政府だけではありません。日銀や民間金融機関も「あの世行き」になってしまうのです。

そして、国債の金利が上がるということは、国債の価格が下がることと同じ意味をなします。

国債を保有しているのは、日銀(50.3%)や保険会社(19.3%)、銀行(13.8%)などです。

国債の価格が下がれば、これら金融機関にとってのバランスシート上の「資産」の額が目減りして「負債」超過となって経営危機に陥ってしまうということです。

民間金融機関はもとより、日銀まで破綻するという日本経済にとって巨大な金融危機が発生する危険性を有しているのです。

◆「減量」なくして「出口」なし

そもそも、政府が借金を増やし続ければ、借金が返せなくなる事態、つまりデフォルトに陥ることになりかねません。

あるいは、デフォルトを避けるために、日銀が国債を引き受けたとしてもインフレが悪化するため、何れにしても広い意味での「国家破綻」は避けられなくなります。

国債の価値の裏付けとなるのは、人々の信用に他なりません。「日本政府の破綻は近い」と見られることは、国債の信用が失われることを意味し、国債は一気に手放されることにつながります。

そうなれば、国債価格が大暴落して、金利も急騰し、日本経済は「クラッシュ」することになります。

「信用」の一つの指標となるのが、欧米投資会社による格付けです。例えば、米国の格付け機関ムーディーズは今、日本の国債の格付けをA1とするなど、どの機関も日本国債を「リスク資産」と評価する一歩手前のところに位置づけています。

近く、一ランク格下げされるのではないかとの見方も出てきており、もし、実際に格下げされれば、民間金融機関は信用度の下がった金融商品は手放すことになるでしょう。

そうすれば、国債の金利高騰、価格暴落という状況が起こり、日本政府や日銀・金融機関は経営危機に陥ることになります。

何れにしても、「日本政府が借金を作って、これを日銀が買ってその場をしのぐ」という状況は、いずれかのタイミングで国債の「信用」を失わせるため、継続するのは現実的ではありません。

金利を徹底的に抑え込むという、危機時の金融政策を正常化に戻すためには、まずもって、徹底的な歳出改革が条件になることは明白です。減量政策で健全財政を実現させ、緩やかに出口戦略を実施することが、妥当と言えます。

岸田文雄政権は、バラマキ・増税路線を続けていますが、これは「経済見通しを暗くしてゼロ金利からの脱却に耐える環境を不可能にする」という意味と、「国債をさらに乱発して、利上げで国債償還額が爆増することになる」という意味合いから、日銀の出口戦略の可能性を失わせる方向にあると言わざるをえません。

以上のように、日銀は難しい局面に立たされているわけですが、植田氏が新総裁に就任されるのを機に、日本経済が浮上することを心より願います。

西邑拓真

執筆者:西邑拓真

政調会成長戦略部会

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