電力危機列島ニッポン、原発再稼働が進まない3つの理由【前編】
幸福実現党党首 釈量子
◆岸田首相が「原発稼働」方針
先日、岸田首相が記者会見において「原発最大9基を稼働する」という方針を発表しました。これで、国内消費電力の約1割の電力を確保するとしています。
当初は、ネットなどで「岸田さん、ようやく決意してくれた」という喜びの声があがり、東電の株価も上がったものの、すでに稼働する予定の原発について触れただけだということが分かりました。
電気事業連合会の池辺和弘会長は「(原発を)きちんと冬に運転できるように、工事や検査に取り組みなさいという叱咤激励だと思う」とは言うものの、岸田首相の「指示」だけでは、冬の電力逼迫解消にはつながらないのというのが実態です。
◆予想される電力逼迫
昨今、石油、石炭、液化天然ガス(LNG)などの燃料の調達が世界的に厳しくなり、ウクライナ危機以降はエネルギー危機に拍車がかかっています。
特に、電力については、経済産業省が令和4年度の夏季・冬季について非常に厳しい需給の見通しを公表しています。
供給予備率(電力需要のピークに対し、供給力にどの程度の余裕があるかを示す指標) で、この冬については、令和5年1、2月には全国7エリアで安定供給に最低限必要な予備率3%を確保できず、特に東京エリアでは1月で1.5%、2月で1.6%と、極めて厳しい見通しです。
真冬に電力が使えなければ、多くの生命が失われる事態にもなりかねません。(※1)
(※1)電力需給対策について 2022年 6月30日 資源エネルギー庁
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/051_03_01.pdf
◆今後の予定を説明しただけの岸田首相の記者会見
そこで岸田首相の「エネルギーの安定供給のために、最大で9基の原発の稼働を経済産業相に指示した」という発表に期待が集まったわけです。
しかし、実態は、すでに、10基は原子力規制委員会の安全審査に合格し、地元の合意を経て、一度は再稼働を済ませています。
10基のうち、先日発電を再開した大飯原発4号機を含め、6基が運転中です。
運転中の九州電力・玄海原発4号機については、9月から来年2月まで定期検査で止まる予定です。
現在止まっている4基(関西電力・美浜原発3号機、高浜原発3,4号機、九州電力・玄海原発3号機)については、定期検査が済めば、7月下旬から順次、運転が再開される予定となっています。
つまり、岸田首相はもともと予定されていた9基の再稼働を「しっかりやれ」と指示したのであって、別の原発を新たに再稼働するという指示ではなかったのです。
尚、高浜原発3号機では、検査中にトラブルが発生して一時的な停止を余儀なくされています。
他の原発の運転についても、実際にスケジュール通り進むかどうかは不透明ですが、それでも、9基が同時に稼働するのは、来年1月下旬〜2月中旬のわずか一か月にも満たない期間となっています。
だから「最大」9基と言っているのです。
そして、ここからが大変大事な部分ですが、先般発表された電力の需給見通しは、この9基が再稼働することが織り込み済みになっているために、今回の首相の指示では、電気事業連合会の池辺会長も述べたとおり「安定供給の改善にはならない」ということが重要です。
例えば、柏崎刈羽原発が稼働すれば東電は5%以上の予備率にたしますのでこれ安定供給には届きます。しかし、これができないわけです。
◆原発はなぜ再稼働できないのか
東日本大震災が起こる前の2010年には、全国に54基の原子力発電所があり、日本は米国、フランスに次ぐ世界第3位の原発大国でした。
そして今、「廃炉が決まっていない発電所だけで30基近く、3000万キロワット分くらいあるにもかかわらず、電気が足りないと言って喘いでいる国は他にない」と言われる状況です。
福島第一原発以外は設備が損壊しているわけではないため、技術的には運転継続が可能ですが、全国の原子力発電所の再稼働が遅々として進んでおりません。
ではなぜ原発は再稼働できないのでしょうか。
(後編につづく)