【連載第1回】「温室効果ガス46%削減」 撤回しなければ日本が壊滅する
http://hrp-newsfile.jp/2021/4099/
幸福実現党 政務調査会エネルギー部会
◆「46%削減」に根拠なし
4月に米バイデン政権の主催で行われた気候変動サミットで、菅義偉首相は温室効果ガス(GHG)削減目標を大幅に強化し、「2030年度に2013年度比46%削減」とする方針を打ち出しました(※1)。
現行のパリ協定における日本の削減目標(同26%削減)を20%も積み増すもので、先進国が相次いで削減目標を大幅に引き上げ、中国に目標強化を迫る米国の狙いがあったといわれています。
しかし、結果は米国の完敗。中国からは一切の妥協を引き出すことができず、中国は2030年までGHGを増やし続ける目標を変えていません。
菅首相が46%削減を打ち出した背景には小泉進次郎環境大臣の影響も取り沙汰されていますが、TBS系のニュース番組に出演した小泉氏は、46%が「おぼろげながら浮かんできた」と発言し、算出根拠が不明確だと批判されました。
なかでも電力中央研究所の論文(※2)では、どのように数字を積み上げても「46%削減」の達成は不可能であることを指摘しています。
◆「おぼろげな数字」が必達目標にすり替わる日本
米国がバイデン政権に代わった今、百歩譲って「46%削減」の表明は外交上の理由でやむを得なかったとしても、パリ協定では目標の達成自体に法的義務はないため、自国の経済や安全保障を犠牲にしてまで達成する必要はないのです。
強かな外交戦術を持つ米国やEUは、高い削減目標を掲げて気候変動問題へのコミットを演出しても、実際にそれを達成するための十分な政策はありません。
特に米国では、議会の半分を占める共和党が気候危機説は「フェイク」だと考えており、目標を達成するための法律を通すことは非常に難しく、政権交代すれば目標は白紙になるため、日本が米国に合わせても「梯子を外される」ことはほぼ確実です(※3)。
しかし、憲法前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」と定める日本は、お人好しでとても生真面目な国ですから、菅首相が「46%削減」と表明したからには徹底してこれを実現しようと努力し、目標を確実に達成するための緻密な国内政策(法律や規制)を策定します。
この生真面目さが日本の経済や安全保障を骨まで蝕み、国民を苦しめるとしたら、どうでしょうか。
◆現行の「26%削減」目標の根拠
まず、現行の日本の削減目標「2030年度に2013年度比26%減」について見ていきましょう。
2013年度の日本のGHG総排出量(CO2換算)は約14.08億トンで、これを約10.42億トンまで、26%減らすことが目標です。
しかし、総排出量にはエネルギーの使用に伴って排出されるCO2以外からのGHG排出や、森林による吸収なども含まれているため、このうち2013年度の「エネルギー起源CO2排出量」約12.35億トンを、2030年度に約9.27億トンに、25%減らすことが実質的な目標です。
エネルギー起源CO2は「電力由来CO2」と「非電力由来CO2」に分かれ、2030年度にはそれぞれ約3.60億トン、約5.67億トンに減らすことになっています。(※4)
これらの目標を達成するため、政府は2015年に「長期エネルギー需給見通し」(※5)を発表し、この見通しをもとにさまざまな規制を導入しています。
例えば、電力由来CO2の削減は電源構成によって実現し、原発と再生可能エネルギーを合わせたゼロエミッション電源比率を44%、LNG・石炭・石油を合わせた火力発電比率を56%とすること、特に火力発電は石炭を26%に抑制し、LNGを27%にすることなどが決まっています。
また、非電力由来CO2については、徹底した省エネを進め、エネルギー使用の総量を抑制することによって実現します。
◆現行の削減目標は日本経済の停滞で達成できる?
では、これらの政策や規制によって、本当にエネルギー起源CO2は25%も減り、日本の削減目標を達成できるのでしょうか。
実は、この目標を決定した2015年当時は、2030年度まで原発の再稼働が順調に進まず、再エネの大量導入にも莫大なコストがかかるため、削減目標の達成は非常に厳しいと言われていました。しかし、現在では「26%削減」の目標は達成できてしまうのではないかとの分析もあります。
電力中央研究所の試算(※6)によれば、2030年度のエネルギー起源CO2排出量は約8.74億トン(約29%減)まで減り、現行の「26%削減」目標を達成できる可能性があると分析しています。
そのカラクリは以下のようなものです。
一つは、政府の強力な支援により、太陽光発電が当初想定の64GWから既に大幅に増加し、2030年には約88GWに達する見通しであることです(※7)。
これには、民主党政権が導入した再エネ固定価格買取制度(FIT)による莫大な国民負担(2019年度の賦課金総額は2.4兆円で、2030年度には4.5兆円に達するとの予測もある)によって、おもに中国製の太陽光パネルを大量に輸入しているという、大きな代償があることを忘れてはいけません。
また、より本質的な原因は、現行の長期エネルギー需給見通しでは、内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」(2015年2月)に従って、実質経済成長率を1.7%と想定していたところ、コロナ以前からの日本経済の停滞とコロナによるマイナス成長、コロナ後の低成長により、2030年度までの経済成長率が平均0.5%程度に落ち込む見通しであることです。
自民党政権の経済政策では経済成長は期待できず、それによってCO2排出量が減少することは当然といえましょう。
ただし、上記の分析では原発の再稼働は比較的順調に進むことを想定しており、現在のように原発の再稼働が遅々として進まない状況では、やはり「26%削減」は難しいと考えられます。
次回は、7月中旬に審議会で素案を提示、8月に政府原案を決定し、10月末の閣議決定を目指して検討を進めているとされる(※8)、「46%削減」に向けた恐るべきエネルギー政策についてお伝えします。
参考
※1 地球温暖化対策推進本部 2021年4月22日
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/actions/202104/22ondanka.html
※2 「2030年温室効果ガス46%削減目標の達成は可能か?」 電力中央研究所 間瀬貴之、朝野賢司、永井雄宇 2021年5月14日
https://criepi.denken.or.jp/jp/serc/discussion/21001.html
※3 『「脱炭素」は嘘だらけ』 杉山大志 産経新聞出版 ISBN978-4-8191-1399-1
※4 地球温暖化対策計画 2016年5月13日閣議決定
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/keikaku/taisaku.html
※5 長期エネルギー需給見通し関連資料 2015年7月 資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/pdf/report_02.pdf
※6 「2030年度までの日本経済・産業・エネルギー需給構造の検討」 電力中央研究所 間瀬貴之、朝野賢司、永井雄宇、星野優子 2021年3月
https://criepi.denken.or.jp/jp/serc/source/Y20506.html
※7 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第40回会合)資料2 「2030年に向けたエネルギー政策の在り方」 2021年4月13日 資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2021/040/040_005.pdf
執筆者:webstaff