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エネルギーは日本の安全保障と経済の基盤(8)民間による原子力事業は困難に

http://hrp-newsfile.jp/2019/3578/

幸福実現党 政務調査会エネルギー部会

◆原子力発電は「電力システム改革」と相性が悪い

現政権が進める「電力システム改革」により、2016年度から小売全面自由化が施行され、2020年度からの発送電分離に向けて準備が進められています。しかし、「電力システム改革」によって、民間による原子力事業が難しくなり、特に原発の新増設がほぼ不可能となる可能性が指摘されています(※1、※2)。

原発は火力発電と異なり発電コストに占める燃料費の割合が低く(※3)、ひとたび巨額の設備投資をすれば、少ない限界費用(※4)で長期間発電できる特長があります。この点は再生可能エネルギーと似ていますが、原発の建設には数千億円を要するため、低金利の長期資金を調達し、数十年かけて安定的な電気料金収入を得て設備投資を回収することが事業の前提になる点が、小規模な再エネとは異なります。

電力会社はこれまで、発電と送電の設備の建設時期をずらし、キャッシュフローを融通することで巨額の長期投資を行ってきましたが、発送電分離により、これが不可能となります。

また、小売全面自由化で、発電会社と小売会社が長期間一定の価格で電気の売買を確約することは難しくなったため、低金利の長期資金を調達することが困難になります。

電力会社の長期資金の一つであった一般担保付社債(※5)も、対等な競争条件(イコールフッティング)の観点から2020年度に原則廃止され、2025年度には経過措置も含めて全廃される予定です。

◆政治の影響で原子力事業の予見性が低下

日本の原子力事業は「国策民営」で、政府が制度をつくり事業環境を整備し、民間が営利事業を行うことによって、民間の効率性を生かした公益事業を展開してきました。

しかし、福島事故の際には、民主党(当時)政権の菅直人・元首相が自ら事故現場に介入、政府が事故処理の前面に立つことを避けて「東京電力の第一義的責任」を強調し(※6)、住民に対しても避難指示の混乱を招くなど、事故対応コストは政治の失敗で大きく膨らむことが判明しました。

例えば、民主党(当時)の細野豪志氏が政治主導で除染目標を「年間1ミリシーベルト」と決めたことにより、除染費用の総額は6兆円(※7)となり、民主党(当時)の失政で数兆円増加した可能性が指摘されています(※8)。

また、福島事故後には、原子力規制委員会による既設の原発の新規制基準への適合性審査が行われていますが、審査に合格するには莫大な工事費と長期間を要し、その間は原発が運転できないばかりか、合格しても運転期間が40年に制限され、地元の同意が得られなければ、さらに運転期間は短縮してしまいます。

原子力事業は制度変更や政治の影響により、当初は想定されなかった大きな不確実性に直面しています。

◆政府のリーダーシップで原発の新増設を推進

このような事業環境の変化により、政府の関与や制度的措置がなければ、やがて民間企業は原子力事業から撤退し、特に原発の新増設を民間に期待することは困難になると考えられます。

現在、日本には廃炉を決めていない既設の原発が約30基あります。これらは新規制基準に対応するために安全対策工事を行ったとしても、運転を継続すれば一定の収益性は見込めます。

しかし、このままでは新増設はリスクが大きく、民間が投資を決めるだけの経済合理性がありません。

幸福実現党は、「電力システム改革」や再エネの大量導入に伴い、原子力事業の環境が大きく変化する中でも、政府の強力なリーダーシップによって原子力利用を堅持し、原発の新増設を進めることを訴えています。

その具体的な方法については、次回に述べたいと思います。

◎エネルギー部会では、ご意見・ご質問をお待ちしています。
ご質問のある方は、energypolicy2019.hrpprc@gmail.comまでご連絡ください。ご質問にはできるだけ本欄でお答えします。

参考

※1 「原発と電力自由化が両立するには」 日本経済新聞 2016年10月3日
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO07912890T01C16A0PE8000/
※2 『エネルギー産業の2050年 Utility 3.0へのゲームチェンジ』 竹内純子ほか 日本経済新聞出版社 ISBN978-4-532-32170-3
※3 「長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告」 資源エネルギー庁 2015年5月
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/007/pdf/007_05.pdf
これによると、原発の1kWhあたりの燃料費(核燃料サイクル費用)は1.5円で、発電コスト(10.1円~)の15%程度。
※4 限界費用: ここでは、追加的に1kWhの電気を発電するためのコスト。
※5 一般担保付社債: 発行会社の全財産によって他の債権者よりも優先して弁済を受けられる権利がついた社債。財投機関債、電力債、NTT債など、特別法に基づいて発行される。
※6 「政府の第一義的責任のなかでの東京電力の責任」 森本紀行 2012年2月9日
https://www.fromhc.com/column/2012/02/post-167.html
※7 「原子力損害賠償・廃炉等支援機構 説明資料」 原子力損害賠償・廃炉等支援機構 2019年4月 
http://www.ndf.go.jp/capital/ir/kiko_ir.pdf
※8 「除染『年1mSv』は民主党政権の大失策だ」 GEPR  2016年2月15日
http://www.gepr.org/ja/contents/20160215-03/

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執筆者:webstaff

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