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年金支給開始年齢「65歳」はいつまで続く?

http://hrp-newsfile.jp/2019/3490/

HS政経塾スタッフ 遠藤明成

◆2019年には年金の「財政検証」が行われる

今年の夏には「100年安心」の年金プランを保障するという名目で、5年に1度の「財政検証」が行われます。

具体的には、年金給付が会社員世帯の平均賃金の半分以下にならないように給付額を調整するのですが、この作業は、過去、2004年、09年、14年にも行われてきました。

国民の多くは年金に関心を持っているので、これは、参院選のあたりから、クローズアップされるはずです。

◆保険料だけで維持できない年金財政

今の年金制度は、保険料だけでは成り立たず、国費を用いて運営されています。

2017年の国民年金と厚生年金の歳入は52兆円ですが、そのうち保険料は32兆円です。

国の財政からお金を出して、運営を続けているのです。

(※運用損益や積立金の取崩し、解散基金への徴収金等があるので、必ずしも「給付額-保険料=国費」ではない)

そのため、将来に積立金が枯渇することを恐れ、給付を調整する「マクロ経済スライド」という仕組みが2004年に導入されました。

◆2019年の年金伸び率が0.1%となった理由

2019年には、年金伸び率が0.1%になったことが注目されました。これは、マクロ経済スライドが行われた結果です。

この制度は、賃金や物価を勘案した伸び率から調整率を引いて年金の給付額を決めます。

例えば、2019年は伸び率0.6%から調整率0.5%が引かれ、給付金は0.1%増えました。

(※この調整率は二年分。18年分が0.3%、19年分が0.2%。法改正で前年分の加算が可能になった)

しかし、伸び率から調整率を引くとマイナスになる時には、前年と同額の給付金が出されます(伸び率ゼロ)。

また、賃金や物価が下がった場合は、その下落率と同じ割合で年金が減ります。

この場合、下落率に調整率は足しません。

この制度は「自動調整制度」といわれますが、伸び率がプラスの時にだけ働くので、実際は、導入以後も給付金はあまり減っていません。

◆年金保険料 さらなる増額がやってくる?

厚生労働白書(平成29年度)を見ると、2004年から17年までの間、各人の年金支給額を減らしても、保険料が延々と上がり続けています。

その現状は以下の通りです。

【老齢基礎年金】(40年納付満額】

満額で計算すると、1月あたりの基礎年金の受給額は13年間で2%(1267円)しか減っていません。

☆66208円(2004年)⇒64941円(2017年)

【夫婦の基礎年金+夫の厚生年金】

また、標準的なモデル世帯の年金受給額(月あたり)は13年間で5%(12022円)の減額でした。

☆233299円(2004年)⇒221277円(2017年)

しかし、年金の保険料は、もっと大きく上がっています。

2004年に月13300円だった国民年金の保険料は、2017年に16900円に達しました。

また、給料にかかる厚生年金の保険料率は、同じ期間で、13.9%(04年)から上限の18.3%(17年)にまで上がっています。

現在、保険料は上限に達し、現役世代は一息ついています。

しかし、これからも少子高齢化は進むと、さらに保険料が上がる恐れがあります。

選挙で高齢者票は捨てがたく、支持率低下を恐れる安倍政権が給付を減らすのは難しいからです。

◆現役世代の負担をこれ以上、増やせるのか

政治家は年金の大盤振る舞いを続けてきましたが、今の支給額を維持するのは難しいことです。

少子高齢化によって、現役世代の負担はどんどん増えているからです。

2020年には、1人の高齢者を2人の現役世代で支えますが、こんな数字は、年金ができた頃には「想定外」でした。

国民年金法ができた頃には、1人の高齢者を11人の現役世代で支えていたのです(※1960年。国民年金法は59年成立、61年施行)。

この情勢の中で現役世代の負担を延々と増やし続けることはできません。

現役世代には、子育てや新しい仕事の創造といった、未来のためのお金も必要だからです。

◆年金支給開始年齢の引き上げは自然な流れ

そのため、年金改革の議論の中では「年金給付の開始年齢を引き上げるべきだ」という主張が出てきます。

財務省が68歳への引上げ案を出したこともありましたし、70歳への引上げを提言する識者も少なくありません。

世界から見ても、日本は平均寿命の長い国だからです。

この是非を考える際には、年金ができた頃に、少子高齢化を想定していたかどうかを振り返る必要があります。

1960年の日本の平均寿命は、男性が65歳で、女性が70歳でした。

2016年の平均寿命は男性が81歳、女性が87歳なので、56年で16歳以上、伸びています。

さらに、出生率は「2」(1960年)から「1.43」(2017年)にまで下がっています。

これだけ世相が変われば、支給開始年齢が引上げられるのは、仕方のないことです。

負担と給付のバランスをとるために、まずは68歳、さらには70歳にまで上げざるをえないのではないでしょうか。

【参考】
・厚生労働省年金局「厚生年金・国民年金の平成29年度収支決算の概要」(2018/8/10)
・日経電子版「年金額0.1%増に抑制、マクロ経済スライド発動 19年度」(2019/1/18)
・日本年金機構HP「マクロ経済スライド」
・厚生労働省『平成29年版厚生労働白書 資料編』
・内閣府『平成30年版高齢社会白書』
・内閣府『平成30年版少子化対策白書』

遠藤 明成

執筆者:遠藤 明成

HS政経塾

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