香港の議員資格剥奪事件を受けて ―革命か、隷属か―
幸福実現党・兵庫県本部 副代表 みなと侑子
◆改めて骨抜きが証明された香港の自治
11月17日、香港の高裁が中国共産党全人代(全国人民代表)常務委員会の意向を追認し、香港で新たに誕生した議員2名の資格を剥奪する決定を下しました。
2015年9月7日の立法議員選挙において新たに生まれた新興の反中議員6名のうちの、新党「青年新政」の30歳と25歳の議員のことです。
問題となったのは、議員就任後の初の立法会で行われた宣誓式です。
10月12日の宣誓式では、香港の在り方を定めた香港基本法を支持することや、中国と香港に忠誠を尽くすことが盛り込まれた定型文を読み上げることになっていました。
ここで2名は議員就任宣誓の際に、「China」の部分を広東語で「支那」と発音、定型文にはない「香港民族の利益を誠実に守る」などの文言を挿入したのです。
また議場に「HONG KONG IS NOT CHINA」との垂れ幕を掲げました。
11月7日、香港基本法104条「立法会議員が就任する際に『香港は中国の不可分の領土』と定める基本法の順守を宣誓しなければならない」と規定されていることを根拠に、香港基本法の解釈権を持つ全人代常務委員会が談話を発表。
その中で、2名の議員に対し「形式も内容も宣誓の要求に違反し、一国二制度への重大な挑戦だ」と強く批判したのです。
議員は「中国の一部としての香港」に忠誠を尽くすことを宣言しなければならないとし、規定通りの宣誓をしない場合には公職資格を失うと決定。
2名は「香港国」に忠誠を誓ったと判断され、宣誓が無効とされました。また「香港独立」を宣伝する人は参政権も議員資格もなく、法的責任を追及されるとしたのです。
全人代常務委員会が香港基本法の解釈を示すのは五度目。香港司法に介入した、香港人の民意を踏みにじったとして、民主派がデモを行うなど大きな問題となっています。
◆親中議員により阻止されていた、再宣誓
実は宣誓式が行われた日、彼ら以外にも宣誓文の漏れや不適切な追加を行ったとして、計5人が再宣誓の必要があると判断されていたのです。そのため、再度宣誓式が行われていました。
5名のうち2名が再宣誓を終えたところで、「青年新政」の議員に順番が回りました。すると親中派の議員たちが一斉に席を立ち退場したのです。それによって議会は定数不足により開催を中止。上記2名を含む3名の再宣誓は完了しなかったのです。
香港の新議会宣誓式での問題は、親中派議員により再宣誓が阻止されたのです。
◆「China」は「支那」ではないのか
なぜ、彼らには再宣誓の機会が与えられなかったのでしょうか。それは「青年新政」の議員たちが謝罪を行わなかったためだ、と親中議員は述懐します。
彼らの態度に対し、大学教授や歴史博物館館長など有識者200名が連名で署名した声明文を発表しました。
声明文では「支那」の表現を厳しく批判し、問題となった議員を「思い上がった無知な若者」とし、公開謝罪を求めたのです。
しかし、彼らは批判が相次ぐ中でも謝罪を拒否し、自分たちの信念を貫きとおしました。そのため、彼らには再宣誓の機会が与えられなかったわけです。
ところで「China」を「支那」と呼ぶことはおかしなことなのでしょうか。
結論から言えば、おかしなことでも何でもない。「支那」は世界共通語です。
かの地を「中国」と呼ぶことこそ、歴史や言葉の意味を知れば知るほどに問題があります。ただこの件については、別の機会に詳しくお伝えしたいと思います。
◆中国共産党が手を焼く『本土派』議員たち
注目すべきは彼らの立ち位置です。
これまで香港に存在していたのは、中国の民主化を望み、一国二制度の現状維持を望む「民主派」であるが、この考えとは一線を画すものです。
香港にとって、香港こそが『本土』であり、香港は中国の一部ではないと主張し、香港の未来のためには武力で闘うことをも辞さないという『本土派』です。
『本土派』は、1000名の逮捕者を出しながらも120万人を動員した雨傘革命以降、若者を中心に大きく支持が広がっている派閥です。
正式な選挙によって選ばれた『本土派』の議員は、明らかな民意の変化の象徴であり、中国共産党が望まない香港の未来を予測させます。
中国共産党とその意向を受ける香港行政長官にとって、真っ向から歯向かってくる煩わしい存在以外の何物でもないのです。
◆香港を守るのは誰であり、何のためなのか
「青年新政」の2名の議員は、毎日のようにTVに出演し、「中英共同声明」で香港は独立した司法を有すると明記されていること、全人代の介入が同声明違反であることを主張しています。
さらに、2人は処分を不服として上訴するとし、全人代が香港基本法104条の解釈を採用したことが「中英共同声明」に反するとして、英国に書簡を送り支援を求めていますが、英国からの返事はまだ明らかになっていません。
いまの英国であれば、単独で中国共産党に逆らってまで、香港のために動くことはないでしょう。EU脱退に向けての国内の手続きや、国内世論をまとめることで精一杯だと思われるからです。
しかし、アメリカのドナルド・トランプ新大統領は違うでしょう。
台湾を国際社会から追いやり、中国共産党をのさばらせた「一つの中国」論に配慮し続けたアメリカ大統領の37年来の慣習を破り、台湾の蔡英文総統との電話会談を行った彼ならば、香港のために行動を起こすはずです。
そして中国共産党が自国こそが世界の中心(中国)であり、周りの異民族を臣下と考え、自国の領土を増やしつつ、朝貢・服従を求める「中華思想」や「覇権主義」に対し、意見するはずである。香港が中国共産党の支配下に置かれた場合、繰り返されるのはチベットやウイグルでの悲劇です。
そして次は台湾がその標的となるでしょう。
2017年3月には、5年に一度の香港の行政長官選挙が行われます。そこでまた、「本土派」「民主派」は香港のために立ち上がり、「親中派」や「中国共産党」と闘うでしょう。革命を選ぶか、隷属を選ぶか、選択の日は近づいています。
私たちはトランプ氏に続き、アジア平和が実現できる防衛力と、自分たちの考えを堂々と述べる勇気、そして世界への発信力を持たねばなりません。
香港の声を無視し、黙殺する日本人になった場合、「中華思想」の犠牲者となるのは、未来の私たち自身であるということを忘れてはならないのです。