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起業大国・日本の挑戦――シリコンバレーを超えるベンチャー創造国家へ

文/HS政経塾二期生 鈴木純一郎

◆日本復活の鍵は“ベンチャースピリット”

日本は90年代から「失われた20年」とも言われる長きにわたる経済低迷に襲われました。慢性的なデフレ状態の下、経済成長のない世界というものを経験したのです。

現在、アベノミクスという形でこの失われた20年にピリオドを打つ試みがなされていますが、今年来年と続く消費増税の悪影響が懸念されるなど、まだまだその行き先には不透明感が漂っています。

日本がこれから経済的に復活し、世界を牽引できる未来産業国家になるためには、大胆な金融緩和や財政政策などのマクロ政策が必要なことは言わずもがなですが、それ以上に大切なことは、日本人の内に眠るベンチャースピリット・起業家精神を呼び覚まし、新しい価値を創造する起業家を数多く輩出することではないでしょうか。

◆シリコンバレー成功の秘密―スタンフォード大学

90年代、バブル崩壊に沈んでいた日本とは対照的に、当時のアメリカは80年代の経済的苦境を脱出して空前の繁栄を謳歌していました。

その大きな原動力となったのが、シリコンバレーに代表される地域から生まれた新進気鋭の起業家群、ベンチャー企業群の台頭です。

Google、Yahoo、マイクロソフト、インテルなど世界有数の企業の活躍が90年代以降のアメリカ経済の成長を牽引しました。90年代以降、日本における会社の廃業率は開業率を上回り続けていますが、その一方でアメリカからは次々と野心的な起業家が誕生したのです。

シリコンバレーはアメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコ南部のサンタクララ郡を中心とした地域の俗称です。なぜこの地域が上で挙げたような世界企業を生み出し、今も“イノベーションの聖地”と言われているのでしょうか。

軍需の存在、頭脳移民の力、フリーウェイなどの発達した交通インフラの存在など数多くの理由がありますが、ここで取り上げたいのは、シリコンバレーの中心に存在するスタンフォード大学の役割です。

このスタンフォード大学から数多くの優秀な起業家が輩出され、この大学の周辺地域に産業が集積し、シリコンバレーが形成されてきたという歴史があるからです。ヒューレット・パッカード、YahooやGoogle、ナイキなどの創始者もスタンフォード大学出身者で、皆在学中に起業しています。

アメリカには、シリコンバレー以外にも様々な産業クラスター(産業集積地)が存在しますが、その中心には、必ずスタンフォード大学のような「知識と技術と人材の創造の主体としての大学」の存在があります。

「新たな知と技術シーズ、優秀な起業家の創造の供給拠点としての大学が中心となって、その周辺地域に企業・産業が育成されていく」というセオリーがありました。

その下に、大学への研究開発資金の大胆な投下、大学から民間への技術移転の促進、ベンチャー企業育成のためのリスクマネーの供給システム(ベンチャーキャピタルなど)の整備などを行い、産学連携の成功モデルを創りだしたことがアメリカ経済の成功の秘訣でした。

日本においても大学改革こそが産業発展の道であると考えられます。

◆起業大国・日本への道

昨年、安倍首相が打ち出した成長戦略においては、スタートアップを支援する方針が出され、現在5%程度の日本の開業率を英米並みの10%に引き上げることや、ベンチャーキャピタル投資への税制優遇、大学発ベンチャー支援なども打ち出されています。

しかし、開業率に関して言えば、経済成長率(実質GDP成長率)と正の相関関係があることがわかっており、二段階にわたる消費増税によって経済成長率が低下すれば、開業率にも悪影響であると考えられます。

ベンチャーキャピタル投資についても同じで、株式市場が活況を呈していなければ、本当の意味でベンチャー投資にお金は回らないでしょう。

増税ではない正しい金融財政政策でマクロ経済環境を安定的に発展させつつ、日本の大学改革を含めたイノベーション政策、産学官連携を押し進めることが重要です。

そして何より大事なことは、ホリエモン事件に見られるような資本主義精神への攻撃を是とするような風潮を脱却することです。シリコンバレーの成功の最大の理由は、「起業は偉いことであるという信仰」が存在することとも言われています。

新しい雇用と価値を創造し、国家社会を豊かにする起業家を尊敬し応援する価値観を広く共有することこそが、起業大国・日本への道ではないでしょうか。

【参考文献】
『改革の経済学』 若田部昌澄
『産業クラスター政策の展開』 西山太一郎

鈴木 純一郎

執筆者:鈴木 純一郎

HS政経塾2期卒塾生

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