これがホントの攻めの農業だ!(2)――「農業先進国・日本」へ
前回は、日本のコメの国際競争力の確認と、生産数量目標制度を廃止するべきと述べました。
今回は、コメの価格設定、農地集約とコメの品種改良により、コメの国際競争力をつけることを提言致します。
◆市場主導のコメの価格設定を!
市場主導のコメの価格設定に向けて、今月初旬にコメ先物の試験上場の2年延長が決まりました。
従来、農協はコメの値決めに絶対的な影響力を持ってきましたが、先物取引市場を通じ、コメ市場に信頼できる価格指標を置くことで、コメ離れを防ぐことが狙いです。(8/29 日経「コメ卸、全農価格に『ノー』先物に期待」)
今までコメ卸業者は全農による高く、一律的な卸向け価格によって、仕入れ高・販売安の厳しい経営環境に置かれて来ました。
先物取引市場の導入成果は一目瞭然で、今年の6月時点で、全農が示した相対価格は横ばいの16,500円/60kgだったのに対し、先物価格は13,500円/60kgとなりました。
新米入荷直前で、昨年のコメの小売価格が下がる今の時期は、先物取引の指標が大いに役立つといいます。
また、生産コスト削減の目標としても先物取引を活用することができます。
春にコストを見込んで15,000円/60kgで取引し、豊作やコスト削減に成功して12,000円/60kgで出荷できたとしても、春時点の15,000円/60kgで買ってもらえるので、秋の時点で契約するより3,000円の収入増になります。
当然、先物取引にはリスクは伴います。個人が参加するには心細いところがありますが、ここに知識と経験のある経営力、企業の力が求められます。
国内コメ市場に「自由の風」を吹かせることが、コメの国際競争力の向上に繋がるでしょう。
◆農地集約に向けた構造改革を!
日本において、コスト削減の鍵である農地集約が今まで成功しなかった理由は4点あります。
1点目はゾーニング(土地利用計画)政策の甘さです。
簡単に農地を(地価の高い)宅地に転用できるので、資産保有の意味合いで農地を手放さない農家が多く、日本では、意欲のある農業の担い手に対する土地の集積は進んで来ませんでした。その結果、膨大な耕作放棄地が生まれたのです。
2点目は、減反政策をして米価を高く維持し、所得保障を行なっているため、生産コストの高い農家も農業を続けていることが原因です。
3点目は、株式会社の農地取得を阻んでいる「農地法」です。
現場の農家の中にも、「土地を集約し、コストを削減したい」という声はあるものの、法人でも企業でも良いので、誰かに来て取りまとめてもらいたいという声があります。現場も経営力を求めているのです。
4点目は農業収益の向上です。ゾーニングが行われた農地で耕作放棄地が出るのは、収益が上がらないからです。
一定規模以上の主業農家に耕作面積に応じた直接支払い(生産者に直接支払われる補助金)を行い、集約して借りている土地代の支払能力を補強すれば、農地は耕作放棄されずに主業農家に集まり、規模は拡大し、コストが下がります。
直接支払いのメリットは、起業家的な主業農家にターゲットを絞って、補助金政策を実施できることです。
しかし、政治家にとっては、広範な「バラマキ」ができなくなるため、実施されて来ませんでした。ここも安倍政権に攻めて頂きたいところです。
なお、「集約して大規模農業」と聞くと、地平線まで広がる農地と超大型の農業機械を想像しますが、日本の場合、10ha規模の運営が「最も経済的」と言われています。
地域で3~5人集まり、法人化して共同作業し、農業機械も共有することで、大幅なコストダウンを図ることができます。
共同出資により、最新の農業機械を購入する負担も減らせます。しいては、農業機械メーカーにも経済効果が波及します。
◆日本の農業技術でコメの品種改良を!
収穫量を上げるための品種改良を行うべきです。日本のコメはなんと13,000種類以上もあります。
美味しい、寒さに強い、病気に強い、収穫時期が早い、風などで倒れにくく育てやすい、炊いた時の見た目が美しい等の改良は行われましたが、減反制度以降、収穫量を増やすための品種改良は行われて来ませんでした。
品質はそのままで収穫量を増やす品種改良を産官学で進め、品種改良を行った稲は「知的財産」として登録します。
「農業技術先進国・日本」として様々な気候でも育てられる稲を作り出し、土木、灌漑、治水、上下水道、発電技術等のインフラ技術と共に農業技術を輸出することで、発展途上国に自国で食糧を生産する力をつけて頂きたいと思います。
人口増加率と世界のコメの消費量増加率は一致しています。「世界人口100億人時代」の食糧危機が引き起こす、飢餓や貧困による無用な争いを少しでも減らす方向に進めることが必要です。
◆「努力が必ず報われる農業」を!
私は農政を考える上で、「美味しいものを食べて頂きたい」という生産者の方々の思いを自由経済に乗せ、「努力が必ず報われる農業」に向けた環境をつくっていきたいと考えています。
また、コストを削減し、コメが安くなったからと言って、茶碗にご飯粒を残すようなことは絶対にしません。
一粒への感謝の心を子や孫の代へと伝えるのも、「農業先進国・日本」が世界に発信すべき精神文化であると思います。【祈豊穣】(HS政経塾第3期生 横井 基至)