「シリアの悲劇」を終わらせるために
◆G20サミット――シリア攻撃で国際的亀裂
緊迫するシリア情勢が議題となったG20首脳会議は6日、2日間の討議を終え、閉幕しました。(9/6 時事「シリア問題で溝埋まらず=首脳宣言に言及なし-G20閉幕」)
プーチン大統領とオバマ米大統領が6日、会談を行いましたが、アサド政権の化学兵器使用を理由に軍事介入の方針を決めた米国と、国連安保理無視の攻撃は国際法違反だと主張するロシアの溝は埋まらず、国際社会の分裂ぶりが浮き彫りになった形です。
安倍首相は、5日に行われた日米首脳会談において、米国と連携する方針を表明しましたが、中国包囲網や北方領土の問題解決等、日ロ関係を強化していきたい思いもあり、明確な「米国支持」を表明できない「板挟み状態」に陥っています。
◆「シリアの悲劇」
シリアの悲劇は終わることを知りません。シリアの内戦が始まってから、既に2年半以上が経過しています。
人権団体は1日、シリアの内戦で11万人以上が死亡し、そのうち半数以上は民間人で、少なくとも5833人の子どもが含まれていると発表しています。(9/2 ロイター)
国連難民高等弁務官事務所によると、周辺国に脱出したシリア難民の数は200万人に達したと言われており、状況は極めて緊迫化しています。
シリアの内戦は予想以上に長期化しており、内戦による民間人の死者も増え続けている以上、国際社会としても内戦収束に向けた努力を進めるべきです。
そして、内戦で10万人の死者が出ている以上、アサド大統領は潔く身を引き、残された人々が民主的で安定的な政権を打ち立てることを目標とすべきです。
◆なぜ、アメリカはシリアへの軍事介入を躊躇して来たのか?
注目すべきは、なぜ今頃になってアメリカが介入するのかということです。
シリアの反政府運動は、2011年に始まった中東・北アフリカ地域の「アラブの春」を受けて、「民主化要求運動」として始まりました。
当初の反政府運動は今よりも激しくはありませんでしたが、戦争によって事態を解決したい人々が「自由シリア軍」を組織して以降、穏健に政府を変えていこうとする運動は影を潜め、泥沼の内戦へと突入していきました。
アサド大統領はイスラム教シーア派です。シリア国内のシーア派は全人口の12%しかありません。これに対し、反政府勢力は人口の多数(70%)を占めるスンニ派を中心に組織されています。
やがて、シリア内戦に外国勢力による介入が始まり、政府側には最大のシーア派国家イランやレバノンのシーア派系武装組織「ヒズボラ」、ロシア等が支援をし、反体制側には、スンニ派の多いサウジアラビア、カタール、トルコ等が軍事面、財政面で支援するようになりました。
更には、反政府勢力に、スンニ派武装組織であるアルカイダ系「アル=ヌスラ戦線」が加わり、内戦が激化して来たのです。
反政府側が勝利した場合、アルカイダ系の過激派組織が戦後政権に影響力を持つ恐れもあり、アメリカとしては一方的に反政府勢力を支援することができない状況があります。
アメリカ国内においては、安全保障の専門家を中心として、この点から「シリアへの軍事介入を思いとどまるべき」という見解も未だ根強くあります。
オバマ大統領が介入を決断したのは、シリアの隣国イスラエルの暴発を抑えるため、さらにはシリアと深い関わりがあるイランへの対処が念頭にあるものと考えられます。
イスラエルは、米国が化学兵器を使ったとされるシリアに「懲罰」を与えなければ、中東での米国の影響力が弱まり、シリアと連携するイランやヒズボラに対する抑止力が低下し、イスラエルが危機にさらされると訴えて来ました。(9/3 朝日)
アメリカはこうしたことを念頭に、米空母をペルシャ湾と地中海の双方と展開し、イランを抑止しつつ、シリアへの「限定的」軍事介入を進めていくものと見られます(「限定的」とは、アサド政権の転覆ではなく、化学兵器施設への空爆等を意味します)。
◆不透明な「戦後」の政権運営
しかし、このような軍事介入は、泥沼の戦後を招く危険があることも事実です。
実際、リビアにおける「オデッセイの夜明け」作戦以後、反政府勢力はリビア政府軍を圧倒するどころか、かえってリビア政府軍の反攻を招いて窮地に陥り、内戦が逆に長引きました。
更に重要なのは、反政府勢力側に将来の政権運営の「ビジョン」が欠けていることと、勢力自体が一枚岩ではなく、様々な勢力の寄り合い所帯であるということです。
戦後の政権運営の「ビジョン」は、オバマ大統領も、「アサド政権は道を譲るべきだ」と語った安倍首相も持っていないように見えます。
これは「戦後」の政権運営に著しい影響を及ぼします。実際、リビアでも戦後の政権が安定しなかったことで国内の治安が悪化、周辺国に武器が流出するなど混乱が生じています。
このリビアから流出した武器は、日本人が犠牲になったアルジェリアの人質拘束事件にも使用されたと言われています。
また、イラクやエジプトの政治的混乱を見ても、中東における安定的政権の樹立は簡単ではありません。
このことからも、今回の米国の「軍事介入」のみでは、本質的な問題は全く解決しないと言えます。
◆シリアの悲劇を終わらせるために
では、日本はどうするべきなのでしょうか?
日本が貢献できることは、シリアへの軍事介入ではなく、シリアの「戦後復興」です。
日本はアラブ諸国から好意的に見られているという利点を利用し、シリアを混乱なく復興させ、民主的な新政権を軌道に乗せ、平和裡に民主化を実現すべきです。
シリアの人々は内戦によって塗炭の苦しみを味わっています。内戦で亡くなった人もあれば、内戦を逃れるために国を捨てた人も多くいます。
日本は、彼らに一筋の希望を見出す機会を与えることができるように努力すべきです。
具体的には、(1)人心の掌握、(2)暫定政府樹立、(3)憲法の制定、(4)政府機構の再編、(5)教育基盤の確立、(6)経済基盤の確立、(7)自由選挙、(8)諸外国からの財政支援の8つのプロセスを辛抱強く行う必要があります。
特に、(1)人心の掌握と(2)暫定政府樹立については、寄り合い所帯である反政府勢力を纏め上げ、テロリストを放逐する必要があり、そのためには仲介者が必要です。
この仲介者はアメリカには務まりません。何故なら、アメリカなどの欧米各国は、過去の中東政策において嫌われているからです。そのため、仲介は日本が行わなくてはなりません。
シリアは緊迫を増すイスラエルとイランの間に位置します。シリアを民主的かつ安定的に復興させることができれば、両国の緊張緩和に良い影響を及ぼすことができるはずです。
そのためには、新しい宗教の息吹を中東に送ることによって、イスラム教とキリスト教・ユダヤ教の「宗教対立」を解消していくべきです。
この問題を解決できるのは、平和裡に世界宗教の融合を目指している幸福の科学だけであり、世界に向けて「自由からの繁栄」を提言することができる幸福実現党のみであります。(文責・政務調査会長 黒川白雲)