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アメリカの財政議論から日本が学ぶべき教訓

◆ひとつ越えた、アメリカ積年の課題

12月10日、アメリカ財政問題を協議する超党派委員会において、今後2年間(2015年9月末まで)の予算編成の枠組みで合意に至りました。当面は、アメリカ政府機関が閉鎖(シャットダウン)することはなくなりそうです。

<合意案の主なポイント>
・裁量的経費の予算規模を約1兆ドル(103兆円)とすること。
・歳出の強制削減を2年で約600億ドル緩和
・年金の掛け金の引き上げ、連邦職員退職手上げの削減、空港利用料の増額
・社会保障制度や税制の抜本改革は見送り
(12/11朝日夕刊1面・12/12日経朝刊3面を参照)

ちなみに、裁量的経費というのは、教育、農林水産業、軍事など、毎年の予算審議を経て歳出予算法によって割り当てられる経費のことを意味します。裁量的経費と、義務的経費(年金や公的医療保険を含める)でアメリカ連邦予算は構成されています。

今回の合意案は、あくまで裁量的経費についての合意であり、今後膨れ上がる社会保障費を含めた義務的経費(連邦予算の約6割)については、議論されておりません。

したがって今年3月から始まった歳出の強制削減も緩和されるなど、アメリカが本来意図していた財政健全化はなし崩しとなっており、アメリカの財政緊縮路線そのものに疑問を感じざるを得ません。

◆アメリカ財政が抱えるもうひとつの課題:債務上限問題

今回の合意案で、アメリカの財政問題は一安心かといえば、残念ながらそうとは言い切れません。

懸念として残るのが、アメリカ連邦債務の上限問題です。アメリカ連邦政府はお金を借りる限度額として、16.7兆ドルと決められています。債務上限額以上に、国債を発行してお金を借りることができないのです。

既に上限額を超過しており、今は、暫定的に国債の発行が認められている状況ですが、その期限は来年2月7日です。この時までに債務上限幅を、共和党と民主党で合意する必要があります。

ここで合意しなければ、いわゆるテクニカル・デフォルトという、本来は支払う能力はあるにもかかわらず、自国の法律によって、国債を発行できず返済が滞るという状況に陥ってしまうのです。

◆今回の合意案の背景にある、2014年中間選挙

今まで、予算案の議論における、共和党と民主党の対立の溝は大きかったにもかかわらず、なぜ今回合意に至ったのでしょうか。そこには、来年2014年に控える中間選挙が背景に挙げられます。

中間選挙とは、大統領選挙の中間にあたる年に行われる、アメリカ連邦議会選挙のことで、上院議員の3分の1、下院議員の全員を改選されます。民主党と共和党とも、ここで議席を伸ばすことで、議会の主導権を握りたいという思惑があります。

今年10月1日から16日にかけて、政府機関の閉鎖(シャットダウン)と、債務上限の引き上げを決断しないことで、アメリカ国債のデフォルト懸念を金融マーケットに広げたことは、記憶に新しいことですが、これが大きな原因となって、共和党も民主党も支持率を下げました。

アメリカ国民の議会に対する不信の高まりが挙げられます。大手調査会社ギャロップ社によると、アメリカ連邦議会に対するアメリカ国民の支持率はわずか14%と1974年からの同社による調査開始以来、最低水準となっていることからも、議会に対する厳しい風当たりを伺い知ることができます(12/12朝日朝刊12面)。

◆日本が採るべき政策とは?

FRBの予想によると、2014年のアメリカの経済成長率は3%としており、確かに経済成長はしますが、あくまで想定の範囲内です。今後、中間選挙を気にしながら、共和党と民主党は妥協案にとどまり、財政緊縮路線の流れの中、大胆な財政政策を打ち出しにくいことからも、今後数年は大胆な成長戦略をアメリカが表明する可能性は低いと考えられます。

日本が置かれた環境は、2020年の東京オリンピックをひとつの節目とするなど、さらなる好景気を迎えられる環境にあることは間違いありません。しかし、残念ながら、日本はこの状況を活かしているとは言えません。

中小企業の景況感が未だ回復していないのです。中小企業は420万社あり、日本企業の99.7%を占め、従業者数の7割を雇用しています。円安で回復しつつある製造業の景況感を、中小企業と大企業で比較しても、20ポイント近く離れており、中小企業の景況感は回復傾向にありつつもまだマイナスの状況が続いています。

回復途上にもかかわらず、中小企業向けの融資100%保証の対象を2014年から縮小する方針も出されている状況で(2013/12/12 日経朝刊5面)、さらに来年4月1日には、消費税が8%ともなります。原発再稼動が遅れれば、エネルギーコストものしかかります。

さらに、軽減税率を消費税10%に導入することを出して、消費増税10%を既定路線化しようという動きも出てきています。まるで、リハビリ中のけが人に、重い荷物を持たせる政策がおこなわれているのです。

今回のアメリカの事例からも分かるように、緊縮財政路線では経済は持ちません。経済成長による財政健全化へと考え方を切り替える必要があります。今、日本がそれをできれば、他国の成長をも牽引できる可能性も十分にあるのです。

アメリカで起きている財政問題を教訓として、日本は増税ではなく、経済成長路線へ転換する絶好のタイミングを活かすべきです。

(HS政経塾部長 兼 政務本部部長 幸福実現党東京都第9選挙区支部長 吉井としみつ)

吉井 利光

執筆者:吉井 利光

HS政経塾部長(兼)党事務局部長

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