内戦が激化するシリア情勢――日本政府はいかに貢献すべきか
シリアでは、政府軍と反政府軍との間での戦闘が激化しています。
シリアの首都、ダマスカス中心部にある治安機関の建物で7月18日に起きた爆発では、ラジハ国防相やアサド大統領の義理の兄の副国防相ら少なくとも3人が死亡したとされています。
18日にはシリア全土で180人が、19日には60人が死亡したとされており、事態は混迷を深めています。(7/20 NHK「シリア 首都での戦闘続く」)
こうした事態を受け、21日、政府軍が反体制派への攻撃を強め、シリア各地で激しい戦闘が発生しています。(7/22ロイター「シリア第2の都市でも戦闘激化、大統領は軍部隊の首都集結を指示か」)
しかし、日本政府や日本のマスコミはシリア問題に対して、あまりにも無関心です。
同国が内戦に至った原因を深く追及しておらず、政権側はイスラム教アラウィ派、反政権側はイスラム教スンニ派というステレオタイプな宗派間対立として見る向きもあります。
しかし、シリア問題の本質は、単なるイスラム教の「宗派間対立」ではなく、市民が「独裁政権からの自由」を求めて行動を起こしていることにあります。
つまり、イスラム教を信仰している人々も、人類普遍の真理である「自由」に目覚めつつあることを意味しているのです。
現在、シリア問題に取り組んでいる国連は、活動することのできない停戦監視団を送り、無意味に安全保障理事会を重ねるだけで、物事の本質を突いた解決策を提示できていません。
NATOは軍事介入する可能性を否定していますが、むやみに軍事介入すれば、シリアと親密な隣国イランを不必要に刺激し、イランを巻き込んだ戦争の発端となる可能性があります。
まずは、国際社会は一致した対応をとり、シリア国民が自らの力で自由を手にすることを支援すべきです。
また、武力介入が行われる場合、その主力は2011年3月に行われたリビアにおける軍事作戦と同じように、アメリカ軍よりも北大西洋条約機構(NATO)が主体となった欧州連合軍が主体になるものと推測されます。
では、日本は責任ある大国として、どのようにシリアの問題に関して関わっていけばよいのでしょうか。
シリアの「内戦をいかに終わらせるか」も重要ですが、日本政府としては、内戦後のシリアの復興シナリオをいかに描くかが重要です。
例えば、2011年に長期間の独裁政権から解放されたエジプトでは、選挙で選ばれたモルシ大統領と長年政権を維持してきた軍部との争いが始まり、市民の自由が遠のいています。
「アラブの春」は「独裁政権からの解放」だけが目的で、その後の「国家ビジョン」が無かったことが、改革が行き詰まっている原因です。日本はキリスト教国にもイスラム教国にも分け隔てなく接することのできる数少ない国です。
日本は内戦後のシリアが、自身の自助努力によって、いかに繁栄を手にすることができるかを考え、支援していくべきです。
なぜなら、「アラブの春」と呼ばれる一連の革命の発端は、高失業率など経済失政への不満が強まり、若年層の不満が鬱積した結果起こったためであり、日本政府はシリア経済の回復・成長を支援すべきです。
シリアは反体制派が四分五裂のため、アサド政権崩壊後のビジョンが見通せない上、シリアは石油資源が少なく、近い将来の枯渇が心配されているため、復興に向けてはEU、日本、湾岸産油国などによる支援が不可欠です。
米シンクタンクのヘリテージ財団は、アサド政権崩壊後、米政府は、欧州の同盟諸国や日本、アラブ湾岸産油国と手を携えて、シリア安定化に向けた支援を進め、シリア国民が日常生活を取り戻すのに貢献すべきだと提言しています。(7/2ヘリテージ財団「American Leadership Needed for Shaping a Post-Assad Syria」)
今後、日本が行うべき国際社会に対する貢献は「内戦の原因を根絶する」という戦略的な目標を立て、その国の国民自身が自らの自助努力によって経済的な繁栄を手にできるように支援していくことが重要です。
(文責・佐々木勝浩)