「税と社会保障の一体改革」の正体
政府は1月6日に社会保障改革本部(本部長・野田佳彦首相)を開催し、「税と社会保障の一体改革」素案を決定しました。
特徴的に挙げられるのは、消費税増税の具体的な時期が明記されたことです。リーマン・ショックなどの世界的な経済危機が起きない限りは、2014年4月に8%、2015年10月には10%へと引き上げることが素案に明記されています。
自民党と公明党が解散総選挙をちらつかせているので、そう簡単に消費税増税法案が可決する可能性は低いと考えることができますが、大事なのは政局ではなく、中身を吟味することです。
もし、自公両政党が、解散を実施しても、素案自体に賛成であれば法案は可決されることになります。野党にとっては、政権交代をする最大の機会ということもあり、野田首相を揺さぶる機会としているのは明らかです。
元々、2009年の麻生政権時代には、自公政権が消費税増税を主張していることからみて、基本路線は賛成と考えるのが自然です。
さて、特筆するべきは、「税と社会保障の一体改革」の増税案は消費税だけではないということです。
例えば、所得税の最高税率を40%から45%へ引き上げ(課税所得5000万円超に適用)、年少扶養控除廃止、相続税最高税率55%への引き上げ、地球温暖化対策税の創設まで触れられています。
これでは「増税ラッシュ」であり、日本が重税国家への道を歩んでいるのは明らかです。
一方、低所得者への年金加算や医療・介護保険料の軽減、年金受給資格を25年から10年へ短縮など、国民にとっては甘い「アメ」の部分も用意されています。
国民には、「アメ」でひきつけて、実は「ムチ」としての増税を仕掛ける狡猾さを見抜く必要があります。
確かに、国民は政府からお金をもらえれば嬉しいでしょう。「子ども手当」にせよ、公立高校の授業料無償化にせよ、年金・医療・介護にせよ、国民負担が見かけ上減るならば強く反対しません。
福祉には人命を守るマストの役目もあるので、全てが間違っているわけではありません。
ただし、注意しなければ、必要以上に国民の要求がエスカレートする可能性が高いのです。例えば、子ども手当を毎月あたり1万3000円もらえれば、次は1万5000円欲しいのが人情です。
政治家も、甘い約束をすれば票になるので、バラマキ合戦に乗ります。実は、メディアで報道される「毎年1.3兆円ペース増え続ける社会保障関係費」とは、政府の無駄遣いと国民の要求がエスカレートしていることと関連があります。
さらに、特筆するべきは莫大な公費投入です。拙著『日本経済再建宣言』第3章でも触れましたが、医療保険給付費全体の約4割に公費が投入されています。
特に、後期高齢者医療制度や国民健康保険の給付費の半分は税金です。国民年金でも、2004年以降は国庫負担が3分の1から2分の1となっています。
要するに、保険料収入では足りないために、莫大な税金によって補填されているわけです。
さらに、政府は赤字国債を発行して不足財源を確保しているわけですが、さすがにこのまま維持することは困難です。そのため、「選択と集中」と呼ばれる支出の見直しが急務となるわけです。
やはり、社会保障の改革には、幸福実現党が主張する経済成長による税収増もセットで考えるべきです。
また、家族や宗教による福祉分野への貢献、生涯現役構想に基づく定年75歳社会への移行、積立方式による現役世代の負担軽減など考慮するべきでしょう。
さらには、単なる財源論に終始せず、「生涯現役社会」の建設や「ピンピンコロリ」を迎えるよう人生観や死生観などの普及も視野に入れ、あらゆる角度から検討をしていくべきだと考えます。
様々な視点から社会保障改革を論じてきましたが、最後に結論を端的に述べます。
国民のバラマキへの「タカリ」の精神と政府による私有財産の「ボッタクリ」を助長するのが「税と社会保障の一体改革」の正体です。
そこには、何も「未来ビジョン」もなければ、成長に寄与する政策もありません。単なる所得の再分配だけならば財源は無限に増え、日本は「重税国家」「国家社会主義」へと向かうだけです。
だからこそ今、政府による「増税ラッシュ」に反対をしなければいけないのです。
(文責・中野雄太)